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テスト返却

 時間は過ぎ、夜は深くなった。今日はフランがいるため、私はエリスと同じベッドで眠る。フランの寝息が耳に入ると、私はエリスを後ろから抱きしめた。


「んっ……!?」


 びくっと震えた小さな体を私は逃さないようにそっと力を込める。私の両手に彼女の手が慌てるように重なる。フランを起こさないための小さな抗議。


 耳が赤いのが丸見え。ドクドクと、鼓動の速さが伝わってくる。私の両手はエリスの服にシワを作りながら、柔らかいお腹の感触を堪能する。


「あら? 眠れない?」

「当然じゃないですか……!」


 小さい声なのに強い主張。私に少し顔を向け、ほっぺを膨らませている。私は指でプスーッとその空気を抜くように、ほっぺを指で押すとシューッと空気が抜けるように縮んでいく。


「ねぇ、今日の盗賊との事件あったでしょう? あなたがどう思ったか教えてくれる?」


 エリスは膝を抱えるように少し丸くなった。抗議のことなど忘れて、素直に胸の内をこぼした。


「……短剣が向かってきた時、全身が寒くなって怖くなってしまったんです。イルナさんに助けられてなかったらって。私はまだ弱虫なんだって。第三階梯魔法を使われた時も、勝てないって思ってしまった自分が悔しくて」


 エリスの頭を優しく撫でる。


「それはとても大切な感情よ。その経験があるから、乗り越えようと思えるんだから」


「はい。乗り越えて見せます。私は……クローネさんに勝って、スローネに座るんです」


 私はおやすみと囁いた。まだ急ぎ足の彼女の心臓の音を聞きながら眠りへとついた。



 ――私はベッドで目を覚ます。少し外が明るい程度。まだ授業までは時間があるわね。もう一眠りしようかしら。スカッ……と抱きしめようとした手が空振る。そのまま体を起こすと、エリスとフランが机に向かっていた。


 エリスは黙々と。フランは頭を抱えながら、うーとかあーとか言いながら体をよじっている。私は布団に身を包んだまま二人に声をかけた。


「こんな時間から二人共お勉強? フランも勉強しているのね。少し意外かも。こんな失礼だったかしら?」


 フランがビクッと反応する。


「あわわっ。ごめん起こしちゃった? 私結構動き回るから……」


「自然と目が覚めただけよ。気にしないで」


「よかったぁー。私は勉強って感じより、どうしたらもっと強くなれるかなぁーって考えてるの。エリスちゃんみたいに頭がすごくいいってわけでもないからさ。テストの成績も結構偏ってるの」


「大丈夫よ。強くなるのに学業の成績だけが必要なわけじゃないわ。何か得意分野を一つ伸ばすだけでもいいの。それが誰にも負けない武器になるかもしれないでしょう?」


 エリスがちょっと私の胸に刺さりますー……という声が聞こえてくる。私はあなたにはあなたの強みがあるわよ。とちゃんとフォローしてあげる。


 フランは私の言葉が嬉しかったのか、頑張るぞー! って手を高く掲げている。本当に朝から元気な子。けれどそれも仕方のないことかもしれないわね。フランの席順位は最下位。つまり、退学の危険性が一番高いのだから。


 ――私とエリス。そしてフランは横並びで教室の席へと座る。今日は少し天気が悪い。太陽の光は遮られ、部屋も少し暗い。天気など関係がないようにフランはそわそわとしていた。理由を聞くとどうやら今日はテストの返却があるらしい。私はそのテストを受けていないから暇な時間ね。


 フランの名前が呼ばれる。少し微妙な顔。本当に分かりやすい子。エリスは……いつも通りね。私は頬杖をつきながらエリスに問いかけた。


「どうだった?」


 エリスはにこっと満点のテスト答案を見せた。


「学年で一位だそうです!」


 よしよしと彼女の頭を優しく撫でる。目の端でクローネが答案用紙を受け取っているのが見えた。次の瞬間、彼女の背中が小さく震え、手元で答案用紙をくしゃりと強く握りつぶす音が聞こえた。あまりいい成績じゃなかったのかしら。背中を向けているから表情は見えないけれど……


「こっ、子供じゃないので撫でないでくださいっ」


 口角上がりながら表情が崩れているのだけど……説得力がないわねこの子。



 ――昼食の時間。エリスとフラン一緒に食堂へ。食堂のおばちゃんにグリズのステーキを一人前だけ頼む。おばちゃんは目を丸くしてもう一度確認をとった。


「一人前? どこか調子でも悪いのかい?」


「レートがないのよ。ちゃんと栄養は補給するから安心してちょうだい」


「そーいうことかい。あいよ。じゃあ少し大きめに切っておこうね」


 私、このおばちゃんが好きだわ。



 ――教室へと戻ってきた時、エリスはロッカーを何度も確認して焦り始めた。教科書が無くなっている。私もそこに教科書を置くのを見ていたから、勘違いではない。


 彼女はあちこち探し回って――やっと見つけた。教室のゴミ箱の中だ。しかもご丁寧にコーヒー牛乳がかけられている。


 クスクスと笑い声が教室の聞こえる。見るまでもない。クローネの取り巻きたちの声だ。私は一歩ずつ近づいていく。一人の顎を掴んで問い詰める。


「ねぇ……これクローネの指示?」


「なによ……! あんたには関係ないでしょ?」


「私の大事なペアに起こったことだもの。関係あると思うけれど」


「そうだったらなんだっての? クローネは貴族よ! あんな落ちこぼれの貴族の恥さらしとは違って、正当なる血筋なんだから!」


「ふーん。それで?」


「それでって……」


「ペアのためであれば十二の貴族だろうと平気で的に回すわ。そういうものでしょう? あなたはできる? クローネのペアなのでしょう?」


 取り巻きの子は私が言っていることを受け入れられないと言った様子だった。

 ――直後、私は言い淀む彼女の顎から首へと手を動かした。親指で空気の通り道を静かに抑える。親指を伝ってつばを飲む動作が感じられた。ひどく怯えた目が私を見下ろしている。

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