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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
570/617

第570話 海上封鎖と上陸戦

ナポレオンにより、イギリス上陸作戦を命じられたフランス艦隊のヴィルヌーヴ提督。

西インド諸島の陽動をイギリスのネルソン提督に見破られた彼だが、イギリス海上覇権の阻止を狙ったエンリ王子とイザベラ女帝は、イギリス上陸の中止を条件に、フランスに協力。

そしてイギリス艦隊を地中海に封じ込めたと錯覚したヴィルヌーヴの艦隊は、ジブラルタル海峡を抜けたトラファルガー海域で、待ち構えていたネルソン提督のイギリス艦隊により壊滅する。

その直後にフランス艦隊を追ってきたエンリ王子のシマカゼ号は、ファフのドラゴンを使ってフランス艦隊乗員の救命ボートを遠ざけると、ネルソンに和平交渉を持ちかける。

それを無敵艦隊が追いつくまでの時間稼ぎと見抜いたネルソンは戦闘を開始するが、シマカゼ号は自慢の高速でイギリス艦隊の追跡を振り切り、東進して無敵艦隊との合流を果たした。


激突する二つの艦隊。

イギリス艦隊が突入を仕掛けたその時、一帯の海中に散布した無数の何かが一斉に破裂し、それは魔導通信と魔力探知を無力化した。



リラが人の姿で海からシマカゼ号に上がって来る。


「ミノルフスキー粒子弾の散布、お疲れ」

そう言って甲板でエンリが出迎え、その横でアーサーが解説。

「あれは魔素の感知を妨害するもので、魔導通信の霊波を受信出来なくするものです」

エンリも「旗下の艦に指令を伝達出来なければ、統制のとれた艦隊運用が不可能になる。後は、周囲を囲んで叩くだけの簡単なお仕事さ」


イギリス艦隊が混乱している隙に、スパニア艦隊は縦列陣で敵艦隊の周囲を旋回。長い艦列で敵艦隊を包囲した。

各艦は極細の長い金属糸を艦から艦へと渡し、数珠繋ぎで繋がって、その糸が霊波を伝えて命令を伝達。



イギリス艦隊旗艦には、焦りMAXなネルソン提督が居た。


「どうしますか?」

そう問う副官に、彼は「とにかくこの海域を抜ける。手旗信号で合図を送れ。"全艦、我に続け"と」


その時、周囲のスパニア艦の魔導士が一斉に霧魔法の呪文を唱え、海域一帯の視界を閉ざした。

「これでは手旗信号が伝わりません」

そう困り顔で言う副官に、ネルソンは「霧なんか風魔法で吹き飛ばしてやれ」



全周囲から押し寄せる霧を吹き飛ばそうと風魔法を使うイギリス魔導士官たち。

だが、西側に風をふかせば東から霧が流れて来る。東側に風をふかせば西から霧が流れて来る。


霧で正確な照準は不可能な状態で双方が牽制の砲を撃ち合う中、イギリス艦隊は霊波探知妨害粒子の影響海域から抜け出そうと、ひたすら前進した。

だが、スパニア艦隊は包囲陣形を維持したまま、同じ速度で同じ方向に移動。

そして、砲弾に霊波探知妨害粒子を散布する散弾を混ぜ、イギリス艦隊の魔導通信は妨害を受け続けた。



そして・・・。

闇雲な前進を続けるイギリス艦隊の旗艦では・・・・・・・。


「何だか敵の砲声が遠のいてませんか?」

そう言い出した副官に、ネルソン提督が「距離を取り始めたという所か?」

「このまま撤退する気ですかね?」と参謀の、僅かな安堵を含んだ声。

そして、副官が周囲を見回して「霧が晴れてきましたけど・・・・」


視界が回復した、その時・・・・・。

イギリス各艦の乗員たちは、自らの上空に巨大な魔法陣が広がっているのを見た。

ネルソン提督唖然。

「あれはファイヤーレイン・・・。霊波妨害はあれの探知を妨害するためか!」


防御シールドの展開が間に合わないイギリス艦隊は炎の雨を浴び、艦船は一斉に船火事を起こし、壊滅した。



戦いが終わり、救命ボートで脱出したイギリス海軍兵たち。

そして、スパニア艦隊の捕虜となった彼等の引き渡し交渉が始まる。



スパニア宮殿の外務局で、役人たちが段取りを調え、イザベラ女帝が通信魔道具を執る。

エンリ王子とその仲間たちも・・・。


「それで、見返りに何を要求するするんですか?」

そうアーサーが言うと、ニケがテンションMAXで「もちろん身代金として・・・・・」

エンリはうんざり顔で「この人、つまみ出してくれ」


「何でよ、私のお金ーーーーーー!」

そう言いながら、タルタとジロキチに部屋を追い出されるニケ。

エンリはうんざり顔で溜息をつくと「要求以前に、聞く耳を持っていればいいけどね」



魔導通信の回線が開かれ、エリザベス女王が出た。

「御機嫌よう、女王陛下」とイザベラ女帝。

「御機嫌よう、女帝陛下」とエリザベス女王。

「良いお天気ですわね」

そうイザベラが言うと、エリザベスは「ロンドンは今日も霧ですけど」

「言っておきますが、その霧は我が海軍の魔導士官とは無関係ですわよ」とイザベラ。

二人、声を揃えて「ほーっほっほっほ」


そんな外交辞令モードは、エリザベス女王のブチ切れ声によって終了した。

「・・・・・じゃ無いわよ! よくもやってくれましたわね」

イザベラは落ち着き払った威嚇声で「まともに話し合う気が無いなら、捕虜はフランスにでも引き渡せば、煮るなり焼くなりしてくれるでしょうね」


エリザベス、冷静さを取り戻す。

「・・・・・で、見返りに何を?」

「身代金として金貨・・・」

いつの間にか戻っていたニケが通話に割込み、タルタとジロキチに取り押さえられた。

エンリは「この人、どこかに隔離しといてくれ」

タルタとジロキチに連行されながら、ニケは未練がまし声で「私のお金ーーーーーー!」



エンリは溜息顔で三人を見送り、イザベラは通話による交渉再開。

「要求は通商妨害の停止よ。これ以上、他国の植民市に手を出さない」

「まあいいわ。このツケはあのナポレオンが倒れた後で、しっかり払って貰う事にしましょう」と、エリザベスは問題を引きずる意向を相手に突き付けた。

「そうなる前に、上陸作戦再び、なんて事にならなきゃいいけど」と、イザベラはドスを効かせて威嚇。

「フランス海軍は我がイギリス艦隊が壊滅させましたのよ。それともスパニアは、フランス軍の上陸の手伝いまでされるのかしら?」と反撃するエリザベス。


「それを諦めさせたのも私なんですけどね」と、魔道具を渡されてエンリが交代。

「・・・・・」

エンリは記憶魔道具を取り出し、ナポレオンとの交渉における音声を再生した。


「その代わりなんですが、イギリス艦隊はこちらで潰す代わりに、イギリス上陸を中止して貰えません?」とエンリの声。

「何でだよ」

そう返すナポレオンに、エンリは「イギリス艦隊による交易支配には反対します。けれども上陸すれば多くの被害が出る」

ナポレオンは言った。

「戦争ってのはそういうものだろ。それでこの戦乱は終わる。我々フランスがユーロを支配してパックスオブフレンチだ」

エンリの声が「力による支配を平和とは言いません」


再生音声を切る、エンリ王子。

「・・・・・・・・・・」

そして「国を滅亡から救ってくれた恩人にその言いぐさ」

「・・・」

更に「親の心子知らずとは、この事ですなぁ」


そんなエンリの恩着せがましい言い草に、エリザベス暫し、うぐぅ状態。



「・・・ととととにかく、イギリスに上陸する手段を失ったフランスに手を貸して、我がイギリスを直接害するというなら、ナポレオンの侵略に苦しむ各国の民は、侵略者を助けた共犯者として貴国を千年恨む事になりますわよ」

そう主張するエリザベスに、エンリは言った。

「いや、民の知能も理性も破壊するどこかの半島国みたいなヘイト洗脳教育やってる訳じゃ無いんだから。それに、フランス艦隊は壊滅しても、人員は無事です。一方、支配下に置いたオランダの海軍は無事」

「あの国の海軍は、多くの士官が我が国に亡命して、軍として機能していないとの事ですが?」と突っ込むエリザベス。


エンリは「では、彼等の艦船を徴用してフランス海軍の士官が乗り込んだら?」

「・・・・・・・・・・」

真っ青になるエリザベス女王。

そしてエンリは言った。

「まあ、ご安心下さい。フランス人は自分たちが破れたあとのイギリス艦隊の末路を見ていません。つまり彼等は未だにイギリス艦隊が無傷だと思っている。そう信じている限り、イギリスに上陸しようなどという気は二度と起きないでしょうなぁ」

「・・・・・・・」


「我々が口をつぐんでいる限りは、ね」と、エンリ王子は威嚇を込めて付け足した。



イギリス政府はトラファルガーにおける勝利を大々的に宣伝し、イギリス艦隊がスパニア艦隊によって壊滅した事実は厳重に秘匿された。

勝利に湧くロンドン市民。

大々的な戦勝記念行事が企画され、ロンドンにはトラファルガー広場が建設される。

記念行事に冷や汗を隠して出席するエリザベス女王とヘンリー先王。


その一方で、イギリスはナポレオンとアミアンの和約を結び、フランスは海外交易を再開した。



その頃、ポルタ大学職工学部の試作室では・・・・・。

エンリとその仲間たちによって、シマカゼ号が持ち帰った戦利品が運び込まれていた。


「これがスエズから運び出した蒸気機関車ですか」

そう言って、その大型機械を興味深げに眺める教授たちに、エンリは言った。

「トラファルガーで沈んだフランス艦から引き上げた代物なんだが、作れそうか?」

「お任せ下さい」と自信顔で答える教授たち。


その時、大学の職員が報告。

「エンリ殿下、イギリスからお客様が来てますけど」

エンリは迷惑顔で「居ないと言ってくれ」


だが、その中年男性客は強引に試作室に入って来る。

「エンリ王子、二番艦が出来たら譲って貰えるという約束でしたよね?」

ドレイク提督である。


「いや、あれは・・・」

そう困り声で言いかけるエンリの横から、シマカゼが「駆けっこに負けたよね?」

「おい、シマカゼ」

そう困り顔で彼女を制するエンリを他所に、ドレイクは言った。

「なので、再戦を申し込みたい。最新の技術で速さに特化すべく建造した新ドレイク号が完成しています。私も提督ですから。勝負を受けて貰えますか?」

「いいよ」と楽しそうなシマカゼ。


「その前にドレイク提督に通信が入ってますけど」

そう言ってエンリがドレイクに渡した通話魔道具からは、エリザベス女王の声が・・・。

「おじ様、何やってるんですか?」

「姫、これは・・・」と慌てるドレイク。

「そんな外国で我がイギリスの恥を晒さないで下さいまし。今すぐ帰国して下さい。いいですわね?!」

そんな彼女にドレイクは、未練がましく「ですが、これは男と男の約束・・・・・」

「いいですわね?!」


ドレイクはガックリと肩を落として「・・・・・・はい」

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