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キノは〜ふ! Return  作者: 七月 夏喜
第5話 キノとマコと花火大会(後編)
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その7


 キノが帰ってきた。マコは小走りで、そのもとに駆け寄る。甚平のあちこちが汚れ、破れたり、裂けたりしていた。キノの髪は三つ編みが解けて乾ききっている。しかも潤いがなかった。あの行動の騒動が容易に想像できる。

「どうしたの?」

 キノがその大きな瞳で見つめる。マコはその優しい顔を見ると、何だか言い出せなくなった。

「シ、シャワー、入ってきたら、泥だらけだよ」

「うん。そうする」

 笑顔で浴室に入っていった。キノが出てくる間、マコは落ち着かない。ソファーに腰掛けたり、テーブルの周りを回ったりている。ふと、冷蔵庫が目に入った。中を覗くと酒のつまみ類とペットボトルのお茶、ビールとワイン程度しかない。

「どうしよう」

 マコはじっと考えていた。

「何が?」

 驚いて、後ろを振り返ると、キノが立っている。細長い髪を丸く託し上げ、タオルで巻いていた。ちょっと赤らんだ白い頬に、バスローブの隙間から見える胸元には、滴が光る。

「はあ……」

「マコも早く入りなよ。気持ち良いよ」

 お茶をグラスに注いでキノに渡した。グラスは長い指の手に持たれる。そしてそれは小さな桃色の唇に運ばれた。その口へ含まれた液体は、細い首を小刻みに振るわせて喉を過ぎていく。胸部が上下に動き、肌の滴が伝って落ちていった。

「に、二階で待っててね」

 その仕草をうっとりと見ていたマコはそう言うと、そそくさと浴室に急ぐ。キノは火照った顔で見送った。


 キノは二階寝室から、ベランダに出る。二つ並べてあるデッキチェアーに腰掛けた。星空を眺めて、息を大きく吸う。海からの風が心地よく吹いていた。キノがマコに向かってマイク越しに語ったのは、つい二時間前だ。

「今でも、恥ずかしいくらい」


 あの後、花宗院大介が気がつくまでには、キノはあの場所にいなかった。

「紀乃様、私め感動いたしました」

 出ていく後ろ姿を呼び止める。

「真琴様を、真に愛でてらっしゃる」

 窓に足を掛けた時、最後の言葉を囁いた。

「旦那様は、紀乃様と交わしている約束を気にしてらっしゃいます。紀乃様の足かせになっていないかと。旦那様は表面では何かとおしゃるが、紀乃様は、紀乃様らしい行動で良いのです。花宗院ではなく、あなた様は、鈴美麗なのですから。まあ、これも年寄りの戯言ですがね」


 本部から会場に戻って、マコを見つけるのは簡単だった。彼女と宮島を囲むように、そこだけ人だかりになっていたからだ。駆けつけるキノをその人だかりは、まるでモーゼの十戒のように、左右に割かれていった。一本のその道はマコまで伸び、キノを指南しているようだった。

 満天の夜空には美しい星が、煌めいている。目を静かに閉じた。

「僕らしい、行動か……」


 このままずっとマコと僕は一緒に暮らしていく。その中で、まだまだ色々なことが起きるだろう。楽しい事ばかりではない。嫌なことや、悲しいことだってあるはずだ。考えたくないが、お互いの気持ちが離れそうになることだってあるかもしれない。それを戒めるものは、原点に戻れるかどうかだろう。そう、あの池でマコを助けた僕に……。

「……マコ」



「なあに、キロ」

 声がする。

「キロ?」

 キノは何処かで、聞いたことを思い出した。そして唇が塞がれた。彼女の口から、甘い唾液と共に液体が注がれる。キノは驚いて目を開いた。

「な、なにを……」

 起きようとするキノをマコは体ごとで押しつける。もう一度、両手で挟まれた顔には、唇が再び重なり合った。彼女を通して体にもう一度注がれる。そのまま喉を鳴らした。

「ワイン?」

 改めて、マコを見る。彼女はバスローブのままで、キノの上に伸し掛かっている。大きく開いたバスローブの間からは、隆起の全てが見えていた。彼女の口に鼻を寄せるとワインの香りが残っている。

「酔ってる」

 グラスにあるワインを口に含み、キノの唇に運び込む。そんなことをマコは繰り返す。

「お、おい……、マ、マコ」

 キノも次第に頭が朦朧としてきた。そう言えば、二人ともお酒には弱いのだ。マコの顔が二重に見える。

 潤んだ瞳、艶のある唇、光る肌、柔らかい体。

「ぎゅって、して」

 キノは強く抱き締めた。そして、これまで以上の濃厚な口づけをする。彼女の舌が絡みついてきた。キノの手はふたつの隆起を手の中に優しく包む込む。唇を離してその小山のひとつに口を当てた。

「ひゃぁ……」

 小さな吐息を上げ、そのままキノの上に覆い被さる。

「可愛い」

 胸から抜け出した左手がマコの小さな臀部へ這っていった。背筋が伸びて硬直すると、上半身が起き上がり二つ山が揺れる。

「キロ、すき。ぜった、まもりたふ……」

 マコはキノを切なそうな顔で抱きしめた。口から一層吐息が漏れ、体が再び反り返る。キノの意識は完全にマコに酔っていた。留め金が外れたように、互いが感じる行為を与え、求め合って愛し合う。荒い息が酔いの勢いと共に膨れ上がる。緊張と小刻みな震えが、波の満ち引きのように何度も、何度も繰り返された。

 しばらく、そのまま動かない。デッキチェアーに裸の二人が密着して横たわっていた。静かな夜の波音とシンクロするように息が聞こえる。

 満天の星空の中、キノは静かに瞳を閉じた。



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