第572話 怪盗と花嫁
三帝会戦でドイツ皇帝を屈服させたナポレオンがドイツを解体し、諸領邦国をライン連邦として保護国化する中、反撃を目論むプロイセンの策動が始まった。
それは、水面下で彼に通じたカリオストロ公国の支配者カリオストロ伯爵を使った偽札大量製造。
そして・・・・・・・・。
ポルタ城のエンリ王子の元に、フランスからリシュリューが訪れた。
「どうもアシニア紙幣が過剰に流通しているようなのです。通貨がだぶついて経済が混乱しつつある。異変を感じて金交換を求める者も増えて、このままでは大変な事になります」
そうエンリの執務室で訴えるリシュリューに、エンリは「きちんと流通量の管理はしているのですよね?」
「その筈なのですが・・・・・」とリシュリュー。
エンリは暫し思考を巡らせる。
そして「もしかして偽札?」
リシュリューは本題を切り出した。
「聞くところによると、ポルタ紙幣には偽札作りを絶対に不可能とする仕組みがあるとか」
「そんな工夫はどこでもやっていますよね?」
そう突っ込むエンリに、リシュリューは「精巧に作るのなら、偽札作りも同じ技術を使えばいい。けどポルタの紙幣は、全く同じものを作っても消えてしまうとか」
エンリは「どうしてそれを?」
「・・・・・・・・」
その場に居たニケが指摘する。
「実際に偽札を作れば解る事よね?」
「まさかポルタ紙幣を・・・」
そう不信顔で問うエンリに、リシュリューは「そそそそんな事する訳無いじゃないですか。それに、単に儲けたいってだけなら、あなたの所の航海士とか、やりかねませんよね?」
「まさか・・・・・・」
その場に居る全員、ニケに視線を向ける。
わざとらしく口笛を吹いて視線を逸らすニケ。
反論できないエンリであった。
「けど、儲けが目的ではないとすると・・・」
そう、控えていたリラが言うと、アーサーが「つまり、アシニアの過剰による経済の混乱自体が目的?」
「そんな事を考える奴は一人しか居ない」
そう呟くエンリに、リシュリューは「あなたはスーパーKというのをご存じですか?」
「カルロを呼べ」
そうエンリが言うと、アーサーが「それが、野暮用があるとかでドイツに行ってまして」
リシュリューがポルタ城から退出すると、エンリは海賊団の仲間たちを集めた。
そして、フランスから持ち込まれた件に関して、作戦会議。
「フランスなんて放っておいたらどーよ」
そうタルタが言うと、ジロキチも「まぁ、プロイセンはドイツを取り戻したいだけなんだし・・・」
するとニケが「いいえ。偽札で儲けるなんて許せないわ」
「お金儲けにもポリシー・・・って訳ですね?」
そう若狭が言うと、ニケは拳に握り締めて力説した。
「そんな美味しい儲けを私以外がやるなんて、絶対に許せない!」
(この女は・・・・・・)と、その場に居た全員、脳内で呟く。
残念な空気が漂う。
そんな中、エンリが言った。
「俺は阻止すべきだと思う。紙幣は金属の産出量を越えて経済を発展させるものだ。そのシステムそのものを破壊するやり方を放置すれば、世界は大きく遅れるぞ」
するとアーサーが「けど、ポルタだけが模造不可能な造幣技術を持っていれば、ポルタの紙幣が世界に流通して、基軸通貨として頂点に立てますよ」
「確かに・・・」
そう言って真顔で頷くエンリに、アーサーは慌てて「本気にしないで下さいよ」
「けど美味しい話よね」とニケ。
そんな中、リラが言った。
「それよりイザベラさんは、この件をどう考えるんでしょうか」
エンリは「まあ、何か考えてるにしても、どーせろくでもない事だろうけどな」
「多分、情報は掴んでると思いますよ」とリラ。
エンリは通話魔道具で、スパニアの宮殿に連絡をとった。
「スーパーKというのを知ってるか?」
そうエンリが切り出すと、イザベラは「フリードリヒがそれでアシニアの偽札を作って、フランス経済にダメージを与えようとしている・・・って件よね?」
エンリ、唖然声で「何で知ってる?」
「ドイツのどこで作られているか知りたいのよね?」とイザベラは直球をぶつける。
「・・・・・・・・・」
そしてイザベラは言った。
「カリオストロ公爵領よ。向うにマーリンが行ってるわよ」
「イケメンでも居るのか?」
そうエンリが言うと、イザベラは「渋い悪役キャラも捨てがたい・・・とか言ってたけど、彼女の狙いはゴートの指輪という宝具が持つ魔法よ」
エンリたちはカリオストロ公国へ向かった。
カルロは相変わらず不在。
途中でニケは別行動と言い残して姿を消した。
首都に着くと、とりあえずみんなで酒場で食事をとり、一息ついた所でエンリは「とりあえず王城へ行って見るとするか」
店主から行き方を教わり、地図を手に入れる。
「向こうに二本の尖塔のある城がありますよね」
そう言って店の前で店主が指す方向を見る。
城の中央の、かなり高い煉瓦造りの建物の左右に、高い尖塔。その間に低い尖塔が立つ。
「あれは政治の中心だけど、公爵様が居た館は別にありましてね」
そう店主が言うと、エンリは「その場所に行ってみたいんだが・・・」
場所を教わり、公爵の館に向かう。
行くと廃墟になっており、庭師が庭園の手入れをしていた。
「観光客かい?」
そう声をかけた庭師に、エンリは「ここは公爵の城だよね?」
「数年前、火事で公爵様一家が全滅して以来、この有様だけどね」と庭師。
「公爵って王様だよね?」
そうファフが言うと、庭師は「摂政が居るから平気なんだってさ」
「ってか、今はライン連邦の一部になっている筈だが」
そうエンリが言うと、庭師は「その前から実質、プロイセンの属国さ。あの事件がきっかけで、実権を握った摂政がベルリンの手下をやってるよ」
タルタが「摂政って?」
「分家のカリオストロ伯爵だろ?」とエンリ。
庭師は「あの一族は代々、あの城に住んで管理人やってるよ」
「そういう事か」とエンリは頷く。
廃墟を去るエンリたち。
歩きながらエンリは言った。
「偽札工場はその伯爵の居る城の中だろうな。紙幣は国家が特別な紙とインクと原版で造る。その国家が偽札を刷るんなら、いくらでも精巧な奴を作れる」
城下の街を歩くエンリたち。
向こうに教会堂が見える。
エンリは、屋台を出している人に声をかけた。
「随分賑わってるな」
「伯爵様の結婚式があるんですよ」と屋台の主は言って、教会堂を指す。
「こんな戦時に?」
そうリラが言うと、若狭が「相手は?」
「無き公爵様の16歳の娘のクラリス様ですよ」と屋台の主。
「随分と警備が物々しいようだが・・・」
そうエンリが言うと、「その花嫁を攫おうって奴が居るって噂でして」
「まさかカルロの奴・・・」
そうジロキチが言うと、若狭も「未成年だよね?」
タルタも「あいつ、ロリコンだったのかよ」
残念な空気が漂う。
そんな彼等の背後から「勘弁して下さいよ」の声。
いつの間にか本人が居る。
「カルロ、何やってるんだよ」
そうエンリが言うと、カルロは「正義の味方ですよ」
そして「そうよ。正義はお金じゃ買えないわよ」と・・・。
いつの間にかニケも合流。
そして二人は気勢を上げる。
カルロが「16才のいたいけな少女を無理やり政略結婚。天が許してもこの世界の美少女の恋人カルロさんと」
ニケが「お金の申し子ニケさんが」
二人は声を揃えて「絶対許さない!」
そんな彼等にエンリは溜息。
そして「ニケさんの目当てって、ここの偽札だよね?」
「ななな何のことかなぁ」と誤魔化し笑いのニケ。
そんな事をやっている中、何やら教会堂の周囲が騒がしくなっている事に、エンリ達は気付いた。
「始まったな」とカルロが呟く。
タルタが「これ、お祝いって雰囲気じゃ無いよね?」
その時・・・・・。
教会堂の扉が破られ、花嫁衣裳を纏う少女を抱えた男が乗った馬が飛び出し、往来へと駆けた。
軍服を着た衛士たちの騎馬の一隊がその後を追う。
衛士たちに追われる騎乗の男を見て、エンリ達唖然。
「あれ、ルパンじゃないか」
そして、ニケは仲間に目配せする。
「カルロ、出番よ」
カルロは背嚢型の魔道具を背負うと、管で繋がった短銃のような何かを構え、建物の三階あたりに向けて引き金を引いた。
水銀魔法のワイヤーが射出され、建物の一画に取り付く。これを一気に縮め、カルロと彼に掴ったニケは引かれて宙を舞った。
ニケは空中で短銃を抜いて、ルパンを追う衛士の一人に向けて引き金を引く。
衛士は銃弾を受けて落馬。
衛士たちは花嫁を抱えたルパンを追いつつ、カルロたちに銃を向けて反撃。
カルロは別の建物にワイヤーを射出し、それを一気に縮めて飛ぶ方向を変え、衛士たちが放つ銃弾を巧みに除けた。
道路の上を飛びながら、ニケは次々に衛士たちを排除していく。
そんな様子を見て、他の仲間たちは顔を見合わせ、あれこれ・・・。
「どうしますか?」
そうワクワク顔のリラに言われ、エンリは「どうするって・・・・・」
タルタが「こんな面白い見世物を放っておくのかよ」
「おいおい」
「ファフのドラゴンで加勢しようよ」
そう本人が言い出し、エンリは慌てて「ちょっと待て。そりゃ目立ちすぎだぞ」
「あれだけ派手な大立ち回りで十分目立ってるんだから、この上ドラゴンの一匹や二匹・・・」とジロキチも・・・。
エンリは盛り上がる仲間たちを制し、「追手を案内するようなものだ。とにかく宿に行くぞ」
エンリたちは、拠点に定めたポルタ商人の商館に向かった。
その夜・・・。
ルパンと花嫁衣裳の少女、そしてカルロ・ニケ・マーリンがエンリ達の元へ・・・。
騒ぎの張本人たちのいきなりの来訪に、さすがのタルタ達も唖然。
「お前等、何で?・・・・」
そんな中、エンリは落ち着き顔で「いや、来ると思ってたよ」
来訪者の中では一番まともそうな花嫁衣裳の少女が、ドレスの裾を摘んで挨拶。
「ご迷惑をおかけします。クラリス・ド・カリオストロと申します」
「そりゃどーも。ってかルパン、彼女ってここのお姫様だよね?」
そうエンリが彼に問うと、カルロが「男のロマンじゃないですか」
「お前ってロリコン?」
そうタルタがルパンに言うと、クラリスは「おじ様を、あの伯爵と一緒にしないで下さい」
そんな彼女を横目に、ルパンは言った。
「まあ、いいけど・・・。それでエンリ王子に頼みがある。彼女をポルタに亡命させてやって欲しい」




