第二位の罰
彼女は少しワインを傾けると、私に言った。
「……セ、セリウスは当主としてあいさつ回りよ。私は逃げてきたってわけ。別の話をしましょ。別の話。あなた達、第零席が目標なんでしょ? 大抵席順位を駆け上がっているのはそういう子たちだから」
「えぇ。なるわよ」
「自信満々ね。ならナイトからロードに入って、それからクラウンに入らないとね。つまり十席以内に入ること。そうすれば第零席に挑戦できる。どう? 私たちに挑戦してみる? 言っておくけど、手加減はしないわ」
唐突に放たれた殺気が肌を撫でる。それでも私は微笑んだ。リゼットの挑発に乗るつもりはない。
「やめておくわ。それも面白そうだけれど、その気になれないもの」
「あら、残念」
私はウェイターからワインを受け取ると、口元につける。
「セリウスが第七席になったのはあなたを人間に戻す為でしょう? それをわざわざ邪魔するようなことはしたくないわ」
「その件ならもういいんだけどね。私が人形のままでいいと言ったから。でも彼はできれば人間に戻すための手段は持っておきたいんだって。だから人間になるための手段は最優先ではなくなったの。正直、挑まれても邪魔されたとは思わないけど……」
「どちらにせよ挑むつもりはないわ。第零席を前にあなた達のような強敵と戦って消耗したくないもの」
「随分と褒めてくれるのね。確かにクラウンからロードに落ちても、すぐにクラウンに戻るけどね」
リゼットのその言葉に私は苦笑する。そうでしょうね。あのロッドとの戦いで、あなた達がクラウンの中でも強すぎることは理解していた。セリウスは嘘をついていなかったのだ。「そこそこの順位でいい」という言葉は、もっと上を狙えるという意味だった。
リゼットが王族の座る上階へと目を向ける。同時に会場が静けさに包まれた。陛下、及び王族達が入ってくる。フィアナ、それにレギウスとやらもいないわね。でも、相変わらず豊かな胸を強調するフランは、とても――
一瞬、思考が途切れた。
「……」
私の雰囲気の変化にリゼットも気づく。
「どうかした?」
「ちょっとね。様子がいつもと違うから。影に潜るわ」
「ふーん。深くは問い詰めないわ。いってらっしゃい」
私は影の中に身を潜めた。私を見つけられたのはエリスだけ。セリウスに察知された時も、見つかってしまってもいいという探し方をしたからだ。
だから今なら、誰にも気づかれずにフランへ近づける。私は上階へ移動し、そっと彼女に話しかけた。
「フラン……あなた、その姿どうしたの」
目元だけだった仮面は顔全体を覆うような仮面へと変わっていた。それに、両袖がドレスの胴体に巻きつけられている。自由に動かせるのは足だけ。
フランから返事はない。
「フラン、大丈夫?」
彼女は首を縦に振った。けれど耳を澄ますと、ふーっという息の漏れる音がする。口元を何か布で塞がれている? 本当に大丈夫と言えるのかしら。
こっそりと手を出すわけにもいかない。けれど彼女に頼まれたら……私は見つかる覚悟で助けるわ。
「フラン、何かしてほしいことはあるかしら?」
首を横に振るフラン。私は目を伏せて、影の奥深くへと潜った。そしてリゼットの元へと戻る。
「あら、おかえりイルナ」
「えぇ。少し友人が窮屈そうにしていたから様子を見てきたの。本人は大丈夫と言っているけど……」
「心配してるのね」
帰ったら……何があったかちゃんと聞くわ。理由もなくあんなことをされるわけがない。心ここにあらずの私に、リゼットが手を引いて外のテラスへと連れ出す。
少しだけ頭が冷えた。
「ありがとうリゼット。楽になったわ」
「私が外の空気を吸いたかっただけ」
「そういうことにしておいてあげるわ」
夜空の満月を見上げながら、彼女は私に言った。
「もし、クラウンの情報が欲しいのなら与えられる相手がいるわ。第十席について」
「随分手厚くサポートしてくれるのね?」
彼女は口元に人差し指を当てながらクスッと笑った。
「私お友達あなた達しかいないから」
「そうなの?」
「私は日が出ている時は寝ていることが多いから。ずっとセリウスだけだった。報酬は……んー、今度お茶しよっか」
「そんなことでいいの?」
「そんなことが、とても大きなことなの。人形になる前はずっとベッドの上。ただ部屋か少し歩く程度が関の山だったから」
「……そう、分かったわ。とても難しいことだったのね」
アンナもそうだった。ずっとベッドと庭だけ。私のような魔族にさえ優しくしてくれた。幸せだと言ってくれた。リゼットの境遇は、あの子とよく似ている。もしかしたら病気も一緒かもしれない。
私はリゼットから十席の情報を受け取った。二人組の男性で、片方は治癒の貴族。もう一人は十二の貴族ではないという。必要な話を聞き終えると、私はリゼットと約束の指切りをした。
肌寒くなってきた私たちが会場へ戻った時だった。金属を地面に叩きつけるような音が、会場に響き渡る。
上階の王族がいる場所で、鞘に収められた大剣を両手で床に叩きつけた人物が、冷たいオッドアイで会場を見下ろしていた。




