お腹が空いたから
「ちょっちょちょっ……何よっ」
私が顔を上げて近づくと、クローネはエリスとフランを起こさないように、とても小さな声で抗議した。私がシーツに手をつくと、マットレスがゆっくり沈む。右手を胸元に添えると、鼓動が手のひらへドクンッ……ドクンッ……と伝わってきた。
落ち着いているけれど、少し速い。身を乗り出すと、私の息が彼女の首筋に当たる。視線を上げると目が合った。クローネは恥ずかしそうに顔を隠し、声を失う。
「クローネ。お腹すいたの。血をいただいてもいいかしら?」
「……痛い?」
「分からないわ。でも、吸われた子がどうなるか……あなたには分かるでしょう?」
軽くキスをする。抵抗しない。私の背中にするりとクローネの手が伸びてきて、少しだけ抱き寄せられた。私は彼女の首筋に唇を押し当てる。滑らかな肌の感触に、唾液が伝い落ちた。
私は自分の牙を押し当てた。
「あっ……」
クローネは恥ずかしそうに口を閉じる。私がクスリと笑うと、抗議するように強く抱きしめてきた。ガリッ……と牙が皮膚を破る。
「痛っ……」
後で相手をしてあげるって約束もしていたものね。覚悟はしていたみたい。口の中に滲むように流れてきた血を、私は吸い取った。
「ちゅっ……ちゅるっ……」
「んんん~~~ッ!」
私の片足が、クローネの両脚に挟まれる。痛いくらいに抱き寄せられるけれど、私は血を吸うことに夢中だった。おいしい。龍の姿になったこともあり、すっからかんだった私の体へ魔力が流れ込んでくる。吸血による増幅と転換、そして循環。全身が満たされていくようで、心地良い。
「あっ……んん……ッ!! これっ、やっ……」
ギシッ……とベッドが揺れる。クローネの腰が跳ね、一瞬私を押し上げるほどだった。タンッ……と私の背中を叩かれる。
彼女のかかとがベッドのシーツをこする。
「はっ……あっ……まっ」
私はクローネの口の中に指を入れた。小さい舌が指先に触れ、唾液に濡れた指を甘噛みする。
「ふーっ、うっ……ふーっ……」
そうそう。エリス達が起きてしまうわ。荒くなっていく息遣いが聞こえる。クローネは声を押し殺しながら私の指を舐め回し、両足をピンッと伸ばした。
――ガクガクッ。
クローネの震えが止まらなくなる。力いっぱい足を伸ばしちゃって、かわいいっ。やがてピタッ……と両足が力なくシーツについた。甘噛みされていた指が、カパッという音を立てて離される。
私は吸血を終えて、少し体を浮かせた。
「ごちそうさま」
涙と唾液でぐちゃぐちゃになったクローネの顔を見下ろす。口の中に入っていた指を自分の口元へ近づけると、たらりと唾液の糸が伸びた。
私はその指を舌で舐める。
カァーッと赤くなっていくクローネ。
「……変態」
私はその言葉にクスクスと笑った。
「そんなに反応して……よく言えるわね?」
息を荒くしたまま、彼女は顔を隠した。
「うっさい、バカ」
クローネはそう言うと私を押しのけた。
「ひゃん」
「お風呂に入ってくるから、備え付けのがあるっぽいし。言っとくけど……邪魔しないでよね?」
「ははーん? あなた、濡ら――」
「グラウィス」
私はその場に押さえつけられる。ほっぺを膨らませて、私は大人しくしていた。彼女が着替えを持ってシャワー室へ向かい、扉の向こうへ消える。それと同時に重力魔法が効力を失う。私はニヤリとしながら影へと潜り、シャワー室で影から顔を出す。
「なーんて、大人しくしているわけないじゃない」
「ひゃっ!! なんであんたここにいるのよっ!!」
「同性なんだから気にしないの」
「そういう問題じゃっ……! ちょっ、んっ~~!!」
三十分後、私は湯気の残るシャワー室を出た。遅れて出てきたクローネは足をふらつかせ、頬を赤くしながら私を睨みつけている。その様がかわいくて仕方がない。
「はぁーっはぁーっ。あんた……覚えておきなさいよ……」
「あなたがいずれ私を負かすことなんてあるかしら?」
「むぐぐぐっ……!」
騒動の後、クローネは放心してベッドに横たわり、ぼーっとしていた。私も満腹になり、エリスに抱きつきながら余韻を楽しんだ。
それから数時間が過ぎた。パチッとエリスが目を覚ます。
「あっ……おはようございますイルナさん、クローネさん」
私とクローネは、おはようと返した。
「あれ、クローネさん? 目を覚ましたみたいですがなんだか……元気がないですね。まだ疲れが残りますか?」
「……あんたのペアのせいで、体力もってかれたわよ」
「私のペアの……せいで……」
私は妖艶に牙を見せる。エリスはクローネに負けないくらい赤くなっちゃって。自分の噛まれ痕を押さえて、想像してしまったのね?
「それは、その……すみません……」
「いや、別に……私も……受け入れたし……」
どんどん声が小さくなっていく。クローネは咳払いをすると、眠り続けるフランへ視線を向けた。
「それにしても起きないわね。フラン」
「仕方ありませんよ。捕まっている間に精神的な負担を受け、片手の骨まで粉々になってしまいましたから。それに、無理をしてイルナさんに魔力を提供していましたから」
「フランなりに頑張ってたからね。仕方ないか」
フランがモゾッ……と動く。顔がゆっくりとこちらを向いて、瞼が開いた。オッドアイの瞳が優しく私たちを見つめている。
「みんな……ごめ……んなさいっ」




