↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/92

アフェイス

 彼は驚く私の顔を見ることすらせず、ため息をついた。


「お前、どうやって俺を見つけた」


「影は私の手中よ。学院中に影を張り巡らせて探したわ。あなたのような強い魔力を持つ人ならすぐに見つかる……代償に少々消耗したけれど、構わないわ。後で補充するから」


 彼は下水路の天井を見上げる。


「祭りの喧騒から離れた場所で、俺はリゼットの魔法術式を調整していた。だがな、突然警備兵に囲まれた。一部でリゼットが民間人を襲っていたと容疑をかけられてな。ずっと背負ってたってのに迷惑な話だ。黒本をオートマトンに変えたのもお前だと言われた」


 棺の中からは少女の寝息が聞こえてきていた。私は影の椅子を作り、彼の隣に腰掛ける。


「マーカスが言っていたわ。棺の魔法術式と、黒本の魔法術式が酷似しているって。でもね、彼はこうは言わなかった。同じであると」


「あのドワーフに対して随分な信頼を持っているんだな」


「まぁね。大切なものを預けるくらいには信頼しているわ」


「俺は黒本を見ていない。騒ぎの詳細も知らなかった。ゆえにお前の発言で俺の心当たりは確信となった。俺は傀儡の貴族。つまり十二の貴族だった。勘当されてな」


 セリウスは棺を優しく撫でた。その手つきはまるで愛しているとでも言うような触れ方。


「俺は分家だった。こいつは本家だ。まぁそんな話はどうでもいいか。今は一刻も早くって状況だからな。俺の魔法術式を知っているのはあのドワーフ。そしてもう一人、こいつの兄。つまり傀儡の貴族次期当主だけだ。わざわざ俺の魔法術式に寄せたってことは俺になすりつける予定だったんだろ」


「つまり黒幕はリゼットの兄ということで間違いないのね?」


「あぁ。間違いない。だがあいつだけじゃ無理だ。あいつはただオートマトンの研究に勤しむだけの孤立タイプ。黒本を売りさばいたりするようなマネはできない。何かと結託している」


「……」


 私は思考を巡らせる。今回の件、その何かとリゼットの兄は何が目的だったのかしら。黒本を売りさばき、その一冊を禁忌の書へ昇格させた。魔法術式を隠してオートマトンへ変え、ベンの暴走まで引き起こした。その間に王族であるフランをさらった。目的はフランだけ?


 情報が足りない。分かるのは、傀儡の貴族次期当主が何らかの組織と結託し、第七席へ罪をなすりつけながらフランを攫ったことだけ。


 考えるのよ。こうしている間にも、あの子は……


 私は――あることを思い出した。


「短剣……」


「なんだ。何か分かったのか」


「警備兵を突き刺していた剣と、とても酷似したものを見たことがあるの。私がまだこの学院に来たばかりの頃の話よ。ペアの子と食事をするために街に出ていたの。悲鳴が聞こえて私達はその悲鳴の聞こえた場所に向かった。貴族が盗賊に襲われていたのよ。そのうちの一人が、刻印の入った短剣を心臓へ突き刺した結果、魔法術式が発動して化物に変わったのだけど……


 刻印とその警備兵を突き刺していた剣の刻印が酷似しているの。似たようなものを、重力の貴族の子も持っていたわ。でもあの子のはそんなに似ていないわ」


 セリウスが口元を隠しながら考え事をする。


「盗賊、刻印の入った剣。重力の貴族ということは……そうか、魔族の血」


 セリウスは顔を上げた。


「全て魔族大陸の品だ。組織的にそれを愛用するとなれば一つしか思いつかない。盗賊ギルド――『アフェイス』だ。金次第で何でも請け負う連中だ」


「アフェイス……」


 下水路に物音。セリウスが舌打ちをして棺を担ぐ。


「悪いがここまでだ。俺が話せる情報も少ない。組織についてはそれ以上知らないしな。お前ももう行け。見られると困るだろ。兄のところは俺が探る。捕らわれている者がいれば助ける」


「……分かったわ。ありがとう」


 私は影の中へと身を落とした。再びエリス達のもとに姿を現した。第一決闘場の跡地にはもう第零席達はいなかった。私はエリス、クローネ、マーカスに手に入った情報を共有する。


「第七席は元傀儡の貴族の分家よ。棺の子は本家の子。黒幕はその兄。協力している組織は、盗賊ギルド――アフェイスの可能性が高いわ」


 エリスは「アフェイス……」と呟きながら視線を落とす。しかし、何かに気づいたようで私に言った。


「あれ、でもおかしいです。分家の方まで頭に入っているわけではないので、セリウスさんのことは知りませんでしたが、傀儡の貴族本家に女の子はいないはずです。正確には……数年前に亡くなっているはずですよ」


「亡くなっている?」


 そういえばエリスもクローネもリゼットのこと自体は見ていない。エリスは私のせいで伸びていたし、クローネは興味なさそうに食事をしていたから。ということはリゼットは完全な傀儡? それでも、あの血の通った身体が普通のオートマトンとは思えなかった。


 私は首を横に振った。今は矛盾に目を向けるときじゃないわ。私が学院中に影を伸ばしたとき、フランは見つけられなかった。そうなると彼女はすでに学院にはいない可能性が高い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。