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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第569話 トラファルガーの嵐

イギリス上陸戦を狙うナポレオンの命により、フランス艦隊のヴィルヌーヴ提督が立てた西インド諸島陽動の作戦は、イギリス艦隊のネルソン提督に見破られた。

そんなフランスにエンリ王子とイザベラ女帝は、イギリスによる通商破壊と海上覇権の阻止を目的に協力。


だが・・・・・。



スエズ基地破壊の陽動に乗って地中海に入ったドレイクの海賊艦隊をイギリス艦隊と誤認したフランス艦隊は、これを地中海に封じ込めて太西洋に出ようと、ジブラルタル海峡へ・・・。

海峡を抜けたトラファルガー海域には、本物のイギリス艦隊が待ち構えていた。


ヴィルヌーヴ提督は焦った。

「とにかく応戦しろ。艦船の数は互角の筈だ」

「どうやって迎え撃つんですか?」

そう副官が問うと、彼は「逃げるんだよ」



海峡の南側、モロッコ沿岸の島影から現れ、北上するイギリス艦隊に対し、フランス艦隊はスペイン領沿岸に沿って北上した。

「すぐ先にカディスの軍港がある。あそこに逃げ込むぞ」とヴィルヌーヴ提督。

「風向きは北西で、かなり向かい風に近いですよ」

そう報告する参謀に、彼は「それは奴らだって同じだろ」

「けど向うは動力船・・・」と参謀は突っ込む。

「あ・・・」


フランス艦隊は縦列陣形をとってカディスを目指す。


「追ってきたら最後尾で迎え撃て」

そう号令するヴィルヌーヴ提督に、副官は「捨て駒ですか?」

ヴィルヌーヴは「撤退戦では殿の仕事だろ」



だが、イギリス艦隊は真っ直ぐな追跡には入らず、西側を廻って距離をとってフランス艦隊の左側を並走。

ネルソン提督はイギリス艦隊を二つに分けた。

そしてネルソンは号令。

「ネルソンノック開始、突入せよ!」


長い縦列陣形をとるフランス艦隊の二か所に、二分されたイギリス艦隊が突入する。

前から三分の一の所と、後ろから三分の一の所へ・・・。

抵抗するフランス艦の砲撃を掻い潜り、正面のフランス艦に砲撃を集中して次々に撃破するイギリス艦隊。

そうやってフランス艦隊を三つに分断すると、前方側のフランス艦と後方側のフランス艦を包囲殲滅。そして中央部のフランス艦を前後から挟み撃ち。



まもなくフランス艦隊は壊滅した。


海上にはフランス兵が乗る無数の救命ボート。

そんな彼等を見て、副官はネルソン提督に「あいつ等、どうしますか?」

提督は「このまま帰して艦隊を再建させるってのもなぁ。捕虜にするか、いっそ・・・」


その時、海峡方面から来る一隻の艦が発する拡声魔道具の発する声が、戦場に響いた。

「イギリス艦隊の皆さん、お疲れさん」

エンリ王子の乗るシマカゼ号だ。


「フランスに寝返った元同盟国が何の用だ!」

そう拡声魔道具で返すネルソンに、エンリは「寝返ったといっても、大同盟はとっくに解散してますけど」

「どっちにしろ敵だろ!」とネルソン。


「けど、人命救助は大事ですよね?」

そう言って海上にひしめく救命ボートに視線を向けると、エンリは部下に命じた。

「ファフ、とりあえずあいつらを頼む」


ファフはドラゴン化し、海上に漂う救命ボートにロープを渡して数珠繋ぎに・・・・・。

そしてスパニア領沿岸まで牽引する。



「で、地中海に入ったドレイク艦隊はどうした?」

去っていく救命ボートを見ながら、ネルソンがそう問うと、エンリは言った。

「片付けましたよ。先に砲撃したのはそちらでしたから」

そんな彼の返答を聞き、その横に居たアーサーが「もしかして、スターターやらせたのって・・・・・・」

「どんな喧嘩も、先に手を出した奴の責任さ」


そんなエンリを見て、彼の仲間たちは脳内で呟く。

(この男は・・・)



ネルソンは更に問う。

「それで、海峡を封鎖したのでは無いのですか?」

「あなた方が出て来たので浮遊爆雷の散布は中止。ま、どーせあんなの音響衝撃で一発でしょうけどね」とエンリ王子。

「それで、一隻で我々と艦隊戦を戦うと?」

そう威嚇声で言うネルソンに、エンリは「まさか。話し合いに来たのですよ。とりあえずイギリス上陸は中止。その代わり、交易の妨害を止めるって事で手を打ちません?」

「それを判断するのは女王陛下だ」とネルソン提督。


「まー、あんた下っ端ですから」

そうエンリが言うと、ネルソンは「喧嘩売ってるのかよ! それにフランス艦隊は全滅した。フランスはユーロを武力で支配している支配者だ。彼等に支配されている人々を解放する者に手を貸す義務がある」

「その解放者ってプロイセンとロシアの事?」と、皮肉がかったエンリの声。


「もういい! それよりスパニア艦隊はどーした?」

そうネルソンが問うと、横から出て来たシマカゼが、エンリの持つ拡声魔道具で口を挟んだ。

「置いてきたよ。シマカゼは早いから、駆けっこじゃ誰にも負けないよ」

慌てて彼女の口元から魔道具を遠ざけるエンリだったが、ネルソンはそれを見逃さなかった。

「ちょっと待て。つまり彼等が到着するまでの時間稼ぎ?」


残念な空気の中、シマカゼは「もしかして言っちゃ駄目だった?」

「あのなぁ!」



イギリス艦の砲口が一斉にシマカゼ号に向かう。


エンリ、冷や汗顔で「平和的に行きません? 話せば解る・・・」

「問答無用だ。全艦砲撃開始!」

そのネルソンの号令とともに、イギリス艦隊は戦闘を開始。

エンリは慌てて「離脱しろ」


魔法防壁を展開しつつ全速で距離をとるシマカゼ号の背後から、敵艦隊による砲弾の雨。

イギリス艦隊はシマカゼ号を追跡。

カディスに逃げ込むルートをとって北へ向かうシマカゼ号の行く手に、イギリス艦隊の砲弾が集中。

そして、艦隊の一部をシマカゼ号の右側に回り込ませるネルソン提督。

「奴はスペイン艦隊と合流しようと東へ向かう筈だ。西へ追い込むぞ」


北への進路を阻止され、シマカゼ号は左側に回頭。

「このまま奴を西に追いやってスパニア艦隊から引き離せ」とネルソンは号令。


更に左に回頭するシマカゼ号。

「敵艦、南に行っちゃいますけど」

そう参謀が言うと、ネルソンは「南側を迂回してジブラルタル海峡に戻る気だな。そうはさせるか」


ネルソンは、艦隊の一部を南側に展開。

だがシマカゼ号は、更にその南を迂回。

ネルソンは焦り声で「何をやってる。東に抜けられるぞ」

「敵進路の阻止、間に合いません」

そんな参謀の報告に、ネルソンは「何であんなに早いんだよ」


牽制の砲弾を掻い潜りながら、追跡する敵艦を引き離すシマカゼ。

「シマカゼは駆けっこなら誰にも負けないよ」


ネルソン艦隊の旗艦では、遠ざかっていくシマカゼ号を見つつ、副官が困り顔で「敵艦、東に出ちゃいましたけど」

「追跡だ。このままスパニア艦隊を撃滅すれば、世界の海は我がイギリスのものだ」と、ネルソンはなお強気を見せ続けた。



やがて、海峡の向こうの水平線上に無敵艦隊が姿を現した。

それを見てエンリは会心の笑みを浮かべる。

「来たか。ニケさん、会敵予想海域を割り出してくれ」

ニケは海図で、スパニア艦隊とイギリス艦隊の速度から衝突が予想される海域を割り出す。

そして海図の一画を指すと「戦域になるのは、ここね」


スパニア艦隊に魔導通信で予定海域を連絡するとともに、シマカゼ号は速度を調整する。


エンリ王子はシマカゼ号を追跡するイギリス艦隊を引き連れて、水平線の向うに姿を見せたスパニア艦隊に向かい、その海域を通過した。

そしてその水面下では、人魚の姿のリラとマーモの潜水艇が小さな何かを盛大に散布開始。


イギリス艦隊が迫る中、アーサーは海中からの念話を受け取った。

そしてエンリに報告。

「お出迎えの準備、完了したそうです」



スパニア艦隊は、突入してくるイギリス艦隊の前方に縦列陣で横腹を向け、艦側に並ぶ大砲から砲撃開始。

「あの陣形って・・・」

そうタルタが言うと、エンリは「イギリス艦隊が仕掛けるネルソンノックのお出迎えさ」


イギリス艦隊は二つに分かれ、それぞれ敵艦隊の二か所に艦首を向けた。


「来るぞ。開幕しろ!」

そのエンリの号令とともに、水面の至る所で一斉に小さな爆発。

それはイギリス艦隊の居る海域に煙状の何かを拡散した。


ネルソン提督はその様子を見て困惑する。

「何だ? これは」

「奴らは催涙弾というものを使うと聞きますが」

そう副官が言うと、ネルソンは「それにしては薄いんじゃないのか?」


その時、魔導士官から報告。

「大変です。魔導通信が不能。魔力探知も無力化されています」

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