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少しの昔話

「相変わらず元気そうね」


 私はそう言いながら会議室にあるイスに腰掛けた。会議室とは名ばかりでかなり質素。何十人で囲めるようには机がひとつに、乱雑に置かれたイス。


「おうよ。冒険者は元気あってこそだ! エリスとフランの嬢ちゃんもよろしくな。そんでそっちの黒髪の子は……はじめましてだな」


 クローネは腕を組みながら手だけ振るようにして挨拶する。


「クローネよ。よろしく」


「クローネの嬢ちゃんだな。よろしく頼むぜ! んじゃっ、今回の依頼内容について詳しく説明する。つっても敵陣につっこんで殲滅しろっつー話なんだが……」


 ガルバスは地図を広げた。自分たちのいる地点に黒い石を置く。


「ここが俺達がいる鉱山都市だ。ここはいくつもの鉱山に囲まれる恵まれた土地だ」


 次にペンで一つの鉱山に円を描く。


「ここは廃坑。元々鉱山で鉱石を掘るために使われていたが、今は鉱石を輸送するための通路として使われてる。近隣都市に運ぶためにここを使いたいが……


 多くの魔物がここを住処にしちまったんだ。一時的にこの廃坑は封鎖。つってもここを迂回するとコストがかかりすぎるから安全にしてきてくれっつーのが今回の依頼だ。問題は……『バサルト』っつう四足歩行の岩でできた大型の魔物が発生した可能性があることだ。確証はないがな」



 ガルバスはペンを置くと、以上! と声高らかに言って席に座った。


「作戦は明日の早朝。廃坑前で集合だ。解散」


 ゾロゾロと冒険者達が出ていき始める。クローネがぽかーんと口を開けている。


「え、終わり? 五分くらいしかここにいなかったんだけど」


 一人の女性冒険者が笑う。


「あははっ。まぁ、そう思うよね。依頼の規模がこの程度なら、アタシたちの作戦なんていつもこんなもんよ」



 ――その日の夜。フランはドワーフのマーカスからもらった本を読み込んでいた。


「すごい……ほんとだ。旧魔法術式の基盤が隠れてる……」


 私はフランの頭を優しく撫でる。


「寝ないの? エリスとクローネはもう眠りについてるわよ」


「んっ……きもちー……そうだね、もう寝ようかな。でもなんか興奮して眠れないっていうか」


「少しおしゃべりでもしましょうか」


 私はマスケット銃を取り出す。


「あなたはね。たくさんの才能があるわ」


 フランが私のマスケット銃に見惚れるように目が釘付けになっていた。


「持ってみる?」


「いいの? 大事にしてるんでしょ?」


「いいわよ」


 彼女はマスケット銃をなぞりながら目を輝かせていた。


「すごい……! だれが作ったんだろ」


「……遥か昔に滅びた、とある小国。その国の子どもたちが作り上げたものよ」


「子供が……? これを?」


「えぇ。少しだけ昔話しましょうか。私ね。とても大切な人を亡くしたの。長い時間塞ぎ込んでたのよ。でも時間は残酷よ。どんなに苦しくて、壊れていても、時間が経つと風化してしまうの」


 私はベッドに横になる。フランを見つめながら言葉を続けた。




 ――私は彷徨っていた。虚ろな目でたどり着いたのは小国。栄えているわけでもない。人の数はまばら。土作りの街を呆然と歩く。とても、とても空腹だった。子どもたちの声が聞こえる。嫌に耳に入るから私は……その大きな倉庫を覗いた。


 五人の子どもたちがあーでもないこーでもないと何か……大きな紙を広げていた。倉庫の奥には大量のゴミの山。よく見ればガラクタばかり。


「あっ! 何だお前!!」


 一人の男の子が私を指さした。


「私は……なんでしょうね」


 気迫のない言葉に、男の子の敵意はすぐに消沈したようだった。


「こっち来いよ。お前も仲間に入れてやる。俺はリーパー!」


「私は……イルナ。私を仲間に?」


 私はまだうまく判断が出来なくて近づいた。座って彼らの言葉をただ聞いていた。空腹でよく理解は出来なかったけど、魔法術式を使った武器を作りたかったみたい。


 隣国との戦争で多くの銃が戦地には取り残されていた。彼らはそれを拾って魔法術式を組み込んで失敗を繰り返していたらしい。


「お前はどう思う?」


 突然話しかけられた私は、うまく答えられなかった。


「お腹すいた」


 ――私のあまりに緊張感のない言葉に、彼らは一斉にずっこけた。


「メシの話かよ! しゃーねーな!! 待ってろ!」



 リーパー達はそれぞれ、家からいろんな食べ物を持ってきた。


「ほらイルナ! 全部食え」


 他の男の子がどこか気まずそうにしている。


「リーパー……イルナは女の子だしこんなに食えないよ」


「何を言ってるピーター! 我らが一団の一人ならこれくらいペロリと食わなきゃだ。ほら見ろみるみるうちに……」


 私はパクッ……パクッと少しずつ速度を上げて食べ物を口に運んだ。それらはすぐに消費された。食べ終わった私はありがとうと呟いた。


 リーパーは顔を赤くして、ぷいっとそっぽを向いた。


「よくやった! それでこそ一団の一人だ!」


 翌日、彼らの頭にたんこぶが出来ていた。食料を持ち出したことで怒られたらしい。


「ふふっ、あははっ」


 私は……どれくらい久しぶりに笑っただろうか。


「はっ……あぁ……うっ」


 笑顔から涙が溢れ、私は俯いた。慌てた様子のみんなが駆け寄ってくる。


「なっ……おい泣くなよ。別にゲンコツ食らうことなんて日常茶飯事だっての」


 私は首を横に振った。


「少し、辛いことを思い出しただけ」


「そうか……親でも亡くしたか? 戦争だからな。俺達の中にも親が死んだやつはいるし」


「えぇ……大丈夫よ。ごめんなさい」


「謝るなよ。だれもお前に泣くななんて言ってない」


 私は、無理に笑顔を作った。この子達のこんな顔見たくないから。



 ――月日は過ぎていく。彼らが新しい失敗作を持ってくるたびに、私はそれをおちょくった。一緒にご飯を食べ、泥にまみれて遊び、笑い合う。とても楽しかった。それは本当に……幸せな時間だった。

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