第20話 魔法で山越え
キンカ帝国で「ひとつながりの大地」という言葉を聞いたエンリ王子たちは、とりあえず大陸を越えて向こうの海へ行けるという場所を目指し、新大陸東岸を北に向かった。
船の上で仲間たちはあれこれ言う。
「それで、陸地が繋がるって、どういう事なのかな?」とタルタ。
「つまり、南北に大陸があって、その間の極端に狭くなっている所があるって事じゃないかしら」とニケ。
「多分、パナマという港の植民市のあたりだろうな。背後が高くなってて、その上が平坦で湖がある。そのすぐ向こうに海があるっていうんだ」とエンリ王子は言った。
パナマの港に船を停泊して上陸。
酒場に入って、店に居る人に話を聞く。
「ひとつながり・・・って言葉に聞き覚えのある奴はいるかな?」とエンリ。
「秘宝の話か。まあ、おとぎ話みたいなものだと思ってたが」と、店の主人が言った。
すると隣に居る客が「宝じゃないが、陸地がつながってるとか何だとか、そんな事を話していた奴が昔、居たとか」
「昔ったって、この西方大陸を発見したのはコロンボって市長やってる奴だろ?」とジロキチ。
「その前に来た奴が居て、現地人と接触したって言うんだ」と隣の客。
「それてそいつ、ここで何やってたんだ?」とタルタ。
「この大陸の向こうの海に行ったと。どうやって行ったかは解らんが」と隣の客。
「船でか? 水路が無いだろ。船で山を越えるのかよ」とタルタ。
「魔法みたいな事をやってたって、言ってたなぁ。どんな魔法かは知らんが」と隣の客。
エンリはアーサーに「船で山を越える魔法って、アーサー、知ってる?」
「聞いた事も無いです」とアーサー。
するとニケが「この地に残る独特の魔法術式なのかも」
「手分けして情報を集めよう」とエンリ。
ニケが「その前に宿屋を決めない?」
エンリ王子たちは一軒の宿に部屋を確保した。一階が小さな酒場になっている。
夜にここに集まって情報を持ち寄る事にして、彼等は街に散った。
そして夜。
戻って来た仲間たちにアーサーが「どうだった?」
「さっぱり」と仲間たち。
アーサーはそこに居る面子を確認する。
そして「王子と姫とニケさんはまだか」
その時、ニケが宿屋に帰還。
「どうだった?」とアーサーがニケに・・・。
ニケは「私は空振りだったけど、王子と姫は重要な情報を得たから他所で泊まるそうよ」
翌日、再び情報を集めようと宿を出たタルタたちは、宿の入口に張り紙があるのを見た。
船長募集の張り紙。エンリ王子の名前で出されたものだ。応募者は午後、この酒場に集合と・・・。
宿の人に聞くと、今朝早くにエンリ王子が来て、これを貼って行ったとの事。
タルタは暗い顔で言った。
「俺、船長じゃなかったのか?」
「馬鹿過ぎるから首って事なんじゃないのか?」とジロキチ。
午後の酒場。数人の応募者が来ていた。そしてエンリ王子も・・・。
エンリは集まった人達に言った。
「よく集まってくれた。私が船長を募集しているエンリだ」
その時「ちょっと待った」の声とともに、タルタが出てきた。
タルタはエンリ王子に言った。
「王子、俺は確かに間抜けかも知らん。自分の船は壊すし、大喰らいだし。けど、何も言わずにクビは無いだろ。俺たち仲間じゃなかったのかよ」
王子は怪訝な顔で「クビって何のことだ?」
「俺の代わりの船長を雇うんじゃないのかよ?」とタルタ。
エンリ王子は「お前をクビになんてしないぞ。お前は変わらず俺たちの船長だ」
それを聞いた応募者たちは言う。
「じゃ、俺たちは何のために呼ばれたんだ?」
「何人もの船長が必要なんだ。船で山を越える儀式のために」と答えるエンリ。
アーサーは「だからそんな魔法の儀式は・・・」
「あるんだよ。俺はあちこち聞き回って、その手掛かりとなる言い伝えをゲットした」とエンリ。
「言い伝えとは?」とアーサー。
エンリは語った。
「船頭多くして船、山を登る・・・って。船頭って船長の事だよね?」
一同、唖然。
そして残念な空気が場を包んだ。
「あの、王子。それは魔法の儀式と無関係な、ただの諺です」とアーサー。
「へ?・・・」と、王子唖然。
アーサーは語った。
「例えば、大勢で何か議論とか作戦計画とかやったとしますね。その中でリーダーシップとろうとする奴が何人も居て好き勝手言い出すと、議論の方向が定まらなくて、話があらぬ方に行ったりする訳ですよ。そういう残念な状況を例えた諺で、本当に船が山を登る訳じゃないんで」
「そうなの?」とエンリ王子。
「つまり、ただの勘違い?」とタルタ。
応募者たちは「馬鹿馬鹿しくなった。帰ろうぜ」と言って店を出た。
店の人と王子たちだけになった店内。脱力感の中で、エンリ王子はぽつりと言った。
「なあ、人生って何だろーな?」
人魚姫はそんな王子の手を握って「王子様、ドンマイ」と筆談の紙に・・・。
その時、店の人が言った。
「あんた達、山越えの魔法について探しているのか?」
「何か知ってるのか?」とタルタが店の人に訊ねた。
店の人は語った、
「この近くの現地人から聞いたんだ。船で山を越える話をする海賊が居たって。そいつの根城があった場所が、今、密林になってる」
王子たちの表情に明るさが戻る。
「それじゃ、その手掛かりになる魔道具か何かあるかも」とアーサー。
「もしかして、ひとつながりの大秘宝も」とタルタ。
「それはどこだ?」とエンリは店の人に訊ねた。
店の人は「この森の奥だ。根城の家は崩れたが、洞窟があるって話だ」
「探した奴は居るのか?」とジロキチ。
「陸に儲け話は山ほどある。わざわざ向こうの海に出ようなんて奴は居ないよ」と店の人は言った。
洞窟を探して森に入るエンリ王子たち。
歩きながら「下草で歩きにくい」とファフが苦情を言う。
「あれ、毒蛇かな?」とジロキチが木の上を見て・・・。
「この蜘蛛、どーにかしてよ」とニケ。
タルタはそれを見て「こんな大きな蜘蛛は居ない」
「蟹だろ?」とジロキチ。
「こんな所に蟹は居ないよ」とエンリ。
そして、先頭を歩くタルタが、それを見つけて言った。
「あれ、洞窟じゃないか?」
崖面にぽっかり穴が開いている。中に入り、光魔法で照らしながら奥へ進む。
洞窟の奥に宝箱がある。
「何か魔力を感じる?」とエンリがアーサーに・・・。
「何も感じないですよ」とアーサー。
「とにかく開けてみよう」とタルタ。
宝箱を開けると、中には・・・。
「入ってるの、紙だよね?」と言って、タルタがそれを取り出す。
中にあった紙を開く。
「山越え魔法の呪文かな?」とジロキチ。
「図面だけど。地図みたいだな」とエンリ。
「宝の地図かな?」とタルタ。
ジロキチが「その地図に従って行くと、こんな宝箱があって、中にこんな宝の地図が入っていて、そこに書かれた宝の場所に、また宝箱の中別の宝の地図があって、そこに行くとまた宝箱の中に地図があって、あちこち引きずりまわされて、最後に一周回ってここに戻って来るとか」
「俺たち、遊ばれてるじゃん」とタルタ。
「ってか、それ単なる予想だから」とエンリ。
「けどこの図面、ここらへんの地図かな?」とアーサー。
ニケが図のあちこちを指して言った。
「多分そうよ。内陸に湖があるでしょ? こっちが向こうの海。私たちが今居るのは、ここね」
「宝の場所なんて書いてないけど」とタルタ。
「この真っ直ぐな道路みたいなのは?」とエンリ。
「船で山を越えるって事は、運河かな?」とタルタ。
アーサーが「けど、内陸と高低差あるよね? 運河のつもりで水路なんて掘ったら、水が海に流れちゃうぞ」
その時、ニケが図面の正体に気付いた。そして言った。
「それ、魔法じゃなくて土木工事の設計図よ。ここに通す運河のね」
「けど、内陸との高低差は?」とエンリ。
「そのための施設工事なのよ。こことか数ヶ所に二重の関があるでしょ? その関の断面がこれよ。この高い所の湖まで、傾斜のある所を通るこの水路の二重の関の所で、船を垂直移動させる訳よ」とニケ。
「どうやって?」とアーサー。
ニケは説明した。
「先ず、二重の関の低い方を開けて、船を関と関の間に入れる。そして関を閉じると、上から船の居る所に水を落として、水位を上昇させるの。それで高い方と同じ水位になった所で、上の方の関を開けて船を進める。これを繰り返すの。すごい高度な技術よ」
「って事は、これを作れと?」とエンリ。
「今の技術じゃ無理でしょうね。工費だって工事期間だって労力だって莫大に必要よ」とニケ。
「どうするんだよ」とタルタ。
「西方大陸の南端の迂回路を探した方が早いだろうな」とアーサー。
「じゃ、南へ向かおうか」とエンリ。
仲間たちは「賛成」と・・・。
その時、アーサーの基に伝令の使い魔が飛来した。
メッセージを受け取ったアーサーは「ポルタの魔道局からだ」
「何だって?」とエンリ。
「本国からの依頼だ。南方大陸に向えって」とアーサー。
エンリは「何でまた」
アーサーは言った。
「東の異教徒の国、オッタマ帝国がコンスタンティを占領した」
「あの古代帝国の残りかす、とうとう滅亡したか」とエンリ。
タルタも「あの高さ50mの城壁が破られたってのかよ。超大型巨人でも使わなきゃ無理だと言われてたんだが」




