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王冠の余韻

 こうしてナイトの食堂でお茶を飲んでゆっくりしていると、今までと何も変わらないように思える。エリスとキスをしたあと、空腹で慌ただしくなってしまったせいもあるのでしょうけど。


 これからは、やはり忙しくなるのかしら。地位にはそれだけの責任がのしかかりそう。でも、あの学院が私たちに依頼を渡してくるとはあまり思えないわ。世間体もあるし……どうなるのかしらね。


「ん?」


 エリスが船を漕ぐように、頭をうつらうつらと揺らしている。あぁ、そういえばずっと眠そうにしていたわね。忙しい子。私はそのままエリスを影の中へ落とす。


 とぷんっと姿を消したエリスを、クローネがぼーっと見つめている。


「たまにあんたの影の中に入れたりするけど、私たちって入って大丈夫なの?」


「クローネは大丈夫よ。多分、適性があるから。魔族、特に吸血鬼なら入っても負担は少ないんじゃないかしら。一般人でも少しの間なら心地いいでしょうけど、長くいると魔族の魔力が魔力回路に染み込んでいくから、おすすめはしないわね」


「ふーん。でもエリスって、あんたの魔力使ってなかったっけ。本当に龍の魔力だけ?」


「使っているのは龍の魔力だけよ。もし吸血鬼側の魔力を使ったとしても、すぐに消費してしまうから体には残らないわ。一方、長く影に浸かっていると、エリス自身の魔力が流れ出して、代わりに魔族の魔力に侵食されていく感じかしら。影の外に出て休まないと抜けないでしょうね」


「そんな漬物みたいな言い方しなくても……んじゃ、エリスがあんたの魔力で漬物になる前に寮に戻ろっか。行くわよフラン」


「はーいっ!」


 立ち上がると、私たちを見ていた生徒達が視線を逸らす。触らぬ神に祟りなし――そんな反応に見えてしまうわね。そして私たちは寮へと戻り、影に入っていたエリスをベッドに寝かせる。私も少し疲れてフランに抱きついて、一緒にベッドへと沈む。フランは笑顔を見せながら受け入れてくれる。


「フラン借りるわよー……」


「借りられちゃったぁーっ」


 ベッドに腰掛けていたクローネはため息をついたあとに、呆れた様子でつぶやいた。


「別に私の所有物じゃないんだけど……」


「エリス貸すわ」


「あんたの持ち物じゃないでしょ。ていうかあんた従者でしょうが……借りるけど」


 フランと私がベッドを使っているせいか、クローネはエリスのベッドへと移動する。少しだけエリスと距離があるように見えた。私はフランを抱きしめたまま、微笑むように呟いた。


「クローネもエリスを抱きしめてみたら? あまり自分からはしないでしょう?」


「いっ、いいわよ。そんなの」


「でも、あなたからキスするくらいには、エリスのことが好きなんでしょう?」


「あんたが蒸し返すの? それは……嬉しいけど」


「キャラじゃないって?」


「……」


「したいならすればいいのに。あなただって、エリスのこと好きでしょう?」


「さっさと寝れば? 眠いんでしょ」


「はーい」


 フランの胸の中で目を閉じる。背中を優しく撫でられ、安心感が全身に広がっていく。不思議な感覚。フランの「おやすみ」が意識の奥まで染み込んで、そのまま溶けていくように……




「んっ」


 私はもぞもぞと体を動かし、瞼を開ける。


「おはよ、イルナちゃん」


 フランの腕の中で、私は顔を上げる。


「おはよう。心地よかったわ。クローネはいつもこんなふうに寝ているのね。この包まれる感じに逆らえないのは、よく分かるわ……」


 体を起こす。魔力の流れから、大体の時刻を読む。深夜かしら。太陽が昇るにはまだ早そうね。


「フラン、あなたは眠れた?」


「うん、眠ったよー」


 んっ、エリスのベッド……あらあら。仲良さそうに抱きしめ合っちゃって。しかもお手々まで握って。クローネの方が、少しだらしない顔をしている。邪魔すると悪いわね。


「フラン、少しいいかしら?」


「いいよ」


 二人を起こさないように小声で話していたフランを、影の中へ落とす。そのまま影を伝い、寮の屋上へ移動した。特に何もない、ただの屋上。私たちは並んで寝転び、星を見上げる。


「付き合わせて悪いわね。もっと眠りたかった?」


「ううん。お目々ぱっちりだから」


「少し頭の中を整理したかったのよ。フランにも聞いてほしいことがあるから」


 隣で寝転んでいたフランが私の手を握る。その柔らかさが伝わってくる。背中からは石造りの冷たさが染み込んでくる。視線を落とすと、学院の中にある街頭が温かい色を灯している。


「そうね……まず、私とエリスは第十席になったのよね。龍の姿になれない以上、禁忌階梯魔法も使えない。それなのに、相手は禁忌階梯魔法を使ってこなかった。どうしてかしら? そもそも使えなかった? 一応、できるだけ魔力は温存していたけれど……」


 フランはただ静かに、私の話へ耳を傾けていた。私は独り言をこぼし続ける。


「仮説としては、やはり禁忌階梯魔法を使える人自体が本当に少ないんじゃないかってこと。てっきりクラウン以上なら全員使えると思っていたけれど、今のところ実際に使ったのを見たことがあるのは、第零席達とラビ、セリウス達だけ。レギウスはどうなのでしょうね。使える前提で作戦を立てないといけないわ」


 ラビと兄の話が出た瞬間、フランの指先がピクリと動いた。


「……でもその前に、知りたいことがあるわ。世界の本の真相。わざわざ魔法術式にまで隠して伝えるような内容。それに……龍と吸血鬼」

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