依頼
クローネがじーっとその依頼書を見る。
「これ、ナイト以上じゃないと受けられないじゃない。私たちカデットよ? スクワイアですらないのにどうやって受けんのよ」
私は胸を張りながら答えた。
「ここを見なさい。これは一パーティーだけが受けられるものじゃない。とある組織との共同依頼なのよ。人手がほしいのでしょうね。あるいは学院にも話が回っているか」
「……それで?」
「私とエリスはいつもこの組織のお世話になっているの。安くて美味しい肉がいっぱい食べられる最高の場所がね」
ピクッとエリスが反応する。
「あっ……! 冒険者ギルドですか? 以前ガルバスさんとこそこそ話していたのはまさか……」
「正解よエリス。正直ちまちまカデットの依頼なんてこなしていたら、効率が悪いわ。ガルバスに頼んで特例で認めてもらったのよ。ただし、もちろんお荷物だったらレート報酬は少ないから活躍してもらうわよ。いいわね?」
「すごい……! これなら、すぐにスクワイアになれます! なんならスクワイアの中間の席順位まで!」
「活躍さえできればね。だから依頼場所に向かう道中、何度か野営するからその時に鍛えるわよ」
――馬車が学院の中で停車する。期待に胸を膨らませるエリスとクローネ。私たちは寮に戻るとドレスを脱いで、シャワーを浴びた。いつもの動きやすいパジャマへと着替え、ベッドに横たわる。心地よい疲労感のせいか、今にも意識が手放されてしまいそうだった。
「……フランはいないのね。たまにこうして居なくなることがあるけれど」
クローネがベッドに飛び込んだ。
「別にいいわよ。一人でベッドを広く使えるし」
「そんなこと言って、本当は寂しいのでしょ? こっちで三人で寝る?」
「は? そんなわけないじゃない。いつも抱きつかれて寝返りだって大変なんだから。というか、あんたと一緒に寝たら何されるか分かったもんじゃないっての!」
ろうそくの炎が消えてからも、クローネから寝息は中々聞こえなかった。暗闇の向こうから、何度も寝返りを打つ衣服の擦れの音が微かに響いてくる。あんなことを言っていた割に、随分と落ち着きがないのだから……可愛らしいわ。
けれど、私も寂しさを感じている。明るく元気な子であるからこそ、いなくなったときの物足りなさが強いのよ。
――ドアが静かに開く。足音をたてないようにしているのが分かる。フランが帰ってきたみたいね。クローネが気づき体を起こす。
「あんた、どこ行ってたのよ」
「あっ……ごめん。起こした?」
「いいわよそんなの。まだ寝てなかっただけ」
「うん、ちょっとね……疲れちゃった。もう寝るね」
「……あっそ。あんたは私の抱き枕なんだからさっさとベッドに入りなさい」
布団が動く音。私は少しだけ反対側のベッドを見た。クローネが布団を上げて中に入るように誘導している。素直に潜り込んだフランは、いつもと違ってどこか元気がない。
なんだか、落ち着いている彼女を見るのは……変な気分ね。明日の朝、フランに依頼のことを話さないと。私はそう頭に残しながら瞼を下ろした。
――翌朝、眠い目をこすりながら私は起き上がった。
「ふぁー……あら」
伸びをしながら物音のする方を見ると、クローネがじたばたと暴れていた。寝ぼけたフランの胸に顔を埋めて死にかけている。
「ふぁ、ふぁふへて!(た、たすけて!)」
「まぁ……幸せならいいんじゃないかしら」
「いいふぁけないふぇよ! (いいわけないでしょ!)」
私はフランのお腹に手を回して引き抜く。フランは「ほぇあー……」と寝ぼけながら、私の腕の中にすっぽりと収まっていた。クローネは……まぁいつも通りの赤面ね。まさか抱き枕にするつもりがされるなんて思わなかったのでしょうね。
――その後、みんなで朝食を食べに食堂へと向かった。私は普段通り節約した食事。食堂のおばちゃんから定番のステーキをひとつ受け取ると、彼女は顔をほころばせながら、こっそり肉の切れ端をオマケで乗せてくれた。
ナイトに上がったら食堂は別の場所になってしまう。そうなったら寂しくなるわね……
食堂のテーブルへと移動し、私はフランに依頼のことを伝えた。
「つまり、道中で修行しながら大型モンスターの討伐をする。という話よ。問題ないかしら? 一週間ほど旅をすることになるけれど」
用事でよく居なくなるフランのことを考えると、断られる可能性もあったけれど……
「うん! いいよ! でも私強くなれるかなぁ……」
「なれるわよ。私が鍛えてあげるんだから期待しなさい」
「……分かった! クローネの足手まといにならないように頑張る!」
……この機会がちょうどいいわ。この子はいつも言っている。足手まとい、弱い。この子が戦ったところを見たことはない。彼女の実力を確かめる絶好のチャンスよ。
それに――私にはこの子が弱いとは思えない。
テイマーで弱いものしかテイムできない。そう言っているけれど……おかしいのよね。この子普段から魔力がとんでもない量流れ続けてる。魔族でもこんなのはいない。
けれど……無自覚なのでしょうね。足手まといと本気で思っているように見えるもの。
「ぜーったい強くなるぞー! おー!」
フランは拳を高々と上げて宣言する。そして私たちは数日後、学院から馬車を使って依頼場所へと向かった。




