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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第573話 魔城の迷宮

カリオストロ公爵領は実質的にはプロイセンの属国だったが、建前上は独立したドイツ諸侯領の一つだ。

現在はライン連邦に所属し、プロイセンが連邦諸領へ秘密裡に介入する際の裏の玄関となっている。

クラリスの父のカリオストロ公爵の死後、その分家である伯爵が実権を掌握した。



この国がフランス経済の裏からの破壊を目論む偽札工作の策源地であると見たエンリ王子たちが、拠点としているポルタ商人の商館の一室。

エンリ、そして彼が率いる部下たちと向き合うのは、ここで合流したカルロとニケ、そしてマーリンとともに、怪盗ルパンと彼が結婚式場から救出したクラリス姫。


「それでエンリ王子に頼みがある。彼女をポルタに亡命させてやってくれ。伯爵は政略結婚で入り婿としてここの王になる・・・って筋書きだが、奴の本当の目的は彼女の指輪だ」

そう語るルパンにエンリは「お前の目的もその指輪だよね?」

「そうです。おじ様は伯爵と違って、私に手を出したりしません。私を道具扱いする伯爵から何度も救おうとしてくれました」

そう語るクラリスを他所に、エンリは改めてルパンに問う。

「随分懐かれてるけど、指輪が目的・・・って点では、お前も同じなんだよね?」


マーリンが言った。

「これは魔法の指輪で、けして外れないわよ。そして、悪用すれば大変な事になるわ」

「で、マーリンの目的がその魔法?」とエンリ。

「まさかその伯爵じゃ無いよね?」

そうアーサーが冗談めかして言うと、マーリンは「渋い悪ボスってのも魅力的ではあるけどね」

「おいおい」


「けど何度も・・・って」とリラが言うと、クラリスは語った。

「私がまだ幼かった頃、父が先代の伯爵と盟約を交わしたのです。公爵家と伯爵家が持つ一対の魔法の指輪の魔力を使って、皇帝家とプロイセンの対立からカリオストロ領を守るために。その時、私は彼の許嫁にされました。彼はまだ若かったけど、冷酷で、私は彼が大嫌いでした。父を殺したのも彼なんです」

「そーだろーね」とエンリたちは頷く。

「俺はその話を聞いて、お宝の指輪を狙って返り討ちに逢ったのさ。その時に重症を負って、幼かった彼女に助けられた」とルパン。

クラリスは「庭師の犬のカールが見つけてくれたんです。その後、何度も私を助けに来てくれました。落とし穴で地下の迷宮に落ちた事もありましたよね。そこを抜け出して印刷所みたいな所を通って、私を助け出そうと・・・」


エンリは溜息声でルパンに「お前ほどの奴が・・・・・」

「強力なアサシン部隊が居るのさ。特殊な鎧を来た奴等で・・・」

そこまで言いかけたルパンの言葉を遮るように、エンリは言った。

「ちょっと待て。印刷所みたいな所って・・・。それ、偽札工場だぞ」

エンリと仲間たちの表情が真剣みを帯びる。


「入れないかな?」

そう呟くように言うエンリに、クラリスは「公爵館の地下から続く抜け道があります。私が案内します」

「君は危険だ」

そう言って彼女を止めようとするルパンに、クラリスは「あの通路を使えるのは、公爵家の血を引く私だけです」

そして彼女はエンリに言った。

「そこで偽札の証拠を掴んで、伯爵を倒すんですよね?」



翌日の夜・・・・・。

エンリたちはクラリスの案内で、ルパンとともに公爵館の廃墟に潜入した。


地下への階段を降り、クラリスは地下室の煉瓦の壁に手を当てると、隠し扉が現れ、その奥に石積みの地下通路が続いていた。

やがて行き止まりになる。その石壁に彼女が手を当てて呪文を唱えると、魔法陣が現れ、隠し扉が開く。

陰鬱な広い通路の至る所に、ボロボロの衣服を纏った骸骨が横たわっていた。

そんな光景に視線を向けると、クラリスは言った。

「何百年もの間、多くの人が伯爵家の裏工作の犠牲になりました」

「それで、印刷工場って?・・・」

そうエンリが言うと、ルパンは「こっちだ」


角を曲がり、横道に入った所が行き止まりになっている。

それを見てルパンは「おかしい。ここに石段があった筈なんだが・・・」

「改築でもされたか?」とエンリ。


その時、リラが場に漂う魔力の変調を察知した。

「この迷宮、生きています」

「じゃ、通路とか変わって・・・・・」とエンリ。

「戻りましょう」

そうアーサーが言うと、マーリンが「いや、来た道も塞がれているんじゃ無いかしら」



「その通りだ」

声のした方向を見ると、通路の向うに10数名の人影。

そして背後にも・・・。

謎の防具に身を固め、両手の指に鋭い鉄の爪が伸びている。

彼等を見て、ルパンが身構える。

「こいつらはカゲだ。手強いぞ」


ルパンは短銃を連射し、杖に仕込まれた剣を抜いて彼等と切り結ぶ。

だが、襲いかかるカゲたちが纏う、特別製の軽量化の魔法のかかった鎧で、剣も銃弾も跳ね返した。


一方、ジロキチが4本の刀で、カゲたちを鎧ごと一刀両断。

「な・・・」

唖然とするルパンを他所に、妖刀化したムラマサを振るう若狭も、カルロのナイフも、カゲたちを鎧ごと切り裂いた。

エンリが風の魔剣と一体化した素早さでカゲたちを翻弄し、ケットシーのタマがカゲたちの間を跳ね回って、攻撃魔法で攪乱。

ニケの銃弾が彼等の鎧の関節部分を狙う。


カゲたちは距離をとって水の矢を放とうとするが、アーサーが妨害魔法でそれを防ぎ、リラが水の波濤で薙ぎ倒した。

ずぶ濡れになったカゲたちをマーリンのサンダーボルトが襲い、彼等は感電して気を失った。



ルパンは気を失って倒れているカゲたちの一人を指して、「こいつが指令官だな」

「どうする?」

そうエンリが言うと、アーサーが「記憶を覗けば出口が解ると思いますよ」


そんな彼等にルパンが「それよりお前等、その刀で鉄を切れるのか?」

ジロキチが得意顔で「剣の達人は気合と剣筋で、敵の刀を真っ二つに出来るのさ」

「そんな事が出来るのかよ。すげー」と感心顔のルパン。

「ジパングの剣術の奥義って奴さ。天を翔る龍の煌く光の速さで九つの斬撃を同時に打ち出し、敵は避ける事も受ける事も出来ずに確実に倒れる」とジロキチは続ける。

「すげー」と感心顔のルパン。


「裕二殿が打ち直して、斬鉄剣にしてもらったでござるよ」

そう種明かしするムラマサの後頭部を、ジロキチは思い切り殴った。

「ねえねえ、ファフもドラゴンで空を飛べるんだけど、光の速さで無敵なんだよね?」

そう言ってエンリの上着の裾を掴んではしゃぐファフに、エンリは残念顔で「あれはジロキチのいつものフカシだ」


そんな茶番をエンリ達が演じている間に、マーリンはカゲの司令官に精神魔法をかけ、その記憶を読む。

「出入りの仕方は解ったわ。こっちよ」



マーリンが石壁の隅を押すと、隠し扉が開き、階段通路が現れた。


通路を出ると広い部屋。印刷機が並んでいる。

そんな光景を見て、エンリは呟いた。

「これが偽札工場だな」

カルロは印刷機の一つを調べ、「これ、原版だよね」と言って、そこにセットされていた原版を取り外し、エンリに示す。

それを見てエンリは「間違いなくアシニア紙幣だ」



印刷機の並ぶ部屋の隅に、上に向かう階段がある。

そこを登って扉を開くと・・・・・・・。

広間に伯爵とカゲの一団が待ち構えていた。


「捕らえろ」と伯爵は号令し、カゲたちは襲いかかった。

エンリと仲間たちはそれぞれ、武器を執って応戦し、熾烈な戦いが始まった。

エンリはクラリスを横目に見ると「ルパンは姫を連れてここを出ろ」

「言われなくてもそうするさ。来い、クラリス」とルパン。

「皆さん、御武運を」とクラリス。



ルパンは背に火矢を装着し、クラリスを抱えて窓を破って宙を飛んだ。

だがその行く手には、宙に浮く伯爵が立ち塞がる。

「飛行魔法かよ」

そう言って身構えるルパンに、伯爵は「クラリスは返して貰うぞ」

ルパンは「やなこった。彼女は彼女のものだ」


伯爵は短銃を抜いてルパンに銃口を向け、引き金を引いた。

伯爵が打ち出す銃弾を、ルパンは火矢を操って巧みに避ける。

ルパンは火矢で、伯爵は飛行魔法で、高速で宙を飛びながら互いに短銃を撃ちあう。


やがて、ルパンの撃った弾丸が伯爵の胸を貫いた。

撃ち落とされて草原に墜落する伯爵。


ルパンはクラリスとともに、地上に横たわる伯爵の近くに降り立つ。

短銃を握り、確認しようと近づくルパンに、クラリスは「おじさま、気を付けて。彼は死んではいません」

「まさか・・・・・」


その瞬間、伯爵の右手が動き、その手に持った短銃が火を噴いた。

銃弾はルパンの胸を貫き、彼は倒れた。

「おじ様!」

そのクラリスの悲痛な叫びを耳にしつつ、彼は気を失う。



ルパンが気付いた時、彼はエンリ王子たちと庭師の家に居た。


「俺は・・・。そうだ、クラリスは?・・・」

跳ね起きようとして胸の痛みを感じ、思わず傷口を抑えるルパン。

「おとなしく寝てろ」

そう言う庭師にルパンは「こんな傷、すぐに治る。三日もあればジェット機だって治らぁ! それより食い物だ。血が足りねぇ」

「解った」

そう言って庭師が部屋を出る。


そしてリラがルパンに治癒魔法を施す。

「そーいやここは魔法もあれば魔物も居るファンタジー世界だっけ」


気の抜けた雰囲気が漂う中、庭師が「食い物を持ってきたぞ」・・・・・・。

残念な空気の中、テーブルに山盛りの肉料理を食べるルパン。


「それで、クラリスは・・・・」

そうルパンが言うと、マーリンが「あの指輪には呪いがかかっているわ。ある条件をクリアしないと、けして外れない。その呪いで持ち主を守るのよ」

「けど、伯爵も対になる同じ指輪を嵌めているんですよね?」とリラ。

アーサーが「だったら奴は不死身って事になるのか?」

「そういう事か。それで奴は死ななかったと・・・」とルパン。

エンリが「どーでもいいが、食べるかしゃべるかどっちかにしろ」


いきなり、食べ物を喉を詰まらせるルパン。

口の中のものを呑み込もうとするルパンに、エンリは「言わんこっちゃない」

ファフが「食ったから寝る・・・とか、言わないよね?」

「・・・・」


ルパンは、気持ちを落ち着けようと、煙草を探してポケットの中を探った。

煙草の箱と一緒に、何かが出て来る。

それを手に取って見ると手袋だ。


薬指の所に、何か固いものがあるのに気付くルパン。

出て来たのは指輪だった。

「これ、クラリスの指輪・・・・」と呟くルパン。

全員唖然。

「外れてたのかよ」



伯爵の城では・・・・・・・。

伯爵の寝室のソファーにクラリスは居た。


伯爵はワインのグラスを片手に、彼女を監視するような視線を向けている。

「今度こそ結婚して、俺のものになって貰うぞ」

そう伯爵が言うと、クラリスは「あなたは指輪が目当てなのよね?」


伯爵は威嚇を込めて「その指を切り落として俺のものにする事だって・・・・・」

「魔法がそれを阻止します。それに・・・・・」

そう言いながら、クラリスは目を逸らし、左手を隠すように後ろに回す。

その不自然な動作に違和感を感じた伯爵は、彼女の左手が手袋をはめていなかった事に気付いた。


「左手、見せてみろ」

そう言って彼女に詰め寄る伯爵は、抵抗するクラリスの左手を掴む。

その薬指を見て、伯爵は驚愕の表情を浮かべた。

「指輪が無い。何故外れた?」

「解らないけど、指輪はおじ様が持っています」とクラリスは言って、気丈に伯爵を睨む。


伯爵は荒々しく寝室のドアを開け、廊下に居る部下に命じた。

「ルパンがクラリスの指輪を奪った。草の根を分けても探し出せ!」



ルパンの居る庭師の家では、マーリンが指輪を解析していた。

水晶玉に映る古代文字列を読み解く。


やがて彼女は、文字列の一節を示して「これはゴーレムを起動する鍵の術式ね」

「それがこの国を守るっていう指輪の魔法かよ」

そうタルタが言うと、若狭が「けど、ゴーレムなんてもう時代遅れなのよね?」

「まあ、皇帝軍の魔導士が使うような代物とは訳が違うだろーさ」とエンリ王子。



一通りの解析を終えると、マーリンは言った。

「伯爵が持つ、もう一つの指輪とセットで起動する仕様になっているわね」

「つまり、お宝はもう一つ必要って訳だ」とタルタ。


「それで呪いって、ある条件で外れるんだよね? どんな条件なの?」

そうエンリが言うと、マーリンは「恋を知る事・・・ね」

「それじゃ呪いって・・・」とリラ。

「貞潔・・・・・」

そうマーリンが答えると、全員、顔を見合わせる。

「つまり男嫌い・・・・・」



伯爵の城では・・・・・・。


伯爵は自室で、ワインのグラスを片手に、窓の外を見ている。

次第に怒りに染まっていく、彼の表情。

「あの指輪が外れたという事は・・・。ルパンの奴、絶対に赦さん!」

そう言って伯爵は、グラスを床に叩きつけた。

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