第571話 偽札の国
ドイツ皇帝家が三帝会戦でナポレオンに敗れた事で、皇帝家はその直轄地を統治するのみのオーストラリア帝国となり、ドイツ王の地位を名実ともに失った。
だが、これにとって代わろうとしたプロイセン王の期待に反し、ドイツは解体して、プロイセンとオーストリア以外のドイツ諸領主領はライン連邦となり、フランスの保護国としてその支配を受ける事となった。
「民主主義の伝道者」を称するフランスの支配下で、ライン連邦に属するドイツ各領邦国では、国民教育が正式にスタートした。
その目的はもちろん、民主主義を広める事である。
民主主義を教える事を目的として派遣され、生徒たちの前で教壇に立つ教師たち。
「皆さんは革命の祖国たるフランスの言う事を聞いて、このドイツを導く前衛となるのですよ。けしてフランスを怒らせてはなりません。でないと、タカサゴ島発言でシーノを怒らせたタカイチ首相みたいに・・・」
そんな能書きを垂れる教師に、生徒たちが口々に突っ込む。
「いや、怒らせたって・・・。シーノのアレは"集団安保でタカサゴ島侵略から人々の人権を守る同盟国に補給とかで協力する"って話を、"勝手に自国で派兵する"なんてフェイク話にすり替えて、わざと怒ってみせて威嚇したってだけのヤクザ外交だよね?」
「あんなので怒るシーノが悪いってみんな知ってて、あの国の与党は選挙で大勝利した訳だよね?」
そんなクラスメイトたちに、一人の女生徒が「シーノみたいな悪い国が怒っても、従わないのが民主主義なの?」
「そりゃそーだよ。民主主義の主役って俺たち国民だもの」と、他の生徒たち。
そんな生徒たちを、フランスから派遣された教師は、目を吊り上げてどやしつける。
「いいえ。平和のために他国と協調するのが、リベラルを掲げる民主主義なのです。自国の権力は私たちを抑圧する敵で監視対象であり、彼等の防衛に名を借りた武力紛争が最大の人権侵害であるという認識に基づいています。武器輸出が紛争を助長し、結果として人権を毀損することへの危惧を表明したニチー・ベーンレーン氏こそ正義。これに疑問を呈したキタムラ氏は処罰されるべきだ!」
「それってもしかして、ネットニュースのコメントでの、弁護士団体側の反論・・・ってか逆切れ?」
そんな一人の生徒に、隣の生徒が「それは言わない約束かと」
その隣の生徒も突っ込む。
「ってか、"結果として"ってんなら、それこそ侵略して来るヘイト国の利益なのでは?」
更にその隣の生徒も「侵略されて困ってる国に輸出できるくらいの武器製造能力が無ければ、国を守れないよね? それで侵略されて外国に支配されるって、それこそ人権侵害なんじゃ無いの? キタムラ氏は弁護士としてそれを危惧してるんじゃ・・・」
そして更にその隣の生徒も「そもそもフランスやシーノを怒らせるって"お気持ち"の問題だよね? 攻撃して来る外国人の都合や感情のために政治しろとか、俺たち国民のための政治じゃ無いよ。これじゃ主権在民じゃなくて主権在外だよ」
「けど、私たちの国はライン連邦でフランスの保護国ですから。ジパングだってアメリカの奴隷として可愛がられて勝ち組になったのだと、バービー香山尊師が言っています」
そんな教師の汗だくな能書きに、一人の生徒が「だから非処女のくせに純潔ぶってないで半島国や大陸国にも股開いて従え・・・って半島国脳なネトサ〇が言ってるんだろ? けどライン連邦は条約で保護国になってるけど、ジパングは対等な独立国って前提でアメリカと条約結んでるんだが・・・」
その隣の女生徒も眉をひそめて「ネ✕サヨとか半島国の奴等ってサイテーだよね」
「ま・・・・まあ、ジパングはともかく、私たちはフランスに従わなくてはなりません。でないと大陸国を怒らせたタカイチ首相のように、かの国でコンサートを開かせて貰っていた歌手のような人たちを困らせてしまいますよ」と、教師は必死顔。
生徒たち、眉をひそめて「いや、あれはそんな国の音楽市場に頼ってる歌手が悪いと思うが。自分たちの商売の都合で覇権国家の暴力的権力の言いなりとか・・・」
「仕方ないよ。ロックって汎権力で侵略のお先棒を担ぐ扇動宣伝の駒だものな」
そう一人の男子生徒が言うと、その隣の生徒も「ロックってダッセーwwwwww」
「けど、自分たちじゃ口先で反権力って名乗ってなかった?」と、その後ろの席の生徒。
生徒たち、口を揃えて「ますますダッセーwwwww」
すると一人の生徒が「俺、ロックやってるんだけど、あんなのロックじゃ無いから」
「けどカリスマなんだよね?」と、その隣の生徒。
先ほどの生徒は「それはオールドメディアのマスゴミ屑が言ってるだけ」
フランスの要求を受け、プロイセンでも学校教育が始まっていた。
フランスの外交官が国民学校の視察に訪れ、校長が対応する。
「こちらの民主化教育はどうなっていますか?」
そう問う外交官に、校長は揉み手口調で「我がプロイセンは啓蒙君主の統治が根付いた民主主義の先進国ですから」
「議会は国王の言いなりと聞きますが?」と、外交官が突っ込む。
校長は誇らしげに胸を張って「民衆は自由に声を上げており、先日もローソクデモが行われました。主催者発表では五万人が参加」
「それ、実際の参加者は数分の一ってパターンなのでは?」と更に突っ込む外交官。
校長は記憶の魔道具で、デモの映像を再生。
左手で火のついたローソクを持ち、右手で鞭を鳴らす人を先頭に、人々が隊列を組んでプラカードを持ち、スローガンを叫ぶ。
「"ピーーーー"は出ていけーーー!」
「彼等は何に出て行けと言っているのですか?」
そう外交官が訊ねると、校長は「いろいろですよ。資本家とか資本家とか資本家とか・・・」
外交官は不信顔で「まさかフランス人・・・じゃ無いですよね?」
「ままままままさか。あは、あはははは」と、校長は冷や汗をかきつつ、作り笑い。
「それより、プラカードにモザイクがかかっているのは何故ですか?」
そう外交官が訊ねると、校長は「プライバシーの保護という奴ですよ。言論の自由を守るためには必須ですから」
「で、何で鞭?」
そう外交官が訊ねると、校長は「ローソクと鞭は常にセットですよね?」
そして外交官は要求した。
「・・・・・それより授業を見せて頂きたいのですが」
校長は入口に待機していた教員に合図を送り、その教員は廊下の向こうに待機していた教員に合図を送る。
間もなく、一人の教員が現れ、彼の案内で教室へ。
教室では担任らしき教員が、当たり障りのない教科書の音読をやっていた。
外交官は、とりあえず満足して退散。
二階の窓から去っていく外交官の馬車を見送る校長。
「行ったな」
「行きましたね」と、その脇に居る教師たち。
ほっとした表情で、校長は彼等に言った。
「それでは、本来の授業を再開するとしよう」
再開された授業は、教師が子供に絵を描かせるものだ。
教師は一人の子供が描いている絵を見る。
フランスの地図に、赤いクレヨンで一面に炎を書き込んだものだ。
「これは何を描いたのかね?」
そう教師が訊ねると、子供は「破滅の火矢で憎きフランスを火の海にしています」
更に、別の子供が描いている絵を見る。
女子戦隊ヒーローがフランス国旗の鉢巻きをした人を踏みつけている。
「これは何を描いたのかね?」
そう教師が訊ねると、子供は「G-POPガールズが憎きフランス人をやっつけています」
それらの絵を手に取り、教師は言った。
「素晴らしい。これを地下鉄通路に貼り出して表彰しよう」
子供たちの一人が「あの・・・・・。地下鉄って何ですか?」
ベルリンの宮殿では、フリードリヒ王が家来たちを相手に愚痴っていた。
「オーストリアの皇帝がドイツ王の地位を失ったのだ。当然、私が王になる筈だったのに・・・。ナポレオンめ、絶対に許さん」
「ですが、フランスは強大です」
そう家来の一人が言うと、フリードリヒは「革命とかいうので自分が国の主役になったと勘違いした愚か者が、愛国者を称して志願兵になるっていうんだよな? そもそも愛国心などというものは、愚か者の最後の砦だ。国士様なんてニートが惨めな自分の境遇への不満の矛先を外国人に向けてるだけに違いない。それ以外の理由なんて有り得ない。国家や社会に対する外国の介入なんて、個人と無関係だ」
「はぁ・・・・・・」
更にフリードリヒは「フランスに支配されたドイツ人の恨みは千年続くぞ。奴の世界で類を見ない残虐な支配はこのプロイセンの民の愛国心に火を付けた。国家の第一の僕たるこのフリードリヒ大王の指導の元で一丸となってフランスに無慈悲な裁きを下すのだ!」
「無慈悲シリーズの絶叫放送ですね」
そう家来の一人が突っ込むと、更に別の家来が「けど、愛国心って愚か者の砦じゃ無かったでしたっけ?」
「・・・・・・・」
更に別の家来も「外国の介入なんて争点にならないんじゃ・・・・」
フリードリヒは額に青筋を立てて「お前等はフランスによるドイツ支配の歴史を認識しているのか!」
「ドイツもチェック人とか支配してますけどね」
そう指摘した家来に、フリードリヒは言い渡した。
「お前、減給な」
「そんなぁ」
そんな中、ベルリンの宮殿に、ライン連邦に派遣した視察団が帰還する。
謁見室で報告を受けるフリードリヒ王。
「父上、只今、戻りました」
そう言って謁見の礼をとるのは、使節団のトップ・・・という事になっている、十歳のウィルヘルム王太子だ。
「どうだ? 領邦諸国の様子は」とフリードリヒ王。
「ドイツ民族主義は急速に根付いています」
そう答えるのは、王太子の隣に控えているビスマルク。
フリードリヒ王は彼に「ライン地方の鉄鋼業はどうなっている?」
「亡命を装ってイギリスに潜り込ませたスパイによる、現地での協力者獲得が進めば、あの蒸気機関を可能にする良質な鉄鋼生産はじきに我々のものです」
「鉄は国家なり、という訳だな」とフリードリヒ王。
「フランスを真似た軍制改革も進めているのですよね?」とウィルヘルム王太子。
「ブラウンシュバイク公が中心になって、我が国も、単独での戦いを可能とする軍団組織への改編を進めているのだが、どうもよく理解できていない者も居るようだ」
そう語るフリードリヒに、ウィルヘルムは「フランス人に出来る事が、我がドイツ人に出来ない訳が無い筈はありません」
「そういう問題なのか?」とフリードリヒは困り顔。
「フランスは交易に再参入し、経済力を強めようとしています」
そうビスマルクが言うと、フリードリヒは「それについて、良い手があるのだが・・・」
そして彼は、控えている諜報局員に「ちょうど彼が来ていた筈だな?」
フリードリヒは幼い王太子とその従者を連れて、別室に向かった。
そこに一人の男が居た。
「彼は?」
そうウィルヘルムが問うと、フリードリヒは「カリオストロ伯爵。以前からの協力者だ」
「カリオストロ公国を任されております。ラザール・ド・カリオストロと申します」と彼は名乗る。
「フランス経済を弱体化させる妙案がある、という話でな」
そうフリードリヒが切り出すと、伯爵は語った。
「各国で紙幣を発行しており、フランスはパリ銀行が発行したアシニアという紙幣を、支配下の国々に強制しています。紙幣は金の産出量の制約を受けない通貨発行が可能ですが、いざという時に金と交換する事で信用を維持します。無制限な発行は"金との交換が出来なくなるのでは"・・・との懸念を産み、信用を失います。なのでアシニア紙幣が大量に出回れば、フランスの通貨は信用を失って、経済は崩壊します」
「ナポレオンがそんな愚行を犯すとは思えませんが」と、ビスマルクは疑問を呈する。
伯爵は「ですので、代りに我々が発行する」
「つまり偽札ですか?」と唖然顔で突っ込むウィルヘルム。
「殿下はスーパーKというのをご存じですか?」
そう伯爵が言うと、ビスマルクは「巧妙に作られた偽札で、紙もインクも国家が使うものと品質は変らない。各国が手を焼いていると聞きますが、まさか・・・・・」
伯爵はどす黒い笑みを浮かべて「Kはカリオストロの頭文字です」
「どこぞの半島国じゃ無かったの?」と突っ込むウィルヘルム。
「あの国の頭文字はサッカーの国際試合を隣国の間抜けなスポーツ協会幹部を買収して共同で開催した時、イベント名で自分の国の名を先につけるという目的でKからCに変えたのですよ」とビスマルクが解説。
「けど、今でもC-POPと言わずにK-POPと言っているのは何で?」
そう幼いウィルヘルムが突っ込むと、全員、わざとらしく首をかしげて「何でだろう」
そして・・・・・・・・。
カリオストロ城の地下では・・・。
極秘裏にカリオストロ公国を訪れ、伯爵の案内で視察に来ていたフリードリヒ王が居た。
「今日からここで印刷する偽札を全てアシニア紙幣にする。他の原版は廃棄せよ」
そう印刷技師たちに命じるカリオストロ伯爵。
「世界中の偽札を作っていたのを全部・・・ですか?」
そう印刷技師の一人が言うと、フリードリヒは伯爵に「そんなにあるのか?」
フリードリヒ王は伯爵とともに、印刷技師たちが示した原版を確認。
「ドルにポンドに円に・・・ウホッ、ウォンまであるのかよ」
そうフリードリヒが言うと、印刷技師の一人が解説した。
「あそこは創作物キャラでも何でも、自国のものが無いと差別されたとか言って組織的な抗議が来るのですよ。それで煩いからといって、後で下手にあの国のキャラを出すと、調子に乗って"我が民族のアイドルは再生回数が凄くて大人気だからもっとイケメンの筈だ"とか"このゲームで我が国の選手は最強の筈なのに試合に勝てないのは現実味が無い"とか、おかしな要求へとエスカレートします。それにずるずる妥協して、終いにゃ本来の主人公がその国の選手に負けて泣いて終わる・・・みたいなグダグダな展開になって、tetuka賞を貰ったほどの漫画が滅茶苦茶に・・・」
伯爵は彼等に「とにかく他の紙幣を止める分、アシニア紙幣を大量に印刷する」
「それでは折角の偽札の価値が下がってしまいますけど」
そう問う印刷技師に、伯爵は「そうなる前に偽札を金に交換させて、お金ガッポガッポすれば良い。それで痛手を受けるのはフランスだ」
「俺はフランスを追い出して、ドイツの王になって税金ガッポガッポ」とフリードリヒ。
そしてフリードリヒは「カリオストロの、お前も悪よのう」
カリオストロ伯爵は「フリードリヒ陛下ほどではありませんよ」
高笑いする二人。




