↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/92

陛下の代理

 その男の体は白い王族制服の上からでも分かるほど鍛えられた逆三角形で、フランと同じ金色の髪を後ろへとなびかせている。会場を掌握するような声が、その存在感をさらに際立たせていた。


「私は王位継承権第二位――レギウス・エルワース・ファニスだ。先日の学院での事件、知っている者も多いだろう。はっきりと告げておく。この国の信頼、価値を落とすような行為は今後避けていただきたい。どのような事情があろうと、私は制裁を下す。私の言葉は陛下の言葉と心得よ」


 たったそれだけのこと。けれど会場が冷え切ったのを、私は肌で感じた。彼がこの国の貴族を掌握していることは、誰も口を挟めずにいるこの空気だけで十分に伝わってくる。


 王位継承権第二位という立場でありながら、陛下の代理を宣言している。それだけ陛下からの信頼が厚いのでしょうね。


 彼は大剣を背中へと戻し、背を向けた。静まり返った会場に、足音だけが一つ、また一つと響く。彼が姿を消してから、ようやく徐々に活気が戻ってくる。フィアナが冷徹であるなら、レギウスは冷酷。そんな小さな声が聞こえてきた。


 隣でリゼットが一瞬寄り添うように肩を優しくぶつけてくる。


「あれがあなた達が倒そうとしている相手、レギウスね」


「そのようね。今日は彼を見ることはないと思っていたわ。去年も姿を見たことがなかったから。相方が見れなかったのは残念だけれど」


「彼についてはあまり知らないわ。悪いわね。私たちが第七席に入った時、クラウンとスローネが集まったの。席順位に変動があると、集まることになるらしいわ。そのときに顔を合わせた程度ね。彼のペアは騎士のような人物だったそうよ。私は棺で寝ていたから、セリウスから聞いた話でしかないけれど」


「十席のことだけで十分よ。ありがと」


 一瞬、彼女の頬にキスをしそうになったけれど、止める。危なかったわ。人のものに手を出す趣味はないもの。代わりに、寄り添うように肩を軽く当てた。彼女は目を丸くした後、ふっと表情を崩し、私と笑みを交わした。


 そして真紅のドレスを揺らしながら私から離れていく。


「セリウスの挨拶回りが終わりそうだから。約束――守ってね」


 リゼットは軽く私にウィンクをして、人混みの中へと消えていった。入れ替わるように、少しぶどう酒の匂いをまとった重みが私の背中にのしかかる。


「イールーナーさんっ」


「エリス。突然抱きつくなんて珍しいわね」


 やっぱり酔っているのね。積極的なエリス……悪くないわ。私は抱きつかれたまま、彼女の腕を優しく撫でた。


「お仕事は終わったのかしら」


「はいっ! 私はそこまで縛られていませんから。あとはアルバートが頑張ってくれています。クローネさんは次期当主なので忙しそうですねー」


 耳元で聞こえる彼女の声は、とても上機嫌だった。人前だというのに気にせず抱きつき、頭を軽くこすりつけてくる。それでも髪のセットは崩さないのだから、さすがね。


「さっき、リゼットと話をしたわ。クラウンの第十席についていろいろと聞いたの。まだ少し先の話だけれど、あとで共有するわ」


 エリスは頬を寄せるようにして、私の頬へ自分の頬をむにっと押しつけてきた。これは……貴族的にどうなのかしら。まぁ、幸い誰も見ていないからいいけれど。


 ふわふわしているエリスを連れて、私はテラスへと出てきた。ここで少しエリスの酔いを冷ましてあげようとした。なのに、エリスは耳元でささやくの。


「イルナさーん……ここ、誰も見てませんね」


 耳を優しく噛まれると、私から甘い声が漏れる。彼女は嬉しそうな声で耳元で囁いた。


「気持ちよかったですかぁ?」


 少し呂律が回っていない彼女の声に、私は限界を迎えた。即座に振り返り、テラス窓からは見えない端で彼女を壁に押し付ける。彼女の片手を壁に押し当て、首筋にキスをする。


 肩が露出したドレスは、エリスを艷やかに演出している。酔いで赤く火照った頬、とろんとした瞳。首元への甘噛みで、足を震わせる反応。


「んっ……あっ……イルナさん……」


「誘ったのはあなたでしょう?」


 お互いに視線が絡み合う。今日は――食事じゃない。


 私が迫るように顔を近づけると、彼女は迎えるように顎を上げた。仮ではない主従契約を結んでから、キスをする口実は減っていた。いつしかそれは、吸血に取って代わられてしまったのだ。


 甘く、長いキスはとても心地よかった。彼女の小さな舌が必死に私の舌を追いかける。離れれば、逃さないように追いかけてくる。その懸命さが愛おしい。


 一瞬、エリスの手首に力が入るのを感じた。それは私も同じ。エリスは掴まれていない方の手を、私の手と重ね合わせた。強く指を絡め合いながら握りしめる。


「あっ……んっ……」


 甘い声は次第に速度を上げる。私はエリスの手首を強く握りしめた。唇は離れ、頭をエリスの胸に押さえつけながら腰を跳ねさせる。下唇を噛んで反応に身を任せる。


「はぁーっ、はぁーっ……」


 私の垂らした舌から唾液の糸が伸びていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。