二人部屋の四人
――アッシュクラスの教室。クローネが恥ずかしそうに窓の外を見ながら頬杖をついている。エリスは嬉しそうにそわそわ。それに気づいたクローネは目を細めながら頬を赤らめる。
「な……なによ」
「いっいえ、その……隣にいるの新鮮だなって」
人差し指の指先をツンツンとあて、嬉しそうにはにかむ。
――ひょこっとフランがクローネの顔を覗き込む。クローネがびっくりして背中を背もたれにぶつける。
「ひゃあっ!! びっくりしたじゃない! なによフラン」
「あっ、初めて私に名前で呼びかけてくれたー!」
「それは……そう、だっけ?」
「んー、だっていつも難しい顔してあんまり関わらなかったでしょ?」
「……そう、ね。ちょっといろいろあったのよ。今は大丈夫だけ……ひゃんっ!?」
フランがぎゅーっとクローネに抱きつく。むにゅっとフランの豊かな胸が大きく形を変えている。
「えへへ。すべすべー」
「ちょっなにこの子……! デッ……やわらっ。ちょっとエリス!」
「ひぇっ! 私ですか?!」
突然話しかけられたエリスは持っていたペンを落としそうになる。
「あんたの周り距離感おかしいやつしかいないの?!」
「そんなこと言われましても……」
あわあわと手を動かすことしかできないエリスと、フランの胸が顔に迫ってきて限界のクローネ。その様子を見て私は少し悩んだ。
このままクローネに追い打ちでもかけようかしら? とも思ったけれど、さすがに限界ね。
私はフランのお腹に腕を回して引き剥がす。あの胸のサイズでお腹には全く肉がついてないのよね。不思議だわ。
「ほらフラン。クローネを困らせないの。代わりに私でも抱きしめておきなさい」
「はーい。ぎゅーっ」
クローネは机に突っ伏しながらこもった声で助かったと呟いた。そしてだれにも聞こえないような小さな声で嬉しそうに囁く。
「……でもちょっと楽しいかもね」
クスッと私は笑みをこぼす。ふと、視線を感じて横目で振り向いた。以前の取り巻きたちが遠くから私たちを見ている。誰一人としてクローネに寄ってこようとはしない。むしろ……どこか嫌悪の目でクローネを見ていた。クローネもそれに気づき、目を伏せながら苦笑した。
「最初から私に好意なんてない。あの子達が見ていたのはお父様だから。結局……ペアも解消してしまったし」
エリスが目をパチクリさせる。
「えっ。じゃあクローネさん今……ソロなんですか?」
「えぇ。そうよ」
私に抱きついていたフランがバッと元気よく振り向いて、にこっと笑った。
「ほんと? わーい! 私とおそろーい」
クローネは頭を手で抑えて深くため息をつく。
「あんた分かってないわねー……順位がどうなってるかわかってんの?」
「ふぇー?」
「あなた今千一位よ。つまりこのまま学期末迎えたら退学」
フランの顔から血の気が引く珍しい光景。カタカタと震え、本気で焦っている。
「どっ、どどどどどうしよっ! 学期末もうちょっとで来ちゃうよ!! みんなと別れたくない!!」
目に涙が滲み始める。私から離れ、クローネの袖を掴む。クローネは戸惑いながらもある提案をする。
「……わた……私と、組めばいいじゃない。レートを合算すれば退学は回避できるわよ」
フランの顔がパァーッと明るくなり、グッ! と顔をクローネの真ん前まで近づける。
「ちっ、近いわよ!」
クローネは近すぎる距離に目を泳がせている。フランは気にすることなく近づき、鼻と鼻が触れる。うれしそうに彼女は言った。
「いいの?! あっ、でも私……足引っ張っちゃうかも。それに」
シュンッ……とフランは肩を落とし、距離が離れる。何かを言おうとするが、口ごもる。クローネは浅くため息をついた。
「いいわよ。どんな事情があっても。本当に足手まといかどうかなんてわからないんだから。エリスは私を負かしたのよ? あんただって強くなるかもしれないじゃない」
フランは涙をこらえるように口を閉じる。そして潤んだ目でクローネを見つめる。
「でも、私弱いよ? それに、それにっ……」
渋るフランにしびれを切らしたクローネは前のめりになって、少しだけ強めにフランに言った。
「なるの? ならないの? なるなら首を縦に振りなさい」
ブンブン! とフランは首を縦に振る。頭が取れちゃいそうなほど。
――日が沈み、月明かりが差し込んだ頃。私たちは寮の部屋にいた。そして、クローネが枕を持って、玄関を開けて入ってきた。そこに立ったまま、視線を逸らしたり戻したり。
「……」
私はクスッと笑った。
「あら、あなたも今日からここでお世話になるの?」
「……だめ?」
キュッと心臓が締め付けられる。何この子。突然デレられると可愛すぎて仕方ないわね。私は襲いそうになるのをぐっとこらえ、息を吐く。
「いいんじゃない? フランのベッドで眠るのでしょう? 私もエリスのベッドで眠っているし。あなたの家そもそも遠いもの。寮にいたほうがのんびりできるでしょうし」
「ありがと……やっぱりあのことがあってから屋敷には居づらいのよ。エリスとフランも……私がいることは反対しない?」
エリスもフランも一切反対などしなかった。
「しません! むしろ一緒にいれて嬉しいです!」
「わーい! 一緒にねよー!」
――数時間後、フランが寝静まる。小さなろうそくの火を眺めながらクローネはつぶやく。
「あんたたち、王族の夜会には出るの? 私はお父様と仲違いはしたけど、貴族は貴族だから参加するわよ。エリスも参加はするの?」
エリスは少し気まずそうに頷いた。
「はい。参加しますよ。弟に絶対に来いと……言われているので。それに落ちこぼれとはいえ、参加しないわけにはいきません。同伴としてイルナさんをお連れするつもりです」
「まぁ……そうなるわよね。私あんたの弟苦手なのよねー。本当に貴族って感じで鼻につくのよ。私に魔族の血が入っているのがお気に召さないって感じかもね」
クローネはろうそくの炎が消す。もう寝ようという合図だ。私はエリスを抱きしめながら目を閉じる。王族の夜会。あの第零席は参加するのかしら。フランは……クローネが同伴させれば来るかもしれないわね。




