出どころ
――数日後のこと。私たちの順位は少しずつ上がっていき、その噂は周囲にも知れ渡るようになった。私とエリスが教室へ向かっていたときのこと。すれ違いざまなどにこう言われる。
「なぁ、あれが……」
「あぁ。アッシュなのにランキングを駆け上がってるっていう。二つのパーティーの一つ。どっちのパーティーもやっぱ十二の貴族だってよ」
「やっぱちげーよな……十二の貴族」
「そりゃそうだろ……」
「でもあのエリスって確か……炎の貴族の落ちこぼれだったはずじゃ?」
「そのはずだけどな。けど特有の魔法はまだ使ったことがないって」
私と目が合った瞬間、彼らの瞳に宿る怯えと、無意識に道を譲る身体の縮こまり。十二の貴族に対して、この学園の誰も彼もが共通して”諦め”を抱いているのが肌で伝わってくる。
それは畏怖であり、同時に思考の放棄だ。私にとっては酷く退屈で、滑稽な光景。
私の記憶が確かなら、まだ世界が統治されておらず戦争も絶えなかった頃。世界を統一しようと集結した十二の貴族は、それぞれが特殊な力を持ち、結束することで他の種族を圧倒した。大規模な世界戦争は、そうして人間の勝利で終わった。
個々のストーリーはあるようだけど、大方こんなかんじだったかしらね。そりゃ語り継がれるほどの貴族の子孫ともなれば、最初から”諦める”なんてのは……弱者にとっては一番楽な選択でしょうね。
私は教室に入る。すでにクローネ達がいた。フランが元気に両手を上げて、自分の存在をアピールする。クローネは一瞬顔が明るくなり、目線をそらしながらいつもの調子に戻る。
「あなた達はもう先に来てたのね。部屋にいなかったから」
クローネがツインテールの黒髪をいじりながら答える。
「少しね。フランといろいろ戦術とかを考えていたのよ。同じ戦い方だと対策される可能性があるもの」
「噂になる程度には有名になっているものね。同感よ」
席に座りながら私は気になる会話が聞こえてきて、耳を澄ました。この声は……クローネ達の元取り巻きの……
「……クローネのやつ。絶対調子のってる」
あぁ、そういうことね。気に食わないというところかしら。
「でも私たちじゃクローネには何も出来ないよ」
「大丈夫。いいもの手に入れたから」
「いいもの?」
「ここじゃ見せられないけど、黒本。裏ルートで回ってる魔法術式の本」
「うそっ! 手に入れたの?!」
「しーっ!」
「あっ、ごめん」
教師が教室へと入り、会話は中断される。黒本。クローネとフランが戦った相手が持っていたものと同じかしら。少し気になっていたし、調べたほうが良さそうね。
――放課後、私はクローネの元取り巻きの三人へと近づいていく。教室に残っているのはその三人と私たちだけ。三人の取り巻きの子たちは私が何をしようとしているのか分からないようで、近づいてくる私を不思議そうに見ている。
取り巻き達は私を目の前にすると、少し引け気味で睨みつける。私は不敵な笑みを見せる。
「ねぇ……黒本について聞きたいのだけど」
「はぁ? なんのことか」
一人の取り巻きがそう言った。私はゆっくりと近づく。相手は身を引いてのけぞりながら、少しでも私から距離を取ろうとする。私の足音が近づくたびに、彼女たちの呼吸が浅くなっていくのが分かった。
「ちょっと! 決闘以外で魔法を攻撃に使ったら」
遮るように、私は彼女の頬を優しく撫でた。
「カールした髪がかわいいわね。しっかり手入れしてるのね?」
「な、なに急に……っ」
私の指先が、今度は首筋をスッ……と愛撫するように滑り落ちる。その瞬間、彼女の肩がビクッと跳ね、息が一段と荒くなった。膝をカタカタと震わせて、なんて可愛らしいのかしら。
「あなたのそれは怯え? それとも……興奮しているの?」
キスできそうなほどの至近距離で、私はその耳元へと囁いた。彼女は顔を背けようとするが、私が顎を掴んで強引に向き直らせる。
「あらあなた……クローネの元ペアの子よね」
耳元へと近づいた。
「私の目を見て、恐怖で失禁したかわいい子。もう一度あの姿がみたいわ」
「いやっ……ちょっ」
「ふふっ。どうしたの? 体温が上がっているわよ。期待してるの?」
「ちがっ――ひゃっ」
私は彼女の首筋にキスをする。
「少しだけ……匂いがしたわね。我慢できなかった? どう? 話す?」
「あっ……あっ」
指先が降りていく。
――そんな駆け引きが少し続いた後。少しはだけた衣服を持って端っこで涙目になる彼女と、その様子を見てさらに怯えている二人が固まって私を見ていた。
「あら? やりすぎたかしら。話す気になった?」
首を縦に振る三人。私はふと背後を見た。フランは頬を赤らめながら「すごーい」と言いながら感心した様子。エリスはまるでうちの子がすみませんと言った感じで顔を抑えている。クローネは「あれもう攻撃判定でいいんじゃない?」と呆れている。
取り巻きが少し震える声で話し始める。
「これは……黒本と呼ばれてて、裏ルートで取引されてる。代価はレートじゃなくて現金。毎回違う場所に印があって、そこに置いて日をまたぐと黒本があるっていう。魔力を流し込むだけでとても強力な魔法を使えるからってことで」
「つまり流している本人を見つけることは難しい、ということね。教師は知っているのかしら」
「いや……おそらく知らない。知られたら調査になるかもってみんなバレないようにしてるから」
「数はどの程度あるのかしら」
「分からない。でもそんなに多くはないはず」
「もういいわ。ありがとね」
アルバートがランキングを駆け上がっているという噂があったわね。彼が黒本を手にしていたとしたら……可能性としてはありえるのかしら。
私は話してくれた取り巻きの子に近づいた。
「ひっ! またなにかっ」
耳元で小さく呟く。
「いい声で泣くのね。少しそそられたわ。下着、濡らしてしまってごめんなさいね」
ゆっくりと距離を取る。あら可愛らしい。お口を開けてスカートを抑えながら戸惑ってる。私は彼女たちに背を向けた。




