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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第567話 王子の参戦

ついに始まったフランス海軍のイギリス上陸作戦。

海上で迎え撃つイギリス艦隊を遠ざけるべく、フランス艦隊を率いて西インド諸島を襲ったヴィルヌーヴ提督の陽動作戦は、ネルソン提督に見破られていた。

そして反撃に向かったドレイク海賊艦隊をネルソンの正規艦隊と錯覚したヴィルヌーヴは、これを避けて撤退し、予定通りにドーバー海峡へ向かう途上、魔導通信でイザベラ女帝の意外な申し出を受ける。

「味方になってあげようかと」



「で、無敵艦隊を出して貰えるのですよね?」

そう確認するヴィルヌーヴに、イザベラは「とりあえず情報提供を・・・。ネルソン提督、イギリス艦隊を率いてフィニステレ岬沖で待ち伏せしていますわよ」

「いや、彼の艦隊は西インド諸島に・・・」

そう反論するヴィルヌーヴに、イザベラはからかい声で「そこから逃げて来たのよね?」

「逃げたのではありません。戦略的撤退です」とヴィルヌーヴ提督。


そんな彼にイザベラは「そっちに向かったのはイギリス艦隊じゃなくて、ドレイク提督の海賊艦隊ですわよ」

ヴィルヌーヴ暫し唖然。

そして「逃げて良かったー」

そんな彼に、脇で聞いていた副官が、あきれ声で「いや、"あんな奴ら"って言ってませんでしたっけ?」

「だってドレイクだぞ」

そうビビり顔で言うヴィルヌーヴに、副官は「それで、これからどこに逃げるんですか?」



「そりゃ我が母港のトゥーロン・・・じゃなくて、スパニア艦隊を味方につけて反撃開始だ!」と、ヴィルヌーヴ提督は炎を背にしたドヤ顔でマッチョポーズをキメた。

部下たち、あきれ顔であれこれ・・・。

「いきなり強気になったよ、この人」

「"イギリス怖い"はどこに行った」


「じゃ無くて、どこに陽動に向かうか、ですわよね?」

そんな通話魔道具の向こうからの声に、ヴィルヌーヴは「あれ、イザベラ陛下、まだ通話続いてたの?」

イザベラ、少々あきれ気味に「味方は要らないと?」

ヴィルヌーヴは慌てて「要ります。要りますから」


「で、これから陽動のためエジプトに向って、スエズ基地を破壊するんですわよね?」と、いきなり具体的な作戦内容を突き付けるイザベラ女帝。

なるほど・・・といった表情を見せるヴィルヌーヴ。

そして「つまり、イギリスのインド航路を破壊して世界航路独占を復活すると?」

そんな彼にイザベラは言った。

「この作戦はナポレオン陛下自身も了承済みよ。ジブラルタル海峡を閉鎖して通行不能にする事は可能。そうやって地中海に入ったイギリス艦隊を足止めして、その隙にイギリス上陸・・・」



フランス艦隊はジブラルタル海峡に向かい、その手前のカディスでエンリ王子のシマカゼ号と合流した。

そして、そのまま艦隊はエンリたちとともに地中海へ。

霧の魔法で工作員の目から姿を隠して海峡を渡り、地中海を横断。


エジプトに到着すると、スエズのイギリス拠点を砲撃し、一万二千の陸戦隊が上陸。

守備隊を制圧し、港湾施設を破壊。物資を没収した。

制圧したイギリス軍基地からは、紅海側へ続く鉄道が伸びている。

そこで彼等は貴重な戦利品を手に入れた。


「これが蒸気機関車ですか」

鉄道施設で軍事輸送に使われていた大型の輸送機械。

細長いフォルムを無数の部品で固めた複雑な構造。

そして下部には鉄道の二本のレールに合わせて取り付けられた多数の鉄製の車輪。

内部に大きな筒型の蒸気窯と蒸気のパイプ。

焚口の背後に石炭を積む大きな容器。


それを前に「分解して持ち帰りますが、よろしいですね?」と、ヴィルヌーヴはエンリに問う。

随行してきたポルタ軍士官はエンリに「大丈夫でしょうか?」

エンリは彼に言った。

「これを製造可能なのはイギリスとポルタだけだ。蒸気の圧力に耐えうる鉄鋼が無いと、簡単には作れない」



ヴィルヌーヴはナポレオンに報告。

「では一旦、艦隊を率いてトゥーロンに帰還・・・」

そう彼に命じようとしたナポレオンの言葉を遮るように、ヴィルヌーヴはドアップ顔で「敵がこの陽動に乗って地中海に乗り込んで来た所を連合艦隊で一網打尽とします」


脇で聞いていたエンリ唖然。

「ジブラルタル海峡を封鎖して地中海に封じ込めるのでは?」

そう彼に問い質すエンリに、ヴィルヌーヴはドヤ顔で「こちらには無敵艦隊がついているんですよ」

「他力本願過ぎだろ」

そうエンリが突っ込むと、ヴィルヌーヴは「参戦して頂けるのですよね?」

「そりゃまぁ・・・・・・」


通話魔道具の向こうで聞いていたナポレオン、溜息。

そして彼は自国の海軍提督に言った。

「作戦があるっていうなら、やってみればいいさ。どーせ俺に海軍の事なんて解らないんだろ? それと、お前の後任をそっちに向かわせたから」

「俺、首ですか?」

真っ青になるヴィルヌーヴ提督。



エンリは思い出していた。

カディスの海軍基地で、イザベラとともにナポレオンと通話魔道具で対談した時の事を・・・・・・。


英仏戦への参戦を申し出たイザベラの言葉を聞き、ナポレオンは飛び上がって天井に頭を派手にぶつけた。

エンリはイザベラと交代して通話に出る。

「その代わりなんですが、イギリス艦隊はこちらで潰す代わりに、イギリス上陸を中止して貰えません?」

「何でだよ」

そう返すナポレオンに、エンリは「イギリス艦隊による交易支配には反対します。けれども上陸すれば多くの被害が出る」


ナポレオンは言った。

「戦争ってのはそういうものだろ。それでこの戦乱は終わる。我々フランスがユーロを支配してパックスオブフレンチだ」

「力による支配を平和とは言いません。それに、まだプロイセンが居る。ロシアだって屈服した訳じゃない」と、エンリは反論。

「ドイツ諸侯会議で条約を結んだが?」

そう突っ込むナポレオンに、エンリは「そんなの、あのフリードリヒが守ると思いますか? 彼はオーストリアの皇帝家がドイツ王の座を失えば、自分の手に王座が転がり込むものと期待していた。それが、ライン連邦でドイツが解体されてパーになった。恐らく彼は、あくまで王座を得ようと戦争の準備中でしょうね。そんな時に15万ものフランス兵が海峡を渡れば、絶好の機会だと思う筈ですよ」


ナポレオンは「フランスを守るだけの武力は残してある」

「けど、占領地を維持するための軍も必用でしょう。それに、フランスの覇権の最大の武器は何ですか?」とエンリ王子。

「・・・・・・・・・」

エンリは「あなた自身の軍事的才覚ですよね?」

「・・・・・」

「イギリス上陸軍はあなた自身が指揮するのですよね?」とエンリ王子。

「当然だ」

「としたら、あなたの居ないフランスが、プロイセンを確実に迎撃出来るという保証はあるのですか?」とエンリ王子。

「・・・・・・・」


ナポレオンは脳内で呟いた。

(俺の才覚かぁ)

そして彼は言った。

「解った。上陸作戦は中止だ」


煽てに弱いナポレオンであった。



その頃、ネルソン艦隊はフランス艦隊によるスエズ要塞襲撃の報を受けていた。


ネルソンは思考する。

本当の目的はスエズだったという事だろうか。

だが、最初にあそこを襲うフリをして、それは陽動だった。

上陸作戦の意図がバレて目標を変更か?

それとも、もしかして状況が変わった?

もし、スパニアを味方につけたとしたら・・・。


そして彼は脳内で呟く。

(我々がスエズルートを失って得をするのはポルタ植民地を使える彼等だ。もし、それが目標だったら、我々の地中海侵入を阻む手を打っている筈だ。つまり海峡封鎖・・・・・・)


ネルソン提督は部下たちに号令。

「とにかく地中海に向かい、フランス艦隊を一網打尽にするぞ」



ジブラルタル海峡へ向かうイギリス艦隊。

海峡の両岸が真近に迫る中、彼は部下たちに号令する。

「島影に隠れて襲ってくる可能性がある。警戒しつつ前進せよ」


いきなり、先頭を走る艦の前方で轟音とともに水柱が上がった。

大破した船から船員たちが救命ボートへ・・・・。

「全艦停止! 何事だ?」

そう指令通信の魔道具で発したネルソンの声に答える、部下の報告。

「何かに接触した模様」


その時・・・・・。

旗艦の周囲を監視していた士官が「あれを・・・・・」

見ると、海上に漂う何かがあちこちに・・・。

「浮遊爆雷だ。やはり海峡封鎖の手を打っていたか」と、ネルソンは呻くように呟く。


「どうしますか?」

そう問う副官に、ネルソンは言った。

「あれは船と接触した衝撃で起爆する。音響衝撃の呪文が有効な筈だ」



魔導士官が呪文を唱え、全員耳栓を装着。

海上一帯に魔法陣。

轟音とともに一面に衝撃が走り、海上一帯を漂う爆雷は一斉に誘爆した。


艦隊に安堵の空気が広がる中、副官は「進みましょう。地中海に居る敵艦隊の殲滅を・・・」

だが、ネルソンは思った。

(何かがおかしい。こんなに簡単に破れるやり方で、この海峡を封鎖した事になるのか? もしかしたら、我々を誘い込む罠では・・・)

そして彼は部下たちに号令。

「一旦、引き返すぞ」



海峡から遠ざかっていくイギリス艦隊。


そんな彼等を、ジブラルタル海峡のスパニア側から監視していた工作員たちが居た。

「イギリス艦隊、引き返しちゃいますよ」

そう一人の工作員が言うと、もう一人が「せっかく爆雷を突破したのに」


やがて、彼等は再び海峡を東進するイギリスの艦隊を目撃。

そして工作員の上官らしき男が言った。

「エンリ殿下に報告だ」

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