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諸刃

 地面に刺さっていた氷の武器が、白銀の炎を纏い始めた。イルナちゃんとエリスちゃんが、それぞれ一本ずつ引き抜く。イルナちゃんが歩くたび、その背後が凍っていく。残った武器も浮き上がり、氷と炎の輪が私たちを取り囲んだ。


 空を見て、私は凍りつくかと思った。何かが覗いている。あれは……龍だ。龍のガイコツが私たちを空から覗いている。影の月が重なるほど、龍のガイコツが凍りついていく。まるで氷の肉がついていくみたいに。


 瞬きをすると、輪になっていた武器が一斉に襲ってきた。クローネちゃんの重力が軌道を曲げ、私の神樹の鎖が次の刃を弾く。息をつく前に、また次。


 ラビも鏡を使って、私たちを守ってくれる。でも――その雨を抜けて、エリスちゃんが突進してきた。突き出された剣を、ラビが膝で跳ね上げる。けれど、もう片方の剣がその足に刺さった。


 影の足が凍っていく。ラビは自分で叩き割り、凍った部分を落とした。すぐに影が伸びて元に戻る。それでも、エリスちゃんの猛攻は続く。空からも武器が降る。砕いても、割っても、振り払っても。次が来る。


 エリスちゃんが呟いた。


「このあたりですよね」



 なぜか、エリスちゃんが引いていく。武器の雨も収まった。私はクローネちゃんと並んで息を切らす。追撃を探して目を走らせた、その時だった。二つの禁忌階梯魔法がぶつかったはずなのに。


 ――どうして、鏡が一つもないの?


 ラビを見る。その輪郭から、少しずつ影が薄れていた。時間切れ。召喚し続けられる時間には限りがある。ラビが弱いからじゃない。私の魔力回路が、もう限界なんだ。


「ごめんラビ……ありがと」


「   」


「謝らないで。いっぱい活躍したよ」


 ラビは頷いた。白い世界に紛れるように、その姿が消えていく。最後まで見送った時、頭上で影の月が太陽と重なった。


 世界が暗くなる。その中で光るのは……イルナちゃんとエリスちゃんの瞳。


 私と同じオッドアイ。二人とも、片方だけが龍の目になっていた。


「そこまで……同期するんだ」


 イルナちゃんと、彼女と同等の力を使えるエリスちゃんが相手……かぁ。


 私は一瞬俯いた、その視界で地面がちらついた。反射的に身を引く。尻もちをついた目の前に、氷の剣が突き出ていた。さっきまで、私の顔があった場所へ。


「はぁっ……はぁっ……」


 イルナちゃんが悠然と歩いてくる。


「もう一つの禁忌階梯魔法術式、あなた達が見るのは初めてよね。夜の禁忌階梯魔法は月が紅く染まる。でもね、日が出ていれば太陽は黒い月に隠れて――白銀の輪が浮かぶのよ」


 私は息を呑む。白く輝く輪と、空から覗き込む恐怖を煽る氷の龍。肺が凍りつきそうなのに全身がチリチリと燃え尽きそうな熱を感じる。理解が追いつかない世界。


「うん。初めて見た。すごいね。絶望感が襲ってきて足が震えるくらい怖いよ」


「でもその目、諦めてないわよね。私たちに挑むくらいだもの。使えるのでしょう? あなた達も禁忌階梯魔法」


 ポタッ……ポタポタッ……と、クローネちゃんの手首から血が滴る。握った退魔の短剣にも、赤い筋が残っていた。自分で傷つけたんだ。


「クローネちゃん!」


「大丈夫。この短剣には、うちの一族の血が染み込ませてあるわ。本来は、私たち重力の貴族が魔族の血を濃くするための道具。退魔の力は、他の魔族の血を混ぜないため。自分を殺せる短剣で、自分の血を濃くするってわけ。一時的だけどね。


 ……今の私じゃ、こうするしか”使えない”のよ」


 血が……地面に広がっていく。


「禁忌階梯魔法――ノクス・アエテルナ!」


 一瞬だけ、世界が暗転した。身構えて、周囲を見る。景色は変わってない。クローネちゃんの右斜め上に、一つの黒い玉が浮かんでいるだけだった。


「ちぇっ……世界に与える影響は小さいんだ。あんた達二人ほどじゃないってわけね。でも十分。重力魔法の最終段階――見せてあげるわ」


 クローネちゃんは短剣を持ち替え、握り直す。


「フラン。任せたわよ」


 イルナちゃんが、嬉しそうにマスケット銃を向けた。氷が波となって地面を走る。クローネちゃんの一メートルほど手前へ届いた瞬間、その先端が砕けた。崩壊が波を遡り、発生した根元まで粉々にしていく。


 今度は銃口が上を向いた。白銀の炎を纏う武器が、一斉に降ってくる。けれど、クローネちゃんへ近づくほど遅くなる。切っ先にヒビが入った――次の瞬間、全ての刃がイルナちゃんたちへ降り注いだ。


 間に割って入ったエリスちゃんが、その全てを斬り落とす。


「イルナさん……これって、重力操作ですよね。私たちの管理する武器が一定範囲に入った瞬間、管理者権限を奪われた、ってところでしょうか」


「間違いないわ。この太陽と月の世界で、世界を書き換えない代わりに、自分の届く範囲の管理者権限において私たちを上書きしてる」


 強くなったのねと嬉しそうに呟く。


 トンッ……小さな足音。クローネちゃんのつま先は、もうエリスちゃんの目の前にあった。遅れてきた突風に、私はゴロゴロと転がる。地面に指を食い込ませて、なんとか止まって薄めを開けた。


 でも……エリスちゃんが早い。ほぼ見えると同時、エリスちゃんは氷の剣を振り下ろしていた。けど白銀の炎を纏う氷の刃が遅くなり、パキッと砕ける。だとしてもエリスちゃんの攻撃は終わらない。もう片方の反魔法を纏った剣が振り上げられていた。


 こっちは反魔法で遅れない。それでも、クローネちゃんの短剣が素早く弾いた。エリスちゃんが目を見開く。


「どう……やって」


「諸刃の剣ってね。速度上げてんのよ。反射も、思考速度も。私の中の世界を書き換えたようなもんよっ!」


 その短剣が、エリスちゃんへと届こうとした時だ。


 ――ポタッ……ポタッ。私は目を見開いた。クローネちゃんの両足を、何本もの氷の刃が貫いていた。白銀の炎が、その刃を包んでいる。その隣で、イルナちゃんが銃を下ろした。

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