王位継承権第二位
私はクローネの元取り巻きだったベールに教室に入りたいと言った。彼女はグッと顔を上げ、私を見た。
「ご迷惑ですか?」
「かわいい子に好かれるのは悪い気はしないわ」
私はベールの頭をぽんぽんっと優しく撫で、落ち着かせる。
「良かったですー! 学院祭で混乱があってから、みなさんのことをお見かけしなかったので……」
「少し色々あってね。フランが怪我をしてしまったから離れていたのよ。そういえば聞いたわよ。新しいペアと順位を上げているそうね」
「はいっ! イルナ様たちがアッシュであるにもかかわらず、順位を上げていく姿がかっこよくて……それに、アッシュのみんなが勇気をもらっているんです。アッシュなんか関係ないって」
「そう。いいことよ」
アッシュだからと怖気づいていた子も多いのでしょう。現にエリスも本当はすごく強いのに、怖気づいていたことで実力を発揮できていなかったのだから。
ベールは私から離れ、今度はクローネに近づいた。クローネは警戒しながら、一歩足を引く。
「なっ、なによ」
ベールは下を向いたまま、クローネの裾を指先でつまんだ。
「その……」
「……なに」
「ご無事で良かったです」
「……はぁ?」
クローネは裾をつままれたまま、どうしていいか分からず、あたふたと両手を動かしていた。そういえば、仲直りしていなかったわね。この二人。
ベールは裾をつまむ指に力を込め、下を向いたまま言葉を続ける。
「クローネ……様のお父様に命令されて、近づいていました。分かっていたと思います。それが、貴族ですから。貴族は、息苦しくて、みんな意地悪で、家も社交界も。負けたら追い込むために、切り捨てるようにと言われて、強く当たりました。私自身も、鬱憤を晴らすように」
「んなもん気にしてないわよ。私がエリスにしたこと、分かってるでしょ? それに比べたら、あんたたちのやったことなんてかわいいもんよ」
「ごめんなさい。これは私が……クローネ様にしたことですから」
「ん……まぁ、そうかもだけどさ……分かった。許す。はい、終わり」
クローネは裾をつまんでいたベールの手を外し、そのまま強く握った。
「なっ、仲直り。上下とかどうでもいいから。友達ね。友達……様とかいらないし。そんなのは社交界だけでいいわ」
「クローネさ……クローネ」
ベールは、ぎゅーっとクローネに抱きついた。それからエリスに向き直り、「意地悪してごめんなさい」と頭を下げる。
エリスは満面の笑みを見せた。本当に何も気にしていないような笑みだった。わだかまりが消えたのか、ベールはその場で泣きはじめてしまった。
教室に入るのは……もう少しあとになりそうね。それに……謝る順番を待っている子が、あと二人いるのだから。元取り巻きではなく、友達になるために。一度きちんと謝るって、大変なのよね。それに、みんな貴族だもの。
――いつもの日常が戻ってきた。時折ベールたちも会話に混ざるようになり、他の子も私たちに話しかけるようになっていた。今、アッシュで最も順位が高いのは私たちだった。
私とエリスは訓練を続け、廃人化していた間に下がった順位を取り戻して、二百十位まで上がった。フランたちは、私が廃人化していた間にも順位を上げていて、今は三百位前半。私たちもフランたちも、百一位から四百位までのナイト階級だった。
昼時、私たちはナイト以上が使えるレストランで食事をしていた。クローネは机に突っ伏し、私は肉が届くのを楽しみにしながら紅茶をすすっている。
「はぁ……」
「どうしたの? 元気ないわね」
「そりゃそうよ。結構、挑戦を受けるんだから。アッシュだからって舐められてるってこと。あんたらは良いわよね。強すぎるってんで、あんまり挑まれないんでしょ?」
「そうね。挑戦される側にとってはあまりメリットもないし、挑まれないに越したことはないもの。それにアルバートを倒したことが大きいのでしょうね。期待の新星だったわけだから」
「こっちは毎日毎日受けては、間を見つけてランクアップに勤しんでるってのにさ」
「ふふっ、経験豊富でいいんじゃないかしら? でもラビを呼び出せば楽になると思うけれど。なぜ手伝ってもらわないの?」
「あれは隠し玉。戦えば戦うほど研究されるんだから。負けて多少順位が下がるくらいなら出さないほうがメリットがあるの。せめてロードに上がってからかなぁ」
コトッと肉が届けられる。
「話は全てこのお肉を食べきってからよ」
「あんたの優先順位、まず第一に肉なのなんとかなんない? ならないか。私の苦労なんて肉以下だよね。はいはい」
「もぎゅもぎゅ」
「……リス」
クローネはそういいながら、自分の所に運び込まれたコーンスープにスプーンを鎮める。私は次へ次へと肉を頬張り、満腹になる。
「ふー……とても美味しかったわ」
「食べるときだけはほんと人が変わるわね」
「内なる龍が肉を求めてしまうのよ」
「まぁあんな状態が内に存在しているんだから、そりゃ分かるけどさ」
ピタッ……とクローネの手が止まった。どうやら、気になる噂話が聞こえてきたらしい。一つ隣のテーブルから、男性二人の会話が聞こえてくる。
「なぁ、第零席がフィアナじゃなくなったんなら、狙えるんじゃないか? あの化物じゃないなら、可能性だって」
「やめとけよ。相手は第二位だぞ」
「第二位?」
「エルワース王国の王位継承権第二位――レギウス・エルワース・ファニスだよ。ムリムリ。相方は封印の貴族だぜ?」
私とクローネ、そしてエリスは、そろってフランを見る。フランは慌てて首を横に振った。
「わっ、まっ、待って。私……お兄ちゃんについては何も知らないから……」




