レガリオンへの招集
そして教室へ。私たちに気づいた顔が、こちらを見ては視線を逸らす。第零席は特別すぎたのか、少しみんな躊躇しているようね。エリスはにこっと笑った。
「みなさんっ! おはようございます! いつも通りで大丈夫ですよ!」
ぱぁーっとみんなの顔が明るくなる。一人が近寄ってきた途端、次々と声をかけられ、あっという間に囲まれてしまった。人の波に揉まれ、私はこっそりその外側に抜け出した次の瞬間……ガラッと扉が開き、一人の男が入ってくる。豪華な装飾を身に着けた上級教職員。レガリオンへの招集を伝えに来て、帰り際に「出来損ない風情が」と吐き捨てた人だ。
「あら、この間の失礼な人間じゃない。何の用かしら? また招集?」
彼は私の前に膝をついた。
「アッシュスローネ、イルナ・ヴァレス・ドラクシス様、及びエリス・エンバー・ヴォルド様。レガリオンへの招集がかかっております。詳細はこちらの招集状にてご確認くださいませ」
「ふーん。随分と対応が変わるのね。まぁいいわ。出席するから招集状を渡しなさい」
彼は頭を下げたまま、招集状を差し出した。私が受け取ると、立ち上がって教室を後にした。
「レガリオン……楽しみね。王族と立場が入れ替わっているんだから」
「あっ、あのっ、イルナさんっ! 私まだ波のなかに……」
一方、ベールだけは波の中におらず、私の真横でニコニコと笑みを見せていた。
「どうしたの? ベール」
「憧れの方が、権威を持ったのが嬉しくて……」
その様子をため息をついて見ていたクローネは呆れたように言った。
「あんた、ほんっとイルナのこと好きね。私の取り巻きしてた時にはそんな心酔なかったのに。まぁあれはお父様のせいだけど」
「少しはありましたよ? 十二の貴族の一人で次期当主。貴族として当然慕ってましたけど……あの頃は疲れてしまっていて」
「あーはいはい。言いたいことは分かるから。貴族なんてそんなもんでしょ。まぁ、少しは妬くけどね。あたしだって……権威はあるのにさっ」
「クローネ……ぷふっ! クローネって嫉妬するんだねーっ」
「はっ、は?! 嫉妬くらいするでしょ!!」
私はそーっとその場から距離を取り、席に座った。まだ笑っているフランへ目を向けると、なぜかあの子まで人の波に混ざっている。楽しそうでなによりだわ。イルナさーんという声が聞こえてくるけどきっと幻聴ね。
招集状を開く。四日後にレガリオンにて集合。時刻は午後七時……ね。ふふっ、どうせだったら少しおもしろくしましょうか。遅れて行ってやるわ。前回レギウスだってそうしていたんだから。
――それから、レガリオンでの集合当日まで。私たちは行ったり来たり。各貴族へ挨拶に出向き、戻ってはギルドや他国への申請書を書く。第零席になった私たちへ、依頼まで次々と舞い込んでくる。しかも義務としてノルマがつけられている。ひとつ済ませても、まだ次が待っている。
第十席のときも依頼をこなす必要があったらしいのだけど、すぐに第零席へと挑んだせいで、その余裕がなかったわ。なるほど、クラウン以上がどうしていつも学院にいないのか、よく分かったわ。あまりにも忙しいのね……
疲弊しながら迎えた当日の朝。エリスが身を起こしても、私はその背中にくっついたまま、離れようとしなかった。
「おきたくないわぁ……」
「イルナさん……私だって起きたくないですよ……忙しいですし、いろんなところに出席しなきゃいけないし。今日だってレガリオンにいかなきゃなんですから」
「んー……エリスに全部おしつけたぁーい」
「甘えないでくださいっ。イルナさんも一緒じゃないとダメなんですから。というか私主人ですよ? 忘れてませんか?」
「甘やかしてくれるご主人様がいいわ……」
「はい、起きますよー」
そのままズルズルと引きずられ、直立させられる。寝ぼけた頭で着替えて簡易的な朝ごはんを寮の部屋で食べる。せっかく高待遇で高級料理食べ放題なのに食べる時間がないってどういうことよ。詐欺よ詐欺。
そして日は落ちて午後七時二十分。私たちはあのレガリオンへと再び足を踏み入れた。全員が揃う長机の脇を抜け、第零席の椅子を引く。腰を下ろすと、集まった視線の向こう、第十席に座るレギウス、ガレスと目が合った。前回、私たちが座っていた場所だ。
二人とも、まだ全身に包帯を巻いている。けれど、その隙間からこちらを見る目には、以前のような敵意がない。
「遅れてごめんなさいね。“クラウン”のみなさん」
私はそう言いながら前回喧嘩を売ってきた第三席を見下ろす。聞こえる歯ぎしりに笑みで返し、今度は第七席へ目を向けた。セリウスは軽く手を上げ、リゼットはウィンクで挨拶。私とエリスも笑みを見せた。
――そして。
私は笑みを消し、レギウスをまっすぐに見据えた。
「事情を知らないものもいるでしょうから、少し濁すわ。陛下の命令ではなく、あなたの独断であるのならば、第零席である私たちが命ずる――」
すると、エリスが立ち上がった。そうね。第零席になって命ずると言ったのは……あなただもの。彼女は鋭い視線を向けて彼に命じた。
「レギウス・エルワース・ファニス――王位継承権第三位への処遇を取り消しなさい」




