第576話 ゴートの指輪
カリオストロ公国を支配する伯爵の目的は、伯爵家と公爵家に伝わる二つの指輪が秘めた魔法による、無敵のゴーレムの起動だった。
公爵家の生き残りとして指輪を受け継ぐクラリス姫と、彼女を守って戦う怪盗ルパン。
そして伯爵による偽札の陰謀の阻止を図るエンリ王子と仲間たち。
だが伯爵は、クラリスを人質にとって指輪を奪い、これと自らが持つ指輪を使い、ついに起動したゴーレム。
それはカリオストロ城そのものが変形した、巨大な人型魔導兵器。
フランス駐留軍を一瞬で壊滅させた、それを操る伯爵はもう居ない。
ゴーレムは街を踏み荒らして暴走を始める。
そんな様子を上空のファフのドラゴンから見下ろし、エンリは焦り声で言った。
「どうしよう。何とかしてあれを止めないと・・・」
「けど、どうやって・・・」とリラは不安声で・・・。
「ファフ、頑張る」
そうドラゴンの姿のファフが言うと、エンリは困り顔で「いや、お前でも無理だと思うぞ」
ケットシーの姿のタマが言った。
「これは世界の終わりよ。人類は滅亡して、猫が世界を支配する時代が始まるのよ」
エンリ達、声を揃えて「それは絶対に無い」
タルタが「毒を吐く植物の森が腐海とか呼ばれて・・・・・」
ニケが「廃墟の街をバイクに乗ったモヒカンマッチョがヒャッハーとか叫んで・・・」
カルロが「顔色の悪い独裁者がガミラスとかいう空飛ぶ艦隊を・・・」
クラリスは困り顔で「何の話ですか?」
「とにかくあの口から吐く炎、どうにかしなきゃ」
そうジェーンが言うと、カルロが「きっと弱点がある筈だよ」
ムラマサが「うなじでござるな?」
エンリは残念顔で「違うと思う」
「起動したのは頭部にあったヤギの像です」
そうクラリスが言うと、若狭が「それが弱点?」
マーリンが「あの炎は私が何とかするわ」
「生半可なシールドじゃ保たないと思うが」
そうルパンが言うと、マーリンは「口から吐くんだから口を閉じさせてしまえばいいのよ」
「つまりお口チャック」と言って全員、納得顔。
マーリンは箒に乗ってゴーレムの斜め上方に接近し、口の部分に金縛りの魔法をかけた。
そしてファフのドラゴンがゴーレムに接近し、その頭上からニケが携帯砲で攻撃。
タルタが鋼鉄砲弾で跳躍し、体当たり。
リラとアーサーも攻撃魔法を放つ。
エンリは炎の巨人剣で切りつける。
が・・・・・・・。
「効いてないな」
びくともしない巨大なゴーレムを前に、エンリは困り声で・・・。
アーサーも「あれ、相当硬いですよ」
するとジロキチが「俺たちなら剣で、鉄だって・・・・・」
「だったらこれだな」
そう言ってとり出した立体機動魔道具を背中に装着した、ジロキチ・若狭・カルロ・ジェーン。
それぞれ、射出した水銀のワイヤーを手繰り、宙を舞ってゴーレムのあちこちに取り付いて、剣を突き立てた。
だが、その煉瓦の体表面は堅く、しかも分厚くて刃は深部に届かない。
ファフのドラゴンが接近し、炎を吐いて牽制する。
それに手を伸ばして捕まえようとするゴーレム。
どの攻撃も焼け石に水だ。
エンリはゴーレムの額の文字盤に視線を向けた。
そして「ルパン、火矢は行けるか?」
「生憎と燃料切れだ」
そうルパンが答えると、彼は「だったら・・・・・・」と言ってリラに目配せ。
リラはウォータードラゴンワイヤーの呪句を唱えた。
召喚した水の紐が伸びて、ゴーレムの頭部に取り付く。
「これで額の文字盤に取り付いて叩く。あれが弱点なんだよな?」
そうエンリが言うと、クラリスが「私も行きます」
そんな彼女にルパンは「君は戦えないだろ」
「あの指輪はカリオストロのものです。私にも何か出来るかも知れない」とクラリスは訴える。
「解った」
リラ・エンリ・ルパン・クラリスの4人が、リラが召喚した水の紐の端を掴む。
リラの呪文とともに、水の紐は一気に縮んで四人はゴーレムの頭部に取り付いた。
額の部分にある文字盤のヤギの彫像。その右目には伯爵の切断された手首がぶら下がっている。
その額にルパンが短剣を突き刺そうとするが、びくともしない。
エンリが炎の魔剣を突き立てるが、これも歯が立たない。
エンリは言った。
「これって公爵家を守るためのものなんだよな?」
リラが「動かしているのは指輪の主の思念の影でしょうね」
「つまり、伯爵の残留意思って事かよ」
そうルパンが言うと、クラリスが「精神魔法でどうにかできないでしょうか?」
エンリは思考した。
(ゴーレムってのは粘土の人形だ。そして、こいつは煉瓦で造られた城の変形)
そして彼は言った。
「俺が土の魔剣でこいつと一体化して、橋渡しになってやる。リラ、この二人の精神を繋げてくれ」
「解りました」
エンリは土の魔剣を抜き、剣と自分との一体化の呪文を唱えた。
「我、我が土の剣とひとつながりの宇宙なり。深淵に潜みたる大地の魂。共に向き合う実在たりてその在り処に我を誘え。感応あれ」
目の前に見える大地の剣の裏に暗闇を感じ、その息遣いを感じる。無秩序な心の波動が何かを訴えているのを感じる。
(これが大地の魂)と、彼は脳内で呟く。
エンリはヤギの彫像の二つの目の間に剣を突き立て、剣とゴーレムの一体化の呪文を唱えた。
「汝土の人形。深淵に宿りし荒ぶる魂。マクロなる汝、ミクロなる我が土の剣とひとつながりの宇宙たれ。大地が産み落としたる金剛の腕駆り立てし内なる嵐。我を受け入れ我と対話せよ。潜心あれ」
エンリを見守っていたリラが、ルパンとクラリスに言った。
「エンリ様の精神がゴーレムの深層と繋がりました。これからお二人の精神をエンリ様の居る場所に送ります」
リラは左手をエンリの額に当て、右手をルパンとクラリスに差し出す。
二人がその手を握ると、リラは精神魔法の呪文を唱えた。
ルパンとクラリスは、気が付くと、ぼんやりとした光の中に居た。
その光の中で、男の子が泣いている。
「あなたは?」
そうクラリスが問うと、彼は「僕はラザール」
「どうして泣いているの?」
そうクラリスが問うと、男の子は「嫌われちゃった。その子と結婚しなきゃいけないのに」
「その子が好きなの?」とクラリス。
男の子は「父上が言ったんだ。その子が僕のお嫁さんになるんだって」
クラリスは言った。
「そんなの間違ってる。自分のお嫁さんは自分で選ばなきゃ」
「けど・・・・・・」
「それに、その子、好きな人が居るよ」
そうクラリスが言うと、男の子は「僕じゃ駄目なの? 僕、頑張って強くなるよ」
クラリスは「強くなって、何をするの?」
「世界一強くなって、世界中の人を家来にする。そうすれば、あの子だって僕を認めてくれる」と男の子。
クラリスは「力づくなんて嫌われちゃうわ」
男の子はムキになる。
「嫌われたって構うものか。彼女は僕の所有物になるんだ」
そんな彼にルパンは「お前、その子と居て楽しいか?」
「けっこう疲れた。けど、強くなれば言いなりにできる。機嫌とる必要なんて無くなるんだ」
そう男の子が答えると、ルパンは溜息をつき、そして言った。
「あのな、好きってのは、一緒に居て楽しいから好きになるんだぞ」
「おじさんは好きな人は居るの?」
そう男の子が問うと、ルパンは「いっぱい居るぞ」
「けど風俗女だよね?」と男の子は突っ込む。
「お兄さんを好きになる人は死んじゃうからな。けど、俺は俺さ。誰かに認めて貰う必用なんてどこにあるよ」
そうルパンが言うと、男の子は「それってボッチって事?」
そんな彼にルパンは「ボッチってのは友達の居ない奴を言うんだ。力で従えるのを友達とは言わない」
「けど、価値があってステータスが高くて、一緒に居れば得な奴なら・・・・・」
そう言う男の子にクラリスが問う。
「だったらその子にどんな価値があるの?」
男の子は「指輪がある」
「指輪じゃなくて、その子自身はどうなの? 指輪は強くなるためよね?。強くなるのは、その子を手に入れるためよね?。けど、その子を手に入れたいのは何故?。お父様にその子と結婚しろって言われただけ?。あなたにとっての、本当に一緒に居たい女の子の価値って、自分が一緒に居て楽しいと思える事よね?。そんな人を見つけなきゃ。それできっと幸せになれるよ」
そうクラリスに言われ、男の子は不思議そうに彼女に問う。
「お姉さん、僕に幸せになって欲しいの?」
「みんなが幸せになれる場所だから、私も幸せになれるの。あなたもその一人だよ」
そう言って、クラリスは男の子の頭を撫でる。
男の子の表情から涙が消え、笑顔に変わるとともに、彼の姿が消えた。
彼等の頭上からリラの声が聞こえる。
「エンリ様、ゴーレムが崩れます」
「戻るぞ」とエンリの声。
彼等の意識がゴーレムの頭部に居た肉体に戻った時、ゴーレムの崩壊は始まっていた。
立ち尽くしたまま崩れていくゴーレムから離れて、ファフのドラゴンに乗り移るエンリたちとルパン、そしてクラリス。
彼等は地上に降りた。
一夜明けた頃には、巨大ゴーレムが立っていた場所は、完全な瓦礫の山と化していた。
その中に、壊れかけたヤギの像。
その両目の部分に金と銀の指輪。そして金の指輪についていた伯爵の左手が、するりと指輪から抜け落ちた。
その左手を拾って袋に納め、ヤギの両目から指輪を外すマーリン。
「その指輪って・・・・・・」
そうエンリが問うと、クラリスは言った。
「父が先代の伯爵と、私たちの婚約を取り決めた時、婚約指輪としてそれぞれの左手に嵌めたんです。けして外れない呪いの指輪を使い、皇帝家とプロイセンの争いからカリオストロを守る強力な宝具を手に入れる鍵とするため」
「その呪いで男嫌いに?・・・」とニケ。
アーサーが「じゃ、伯爵があれこれやらかしたのも・・・」
街の城門が開いて、完全武装の兵たちが乗り込んで来る。
そんな様子を瓦礫の山の上から眺めるエンリたち。
「フランス軍、やっとお出ましかよ」
そうルパンが言うと、エンリは「駐留軍は壊滅しちゃったからなー」
「あれ、ガニマール警部・・・・・・」と、アーサーが駐留軍と一緒に乗り込んで来た一人の男を指して・・・。
「俺、行くわ」
そう言って背を向けようとするルパンの、上着の裾を掴んで、クラリスは「連れていって下さい」
「いや、前にも言ったけど、俺と付き合う女は・・・」
そう困り顔で言うルパンに、クラリスは必死に訴える。
「私、自分の身くらい自分で守れます。魔法だって使えるし、泥棒も覚えます」
「けどなぁ・・・・・・」
ルパンに抱き付くクラリス。
彼女の背中に回そうとする自分の両手を、必死に止めるルパン。
そして彼はそっとクラリスの両肩に手を置いた。
「気持ちは嬉しいんだけど、空気読もうよ」
クラリスは周囲に居るエンリたちに「皆さん、反対しませんよね?」
「・・・・・・」
更に彼女は「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじゃうんですよね?」
「・・・・・・」
更に「恋愛は自由なんですよね?」
「で、カリオストロ公国はどーなる?」
そうルパンが言うと、クラリスは「女王の地位なんて要りません」
「けど、周囲見てよ。ゴーレムが荒らした町を復興しなきゃいけない」とルパン。
青くなるクラリス。
「プロイセンは介入して来るだろうし、偽札騒ぎの後始末はどーすんの?」とルパンは追い打ち。
更に青くなるクラリス。
「フランスも、駐留軍を壊滅させた責任追及して来るだろーし」と更に追い打ち。
クラリス、ヒクつく作り笑顔を浮かべ、冷や汗声で「それ、私がやらなきゃ駄目ですか?」
エンリたち、声を揃えて「駄目!」




