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 ヴィーはその大きな狼耳を垂らしながら私に呟いた。


「あっ……ありがとな。あんたがベンを助けられるように、助言しておいてくれたって。ユーリから聞いた」


「失敗していたら私が終わらせていたわ。感謝されるようなことでもないの。ただ可能性があったから賭けただけ。大事だったんでしょう? ユーリに運ばれる間も暴れていたし。それに、頬をぶん殴って戻ってくるなんて、かわいらしいじゃない。第零席とは思えないわ?」


「あ、あれはっ! 仕方ないだろ……ベンは私にとって本当に……小さい頃から私は泣き虫で、弱気でさ。でも、その度にベンが側で腰を下ろしてくれたんだ。自分がついてるぞ、って言うみたいに。それで、原初回帰したベンの隣に立てるようにって頑張ったわけだしな。あいつがいなくなったら……もう意味ないんだよ」


「はいはい。長々と惚気ね」


「ちげぇ!! くそっ……」


 尻尾が痛いのよ。違うとか言われても。クローネはグラウィスでガードしているけど、私には直撃しているんだから。指摘したら面倒になりそうだから、わざわざ言わないけれど……


「話はそんだけだっ!! じゃあな。本当にありがとな。借りにしとく」


「えぇ、そうするわ。また会いましょ」


「会えても来年だろうな。大陸間の移動ってのは早々できるもんじゃない」


 彼女は手を振り、部屋から出ていく。


 私はため息をついた。廊下に強い気配がある。すぐに誰だか分かった。立ち去ろうとする足音が聞こえ、私は仕方なく影に潜って後を追い、廊下へ出た。


「あなた、フランの姉だったのね」


「……そうだ」


 フィアナとメリーが廊下を歩いていたが、私の声で足を止めた。私は気さくに話しかける。


「会いたいのに会えない。そんなところかしら? 話を聞く限り、面倒な事情がありそうだものね」


「……フランは、元気か」


「えぇ。片手が粉々に砕けているけれど」


 殺気を放つフィアナをなだめるメリー。結構大変な役割ね。


「復讐したいのは分かるけれど、もういないわよ? 私が殺したから」


「そうか。分かった」


 納得はしてなさそうね。口では冷静だけれど、自分の手でというのが見え見え。正直病院で殺気とかやめてほしいのだけど。


「でもフランは本当に大丈夫よ」


「……感謝する。私は助けに行けなかった」


「当然のことをしたのよ」


 私はふと、メリーの名前について気になった。


「ねぇ、どうしてあなたはメリーとしか名乗らないのかしら? 第零席の祭典でも、メリーとしか呼ばれていなかったわよね?」


 メリーはフィアナを抑えるように抱きついたまま、私の問いにニコッと笑う。


「奴隷だったの」


 じとーっと私はフィアナを見る。


「違う。私が奴隷にしたのではない」


「ふふっ、分かってるわよ。少しイタズラしただけ」


「私が学院の依頼をこなしに行ったときだ。悪逆非道の街があるというので、調査に向かった。そこで、馬車馬のように働かされていた彼女を保護した。少ない食事で通常の獣人の数十倍は働けるからと、こき使われていた。今は私の世話役兼、私の魔力変換を手伝ってもらっている」


「魔力変換? それは何をしているのかしら」


「一度メリーに魔力を渡してから返してもらうことで、魔力を増幅させている。私が大規模な魔法を惜しげもなく使えるのは、メリーがその調整をしてくれているからだ」


「ふーん、なるほど」


 私のマスケット銃と同じ役割、というところかしらね。フィアナは私に背中を向けた。


「時間だ。感謝している」


「受け取っておくわ」


 メリーがニコッと笑いながら振り返り、元気よく手を振っていた。過去を感じさせないほど明るい笑顔。彼女もきっと大切にされているのね。


 ――数日後、私たちは退院したフランと一緒に寮へ戻ってきた。まだ手の骨折は治らないけれど、だいぶ良くなったとフランは言っていた。


 私は自分のベッドに寝転び、伸びをした。フランが退院するまで、私も病室のベッドを使わせてもらっていたからだ。久しぶりの寝床に、体の力が抜ける。


「んーっ……やっぱり落ち着くわね」


 エリスがクスッと笑みを見せながら側に座る。


「そうですねー」


 和やかな空気の中、私は目を閉じた。入院中、あの後に来た客はマーカスだった。フランの状態を確認しに来ていたのだ。マーカスにもフランが王族であることはバレていなかった。


 マーカスはフランの無事を確認すると、表情が緩んだ。まるで孫でも見るみたいに。それから私たちには分からない魔法術式のあれこれや、隠された魔法術式などいろいろとフランと熱く語り合っていたわ。


 フランは、マーカスに対し、危険に飛び込んでくれたことを感謝していた。マーカスは少し照れくさそうに、いても立ってもいられなかったと語った。


 彼は満足した顔で、工房に戻ると言った。フランと話したことでいろんなアイデアが浮かんだとのこと。いつまで経っても、魔法術式のことで頭がいっぱいなのね。



「はぁ……ぜーんぶ解決したわね。黒本も、二人の黒幕も、アフェイスのことも。ギルドと王国軍が掃討したようだから」


 でも私には、まだ解決していないことがある。私の出生と、エリスがどうして龍の魔力を使うのかという疑問。そして、それ以上に大事なこと――約束。


 ――私とエリスはスローネに座る。

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