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 エリスはそのまま学生証を持って震えている。下位は低レートで密集しているとはいえ、尋常じゃない上がり方だったのだから当然よ。


「落ち着きなさい」


「だって……だって」


「まぁ気持ちは分かるわよ。でも目標はもっと上なのよ? あとそこ。喜びすぎよ」


 フランがクローネの手を握りしめ、ぴょんぴょん飛び跳ね満面の笑みを見せていた。クローネは必死に感情を抑え込むようにかかとだけ上げ下げして喜びを見せていた。


「あなた達は何位になったのかしら?」


 クローネが大したことないわ。と言いながら学生証を見せる。


「私たちの一つ下なのね」


「すぐに追い越すけどね。私たちと決闘でもする?」


「あら? 勝てると思っているの?」


 まるでキスをするかのように近づく。


「ひゃっ……は、はぁ? そんなの」


「冗談よ。いつかまた、戦うことがあるかもしれないわね? 例えば第零席をかけて。とか」


「むっ……その時は絶対に負けないわ」


「あら、楽しみ――んっ」


 私の唇が柔いクローネの頬に触れる。


「ひゃぁぁあっ! なんでわざわざほっぺにキスするのよ!」


「んー、可愛らしかったから」


 ――クローネに文句を言われつつも私たちは食堂へと向かった。エリスは食堂のおばちゃんを見つけると学生証を両手で持って自慢していた。おばちゃんもおばちゃんで目頭を抑えている。私のお肉はまだかしら?


 レートもかなり稼ぎ、私はいつもより多くの肉を注文することが出来た。私はほっぺを膨らませもぐもぐと食べる。


「ありがと、ご主人様っ」


 私は満面の笑みでお肉の旨味を楽しむ。後ろのテーブル席で噂が聞こえてくる。


「なぁ知ってるか? 最近爆速でランキングを駆け上がっているやつがいるらしいぞ」


 私たちのことかしら? でも知られるにしては早すぎるわね。


「へー。どんなやつなんだ? 普通少しずつ上っていくのによ」


「それがな。ナイト下位の一年なんだけどよ」


「一年? すごいな。やっぱノワールか?」


「あぁ。ノワールで十二の貴族」


「やっぱなぁ……一気に花開いたとか、そういうんじゃねぇの?」


「だとしても早すぎるんだって。順位の上がり方が。もうナイト上位層に入りそうだってよ」


「まじかよ。二年上がる前にロードとかになっちまうんじゃ? そいつ名前なんていうやつ?」


「炎の貴族――アルバート・エンバー・ヴォルドだよ」



 私は目を伏せた。彼が……けれどロードに差し掛かるほど強かったかしら? ナイトの中位層だとしたら三百位くらいかしら。彼が?



「イルナさん? ほっぺを膨らませたままぼーっとしてどうしたんですか?」


 エリスの声で私はもぐもぐを再開する。そしてごくりと飲み込むと先ほどのことを伝えた。


「というわけよ。ただ、あの子の魔法を見たわけではないけれど……そこまでの強さを感じなかったのよね。だからなんだって話なのだけど」


「そうですか……弟がもうそこまで……」


「なら追いつきましょうか。今の私達なら駆け上がれるでしょうから」


 私はフォークにお肉をさして、頬杖をつきながらそう言った。


 ――第一決闘場。


「ひっ……!」


 相手の女性が腰を抜かす。スクワイアの上位程度なら、龍の目を見せるだけで大抵圧倒できるわね。私は優雅に一歩ずつ近づいていく。膝をつきながら、腰を抜かした彼女の頬を優しく撫でる。


「大人っぽいのに、表情子供っぽいのね」


 顔を近づけ、彼女の目をじっと見つめる。彼女は反射的に魔法を唱えようと私に杖を向けた。私がそんなことさせるはずないじゃない。


「第三階梯魔法――ヴァクア・アイシクル」


 彼女の両腕が地面から伸びた氷に捉えられる。私は立ち上がってエリスの方を確認する。さて、相手は……ノワールの一つ下の評価を受ける黄金『オリハルコン』の二年生ね。


「タラニス・ハンマー!!」


 タラニスということは……雷魔法の系統、めずらしいわね。速度威力に優れた優秀な系統。エリスを狙うように雷のハンマーが彼女に振り下ろされる。


 エリスは龍の魔力と炎を剣にまとわせ、吸い寄せられるように迫るタラニス・ハンマーの雷を頭身で受け流し、火花とともに地面へと弾いた。


 私は心の中で相手を労った。相手が悪いわね。今のあの子はもう……第四階梯魔法まで使えるのだから。


「第四階梯魔法――イグニス・ロード・ヴァーディクト」



 相手の頭上に一本の線が、予測攻撃のように一瞬だけ走る。静寂。衝撃波が第一決闘場に円形に広がる。爆炎が相手を包み込む。


 爆炎が一瞬にして消える。ぺたんと相手は腰を抜かした。エリスは剣を向ける。


「えっと……どうしますか? まだ、やりますか?」


「……俺達の……負けだ。畜生……お前らほんとにアッシュの一年かよ」



 エリスは静かに剣を鞘にしまう。両手を広げて私に勝ちましたと嬉しそうに報告する。私はエリスに近寄り、彼女の頭を撫でる。


「お疲れ様。もう炎魔法でもある程度魔力量を調節出来るようになったのね。良かったわ。私達の順位も二十位くらいは上がったんじゃないかしら?」


 相変わらずエリスは私の龍の魔力を奪う。他の属性魔法なら、吸血鬼の方を持っていってくれるのだけど。どれだけ食べても魔力がすぐに消えていく。吸血をすれば……魔力を増幅出来るのだけど。

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