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廃坑

 ――赤く腫れた目をこする三人を連れて、宿を出た私たちは朝の冷たい空気の中、目的の場所へと足を運んだ。


 廃坑の前で待っていたガルバス達と合流する。ガルバスは大剣を高く上げて存在をアピールするように振っていた。周りの冒険者が「アブねぇ!!」と言いながら飛び込むように避けていた。


 時折思うけれど……彼は……バカなのかもしれないわ。


「来たな嬢ちゃん達! 廃坑の地図はギルドからもらってる。端から端まで魔物を狩る。前衛は俺が出る。まずは俺達の戦い方を見て、連携に混ざれそうだったら参加してみるといい。無理なら一体一体相手すりゃいいさ」



 封鎖された廃坑の周りには当然人の気配はない。廃坑の入口からはどんよりとした魔力が漂っている。私たちはその廃坑の入口から中へ足を踏み入れる。


 背後から聞こえていた鉱山都市の金属音がスッ……と静寂へと変わる。


 薄暗い洞窟の中を宙に浮く魔法具の光を頼りにゆっくりとした足取りで進んでいった。カラッ……と洞窟の中の石が地面へと落ちる。フランがクローネの背中に飛びつく。そのせいでクローネがびっくりして変な声を出した。


「ひゃあっ! ちょっと……! 突然抱きつかれたらびっくりするでしょ……!」


「ご、ごめん……暗いとこ怖くて……」


 私はエリスを見ながら、あなたは大丈夫そう? と問いかける。


「ちょっと暗くて……怖いです」


「あなたは強いんだから大丈夫よ」


 照れくさそうにコクリと頷いた時だった。ガルバスがその大剣を引き抜いた。


「来たぜ。ありゃゴブリンの群れだな……」


 クローネが背後を振り返る。入口を塞ぐように複数体のゴブリン。私の出る幕はなさそうね。


「待って後ろにもいる!」


「クローネの嬢ちゃん。そっち任せられるか?」


「ゴブリン程度に遅れを取るわけないでしょ? ノクト・グラビティア――グラウィス」


 ゴブリン達が見えない重力によって膝をつく。


「グギャ……?」


 まるで消えるような速度。気づけばエリスが、ゴブリン達の背後に立っていた。ワンテンポ遅れて、跪いていたゴブリンたちの首が音を立てて崩れ落ちる。エリスは細身の剣を優雅に一閃し、刃に付いた血を円を描くように振り払った。


 先頭を進んでいたガルバス達の方から轟音が響く。私は少し首を傾けて背後を確認した。すると、ガルバスの大剣が地面にめり込んでいた。地面ごとぶった斬るのね……大胆にも程があるわ。


 彼は大剣を持ち上げながら私たちの方へと振り向いた。まるで無駄な心配をしたかのようにはにかんで大剣を地面に突き刺した。


「おっ、やるじゃねぇか嬢ちゃん達」


 私はドヤァ……とまるで自分のことのように口角を上げていた。


「……なんでイルナの嬢ちゃんがそんな得意げなんだよ」


「仲間が活躍してくれて嬉しいのよ」


 ――廃坑の探索は続いた。少し俯き気味のフラン。クローネが耳元で囁く。


「どうしたの? あんた怖いの?」


 軽く首を振る。


「ううん。活躍出来なかったなって」


「はぁ……あんたはあんたの出来ることをすればいいの。その仕事が訪れるときが必ず来るって」


「うん……」


 ――廃坑の奥へとどんどん進んでいく。次第に何かを食べたであろう骨や、使いものにならなくなった武器などが転がり始める。使われなくなったレールは錆つき、反響した魔物達の声が私たちを警戒させる。


 さすがにこのまま私が何も仕事しないというのは気が引けるわね。


 ――耳を済ませる。下の通路、大きなぽっかりと開いた空間に二十にもなる小型の魔物。音から察するに……岩系の小型モンスターのようね。私はマスケット銃を取り出して地面へと向けた。その銃身にそっと魔力を通す。


「第四階梯魔法――ノクト・スピアズ・ダムネーション」


 私の影がその空間に広がる。影の槍が小型の魔物のコアを貫く。騒がしかった岩が引きずられるような音は無音へと変わっていた。影にしまうとき、名残惜しそうに銃身を撫でた。


「イルナの嬢ちゃん。なんかしたのか?」


「少し遊んだだけよ」


 どうやって分かったのかしら。私はバレないようにやったはずだけど……


「魔力が流れたからな。ちゃんと成果として報告するぜ。何したかは分からないが」


「それはありがたいわね」


 魔力の流れが読めるのね。やっぱり只者じゃないわ。



 ――廃坑が揺れる。坑木が軋み、天井からは土埃。音の発生源は最深部。揺れが収まり、私たちはより一層注意を払った。


 下へ、下へ。様々な魔物を倒しながら、最深部へと到達する。巨大な地下空間。薄暗い空間にところ狭しと魔物がひしめき合っている。そして私たちを見下ろす四足歩行の岩の魔物――バサルト。


 低い唸り声に混ざる音の高い金属音。ガルバスが正面で剣を振り下ろした。バサルトから放たれた頑丈な鉱石がガルバスの大剣によって叩き割られる。


「こいつは……ちとやばいかもな」


 その意見には私も同感よ。こんなところで大規模魔法は使えない。なのに相手は大型モンスター。小物を一掃するのも難しい。日中だから月も出ていないし、吸血鬼の力は弱い……それにこの広さだとノクト・ザ・アドミニストレータも使えない。


 よわったわね……


「エリス。言っておくけど炎魔法はダメよ? あなたがあんなの使ったら私たち全員生き埋めだから」


「そうですね……でもどうしましょう……」


 相手は考える時間を与えてはくれない。小物達が続々と私たちへ襲いかかる。今はガルバス達が捌いてくれているけど……


「仕方ないわ。雑魚敵を倒しながらあのバサルトを狩るしかない」


「イルナの嬢ちゃん! そいつには賛成だ。雑魚敵は俺の仲間が蹴散らす。バサルトを倒すのをちーっと手伝っくれ!!」


 ガルバスが前進し始める。冒険者たちのサポートを受けながら私たちはバサルトの足元を目指した。


「グォオォオォオ――!!」


 バサルトの咆哮が反響し洞窟に激しい振動が伝わる。天井の岩が崩れ、宙に浮いた。それは雨のように私たちをめがけてくる。


「ノクト・グラビティア――カンプス!!」


 ――もう一つの振動。クローネが天井へと手を向けていた。襲いかかってきた大量の岩が止まる。空中でクローネとバサルトのせめぎあい。


「うぅっく……あたまがぁぁ! バカになるぅ!! っくぁ……!」

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