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道中の特訓

 ――西へと馬車は進んでいく。世界は三つの大陸に分かれている。人が多く住む大陸、魔族の大半が住む大陸。そして亜人が多く住む大陸。私たちがいるのは人が多く住む大陸アストディア。


 十二の貴族が世界を統一したのち、最も資源に溢れるこの大陸は人のものとなった。けれど住んでいるのは人間だけじゃない。特にこれから向かう鉱山都市はドワーフが中心となっている都市。私たちはギルドの冒険者達とその鉱山都市で合流する予定だった。


 パカパカと鳴り響いていた蹄の音が止まり、馬車が停止する。私たちが外へ出ると太陽が少し傾き始めていた。


「もう少し進みたいところだけど……休憩にちょうどいいわね。林の中で川の音も聞こえる。魔物の気配もないしここでちょっと修行しましょうか」


 クローネは大きく伸びをしながら「私はパス」と手を振った。


「私はもうできること決まってるからさ。ノクト・グラビティアの段階を上げるだけ。次の段階を使って慣らしてってのを繰り返すしかないし。なによ。そんな寂しそうな顔したってしょうがないでしょ?」


「ちょっと残念」


「まぁ……その、介護だけよろしく」


「……?」


 クローネの言った”介護”という言葉に私は首をかしげたけれど、彼女は「嫌でも分かるわよ」と林の奥へと消えていく。仕方ないわね。


「エリス。あなたがやることは簡単よ。私の膨大な魔力に、あなたの魔力回路を慣らしてもらうわ。私を魔力の貯蔵庫だと思えばいいから。そしてたとえ第二階梯魔法だとしても、使えるだけ魔力を使いなさい。繰り返すうちに次の階梯に耐えられる回路が出来上がるから」


「わ、わかりましたっ!」


 少し離れた位置でエリスが魔法を使い始める。私の体から魔力が吸い取られていく。お腹はすくけれど、第二階梯魔法程度なら問題ないわ。


 さて、フランに移りましょうか。降りてきていたフランは木陰で休んでいた。私はそっとその隣に腰掛ける。


「フラン、大丈夫かしら?」


「うー、くらくらする」


「乗り物に弱いのね。どうする?」


「頑張る」


 心意気は良いけれど……戦闘訓練は無理そうね。


「ねぇフラン。あなたは確か得意科目が偏っていたわよね」


「うん……魔法歴史学と魔法術式学。だからね。魔法術式を組んで戦えるようになろうと思ったんだけど……魔力の塊くらいしかできないの」


「……魔法術式。そう、言っておくけどそれはちゃんと進んでいるわ。進んでいなかったら魔力の塊すら出ないんだから」


 つまり術式自体は機能している。魔力を流せる。あとは構築の問題ね。


「あなたはどんな魔法術式を?」


「えっとー。こうドカーンッ! てなったりズドーンッ! ってなったり」


『ふふっ、”みんな”変わらないわね』


 私は口元に手を当ててどこか懐かしそうに笑みをこぼした。


「フラン、気持ちは分かるけれど、やめておきなさい。


 魔法術式を構築するのならイメージできるものにしておいたほうがいいわ。大半の人は魔法術式を組めない。けれどあなたはそれを組む才能があるのだから成功させましょ。まずはそこからよ」


「イメージできるもの? 例えば?」


「んー……そうねー。自分がとっても身近に感じるもの。いつも見ているものとか、触れているもの。よく知っているものにするのよ」


「よく……知ってる?」


 フランは目を閉じた。小さく息を吸った。


「……鎖」


「鎖? それがあなたの身近に感じるもの?」


「えっ、あっ……うん! えっと、集めるのが趣味なの!」


「特殊すぎるわね……まぁでもいいわ。ならそれを使った魔法術式を組むことね」


「分かった!」


 フランは持参したノートを広げカリカリと魔法術式の図を組み始める。私はその中身をちらりと見て息を吐いた。この子は必ず完成させる。私も魔法術式について、少しは知っているもの。


 ただ、気になることが増えてしまったわ。どうして鎖と呟いたのか。集めるのが趣味……は流石にないでしょうし。


 私は木陰で休もうとした。けれど……ドッ! と魔力が持ってかれる感覚に飛び上がった。はるか先、炎の柱が発生していた。私は急いでその場所へと向かった。


「エリス?!」


「あっ……い、イルナさん……これ」


 円形に焼け焦げた林。炭となった大木が煙を空へと伸ばしていた。


「あ……あなた何したの? 第四階梯魔法でも使った?」


「それが……普段苦手な炎魔法使おうとしたら……第一階梯魔法なのに……うっ」


 エリスは急に力が抜けるように倒れた。私は彼女が地面へと接触する前に支える。


「ちょっと大丈夫?」


「すいません……なんか、きもちわる……くて。力が」


「当然よ……あんなの出したら。少し休みなさい。私が木陰まで連れて行ってあげる」


「ありがと……ございま」


 エリスはスッ……と目を閉じた。私は彼女をおんぶしながらフランのいた木陰へと歩き始めた。


 第一階梯魔法はその属性をそのまま出すような魔法。要求魔力量は少なく、単純なため強い魔法にはならない。おそらくエリスが使ったのは第一階梯魔法じゃない。


 そしてもう一つの違和感。それはエリスが使ったのが私の龍の魔力だったこと。


 私は龍の力と吸血鬼の力を同時には使えない。それに龍の力は燃費が悪いから普段から使わないように眠らせてるのよ。私が解放していたのは吸血鬼の魔力。つまり本来エリスは私の吸血鬼の魔力を使うはずだった。なのに……


 ――龍の魔力を無理やりこじ開けた。

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