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バサルト

 クローネは叫びながら押し勝ち、その大量の岩をバサルトへとぶつける。バサルトはその重い体を持ち上げて位置を変えようとした。


「逃がすか!!」


 クローネは重力の方向を変え、バサルトをめがけて大量の岩をぶつける。バサルトの悲鳴。粉々に砕け散る岩。砂埃がバサルトを覆った。バサルトはよろめき、体を横に倒す。


「クローネの嬢ちゃん!! よくやった!」


 その隙にガルバスがバサルトへと走り出す速度を加速させる。棍棒を持ったゴブリンが血走った目でガルバスへ襲いかかる。


「ギャッ!」


 ガルバスへ襲いかかる小物を冒険者の仲間が、寸分のズレなく的確に魔法で撃ち落とす。



 ガルバスはバサルトの岩の巨体を駆け上がっていく。


「うおっ!!」


 バサルトは体を捻り、ガルバスを振り落とす。


「チッ……」


 ガルバスは地面へ投げ出されると同時に大剣を地面に突き刺し、距離が離れるのを防いだ。


 雑魚敵の処理に回っていた私は、同じく雑魚敵を処理しているエリスに言った。


「私は前足、あなたは後ろ足。できる? あれだけ大きいと今は範囲から外れちゃうのよ。一人だと」


「……やってみます。魔力借りてもいいですか?」


「あら? ご丁寧な主人様だこと。炎だけはダメよ」


「はいっ!」


「「第四階梯魔法――ヴァクア・グレイシャル・インペディメント」」


 バサルトの両足がまるで巨大な氷河に閉じ込められたかのように凍る。身動きが取れないバサルトは咆哮を上げる。再び岩が崩れ始める。


「ノクト・グラビティア――カンプス! させないって言ってるでしょ!!」


 クローネが宙に浮いた岩石を雑魚敵へと降らせた。おそらく私たちの拘束を破壊しないようにしたのでしょうね。ガルバスが間髪入れずに走り始める。しかし、その視線は真横へと向いた。



「おいおいマジかよ」


 バサルトは胴体からもうひとつの腕を生やした。それは的確にガルバスを狙っていた。フランが地面に屈んだ。あのマーカスから渡された本をペラペラとめくる。


「私だって……足手まといにはなりたくない」


 私は背筋がゾッとした。フランは媒体を使わずに魔力で魔法術式を描き始めた。本の魔法術式を参考に、巨大な魔法陣が光を帯びて描かれていく。


「――セイクレッド・アーバー・チェインズ」



 地面から金色に光り輝く神樹が鎖のようにバサルトを拘束する。バサルトの新しく生やされた腕が勝手に”自壊”した。神樹に触れた私とエリスの氷も自壊していく。


 セイクレッド・アーバー・チェインズは即座に自壊し始める。未完成だ。しかし、その隙を見逃さなかったガルバス。大剣は魔力を帯びて、巨大な剣のように光り輝いていた。


「ふんっ!!」


 振り下ろされた大剣はその風圧を洞窟内に行き渡らせた。私以外の全員がその風圧に耐えようと地面にしがみつく。私は吹き飛びそうになったエリスを。クローネは重力魔法を使ってフランを抱きとめた。


 バサルトの首がゆっくりと落ちていく。地面へと首が落ち、轟音が反響する。あまりにも綺麗な断面図はその斬れ味を表していた。


 ガルバスが大剣を地面に突き刺した。


「ふぃー……手強かったぜ。にしても嬢ちゃん達なかなかの活躍だったぜ」



 冒険者の一人が叫ぶ。


「ガルバスさん後ろ!!」


 バサルトの切り離された胴体と首が線のようにつながり始める。その線は再生を表す。コアがまだ生きている証拠だった。しかも伸び方から察するにコアは頭にある。


 ――私は短く息を吐いて氷の剣を振り払った。


 私はバサルトの首元に立ち、幾千の剣筋がその糸を断ち切る。


 動こうとする首をクローネが重力魔法で押さえつける。


「ノクト・グラビティア――グラウィス!」


 フランが残った力でもう一度セイクレッド・アーバー・チェインズを発動。自壊していくバサルトの頭からほんの数センチの隙間に見えるコア。


 エリスが閃光のように駆ける。地面スレスレに切先を滑らせ、その剣はその数センチの隙間を一瞬にして切り裂いた。


 ――パキッ。



 音を立てながらバサルトはボロボロに崩れていった。その様子を見ていた小型モンスター達は一歩、また一歩と後ろへと下がり始める。冒険者達がそれを見逃すはずがなかった。モンスター達は蹂躙され、今回の依頼は完了となる。


「あへっ……」


 クローネが膝をついて倒れる。エリスが剣を即座に仕舞い、地面に倒れる前に抱きかかえる。


「クローネさん!」


 ぴくっぴくっとクローネは反応するだけで何も喋らない。彼女のことをエリスに任せ、私はフランを称賛しに向かった。


「フラン、あなたよく頑張ったじゃない……フラン!?」


「えっ? なに? あれ? イルナちゃんが二人……」


 私が見たフランは鼻血を出してフラフラしていた。即座にフランを抱き寄せて、支える。


「ちょっと大丈夫なの?」


「うーん……クラクラするかも……」


「もう依頼は終わったんだから、ゆっくり休みなさい。お疲れ様。すごい魔法だったわ」


「えへへっ、褒められたぁ」


 そして私たちは街へと帰還した。ギルドへの報告はガルバス達に任せることになった。


「おう! 嬢ちゃん達のとんでもない活躍はしーっかり報告しておくぜ。最初は受付嬢に怒られたけどな。ナイト以上の依頼をカデットに頼むなんてって。しかしだぁ、これで胸張って帰れるってもんよ。ははは!」


 ――数日後、学院へと帰ってきた私たち。寮に戻って気絶するように眠った次の日。エリスは自分の学生証を見て震えていた。


「なっ……なな……七百二十一位?!?!」


 部屋中に響き渡る、耳が痛くなるほどの悲鳴。


 今までカデット階級という落ちこぼれだった場所から、一つ上のスクワイア階級の中位までひとっ飛びしたのだから。

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