首切りのオルゴール
不気味なオルゴールが速度を上げ、スポットライトを浴びたロッドに鎖が巻き付く。身動きの取れなくなった彼は、必死の形相で訴える。
「待て! なぜ私がこんな目に遭わなければならない! 私はルールを守り、自身の研究意欲に従っていただけでしかない!」
「知らない。あなた自身が罪ではないと訴えても、裁くのはあなたじゃない」
リゼットが片腕を真横に伸ばす。その体躯には不釣り合いな、闇で作られた重厚な片手斧。滴る影が血のように床へ落ちる。ロッドの首から下は鎖で完全に覆い隠され、逃げ場はどこにもなかった。
「こんなっ……ことをしてっ! 世界にとって私を失うことがどれだけの損失か分かっているのか……!! 天才を一人失うことで一体どれだけの停滞が起こるか……!!」
「――この世界に意思はない。あなたの損失を嘆く世界という主体は存在しないの」
キィィ……という音とともに、ロッドは立ったまま小汚い棺の中へと消えていく。軋みながら棺の扉が閉まり、中から悲痛な叫びと訴えが漏れ出していた。
――断罪。
重厚な片手斧の刃が、棺の中へ突き込まれる。ひときわ高い叫びが響き、それきりロッドの声は静けさへと消えた。棺の底から赤い血が漏れ出す。リゼットは片手斧から手を離して踵を返し、広がる薄汚れた血を避けるように歩き出した。
リゼットは静かに、その指先をセリウスに当てた。禁忌階梯魔法が崩れ落ち、鎖が二人を取り囲むように地面へ転がった。
「セリウス。終わらせたわよ」
セリウスは言葉を返さない。鎖の音が止み、夕日はほとんど消えかかっていた。彼女は彼の顔を撫でて慰めた。
「これが運命、失ったものは取り戻せない。私がここにいるのは、あなたが運命を従わせたから。たとえあなたが私を傀儡にしなくても、この運命は訪れた。そうでしょ?」
セリウスは答える代わりに膝をついた。深くため息をつき、遠い目をしている。リゼットはそんな彼を優しく抱きしめる。
「本当に昔から、泣き虫なんだから。体ばっかり大きくなって、中身は本当に変わらない。今でも後悔しているんでしょう? 私を人間に戻すためにクラウンの第七席にまでなって、その権限を使って毎日学院の指定図書を読み漁って。私はこのままでもいいのに」
セリウスの腕が、彼女の背中でわずかに震えた。
「俺は……リゼットを、死なせたくなかった。俺の勝手で、お前を――人間ではなくしてしまった。その責任を……果たさなきゃならない。リズも、家族も、みんな、死なせたくなかった――俺は、間違っていたか」
セリウスは、言葉を区切りながら呟くように吐露した。
「そんなの分からないわ。けれど私は傀儡でも構わない。あなたが死んだ時、あなたの魔力が無くなって私も機能を停止する。それでもいい。あなたが私をずっと好いてくれていることは知ってたよ」
「リゼット……」
「私もあなたを好いてる。ずっと――昔から」
彼女はセリウスの頭を優しく撫でながらそう呟いた。その瞳は潤み、涙が頬を伝う。
「あなたの泣き虫、移っちゃった」
「リズ……」
その呼びかけに、彼女は小さく笑った。最初に名乗った、オートマトンの出来損ないという言葉。それは自分がまだ、人間であると伝えたかったのかしら。
夕日が沈んだ時、私は影に溶けてその場から姿を消した。
――王国内の魔法病院。私はその一室に姿を現した。二つあるベッドでは、クローネとフランがそれぞれ眠っている。フランは深刻な状態だったし、クローネもあんな無茶な戦い方をしたのだもの。仕方ないわ。
クローネのベッド脇では、エリスが椅子に腰掛けたまま、ベッドに頭を乗せて眠っていた。私が魔力を吸い尽くしてしまったから、疲れているのね。
そっと、できるだけ優しく彼女の頭を撫でる。
「んっ……イルナさん?」
「ごめんなさい、起こしてしまったかしら?」
「大丈夫です。少し、眠っていただけなので。どちらに?」
「もう一人の黒幕の結末を見に行ったのよ。終わったわ。この事件は終わりよ」
「そうですか……良かったです」
「えぇ。そう言えばマーカスはどこに行ったのかしら?」
「マーカスさんは宿に戻りました。軽症だったこともあり、元気でしたよ」
「良かったわ。私が巻き込んだようなものだもの」
私はクローネのベッドに腰掛ける。言葉はない。ただ、訪れた安寧に身を任せた。遠くで聞こえる足音も、今は気にならない。クローネとフランの回復を願いながら、待ち続けた。学院祭は、もう終わっているでしょうね。第零席たちの戦いも、最後まで行われていたのだから。無理に続ける理由がないわ。
「すごく……疲れたわ」
その呟きを最後に、気がつけば私もエリスもそのまま眠ってしまった。
――何かが動く気配に、私はうっすらと目を開けた。目の前には、壁に頭を預けて眠るエリスの顔がある。そっと顔を上げると、頬を赤らめたクローネが私を睨んでいた。
「重いのよ、バカ」
シーツの上で、私はクローネを抱き枕のように抱えたまま眠っていたらしい。私はその場から退かず、彼女を見上げながら呟いた。
「――お腹、空いたわ」




