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おかえり、二人とも

 あははっ、すごい咳き込んでる。こういうの、本当に弱いね。ずっと変わらない。私が容器を机に置くと、察したのか、クローネちゃんも自分の分を脇へ置いた。いつもみたいに勢いよく抱きつくんじゃなく、ゆっくりと両腕をその背中に回す。


 いろんな複雑な感情が胸で渦巻いて、混乱してる。それをかき消すように、私は胸を押し付けた。甘えるように、クローネちゃんの瞳を見つめる。彼女の頬が、赤く染まって……かわいい。


「クローネちゃん、キス……したい」


「……別に、すればいいじゃない」


「んっ……」


 甘い声が漏れた。さっきまで受け身だったクローネちゃんが、私の口の中へ舌を入れてくる。お互いの唾液が溶け合っていく。


「あぁっ……クローネちゃん……好き」


 キスの合間に、そう伝える。私を抱き寄せるクローネちゃんの手が、強くなるのを感じる。それが嬉しくて、私は笑顔になる。


 キスをしながら、私たちはイスからベッドに移動した。クローネちゃんに押し倒されて、唇が離れる。見下ろしてくるときの、このクローネちゃんの顔が好き。


「フラン、なにその甘えた顔。止められなくなっちゃうじゃん」


「――止めるの?」


 あっ、今のクローネちゃんの顔好き。ドキッとしたのかな。私の手に、クローネちゃんの手が重なった。絡み合ってまた……キスをした。私の太ももの間に、クローネちゃんの太ももが挟まった時、私は思わず「あんっ……」と声を漏らした。


 恥ずかしくて、顔が熱い。でも、私は目を閉じて、受け入れた。両足が自然と、彼女の太ももをこすり合わせてしまう。つま先が伸びて、身を何度もよじる。


「クローネちゃん……して?」


 ――夕日は完全に落ちていた。親密な時間を終えた私は、まだクローネちゃんの背中に爪を立てながら息を切らしていた。


「はぁっ……はぁっ……んっ、あぁっ……」


 もう終わったのに……腰が何度も勝手にはねて、涙が勝手に溢れてくる。視界が何度も白く染まって太ももが震えてる。私は目を閉じたまま笑顔を見せた。


「えへへっ」


 声がすっごく震えてる。でも、すごく満たされた気分。私は、クローネちゃんの息遣いを耳で聞きながら――囁いた。


「絶対……スローネに座ろうね」


「……ん」


 ――数日後の朝。学院の勉強をしていると、ギィィ……と部屋の扉が開いた。まだクローネちゃんは寝てる。冷たい空気が足元へ流れ込み、私はペンを止めて顔を上げた。


「イルナちゃん! エリスちゃん! 久しぶり!!」


「えぇ……ひさし、ぶり」


 イルナちゃんが一歩、また一歩とフラフラとした足取りでベッドへ倒れ込む。遅れて入ってきたエリスちゃんも疲れた顔をしてる。


「ただいまです……フランさん」


「うわー、疲れた顔してるね。忙しかった?」


「はい……とても。西の海沿いの国近くで龍の痕跡を見つけたとかで駆り出されました。春前は魔物達が活発になりはじめる時期でもあるので。護衛の仕事も多いですねー」


 ベッドに腰掛けたエリスちゃんが、「はぁーっ、落ち着く」と息を吐いた。私はペンを置く。言わなきゃ、挑戦するって。口を開きかけて、でも、肩の力を抜いたエリスちゃんを見たら、言葉が出なかった。


 ここを家みたいに感じてくれてるんだもん。もう少し休ませてあげたいな。決意がなくなったわけじゃない。ただ、今すぐじゃなくてもいいよね。


「エリスちゃん、この後どうするの?」


「今日は一日休みです。なので少し眠って、クラウンの食堂でご飯を食べてからゆっくりしたいと思います。アッシュクラスの方にも顔を出したいですし、ベールさんもイルナさんに会いたがっているでしょうから」


「ん、わかった! それじゃおやすみ」


「はい、おやすみなさいフランさん」


 エリスちゃんは倒れるようにイルナちゃんの上にかぶさった。そしてそのまま小さな寝息を立て始める。本当に疲れてたんだね。


 私はペンを手に取り、またカリカリと走らせた。その音の合間に、三人の寝息が聞こえる。


 ずっと、王族と名乗れなかった。仮面を被って、家族を後ろから見つめる。たくさん人がいるのに、王城はとても静かで。家族のそばにいるはずなのに、ひとりだった。


 そっとベッドへ目を向ける。みんな、よく寝てる。私はペンを握り直した。お姉ちゃんが至高評議会で待ってる。私が、その隣に立てるように。


 二時間ほど経つと、クローネちゃんが目を覚ました。眠い目を擦った後、大きなあくびを見せる。


「ん……ふぁーあっ。うー……あれ、イルナとエリス帰ってきてるじゃん。寝てるけど。あんたもう言ったの?」


「おはよクローネちゃん。ううん。まだ言ってない。疲れてたみたいだから。それに今日は一日休みなんだって」


「へー、めずらし。私らも、結構忙しいけど今日はオフだし。ねぇフラン。緊張してる?」


「してるよ。ずっと追いかけてきたもん。やっと追いついたんだって」


「あんたの魔法術式にかかってんだから。頼むわよ」


「うん。任せてっ!」


 寝ていた二人も、もぞもぞと動き始めた。まだ目が開ききらないまま起き上がり、クローネちゃんにおはようと言う。そして……揃って、その頬にキスをした。


「はっ?! 何急に!」


 二人が「あっ……」と声を漏らす。エリスちゃんが人差し指で頬をかきながら説明した。


「その……最近ずっとお互いの頬にキスをしておはようって言っていたので、つい」


「ついって……まぁいいけど」


 って言うけど、頬は赤いまんま。うれしいんだね。なんて言ったら、たぶん「はぁ?! そんなことないし!」って返ってきそうだから、だまっとこっ。


 二人と過ごす一日、久しぶりだなぁー。目の前で交わされるやり取りを眺めながら、私も笑った。……どのタイミングで言えるかな。

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