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脇役

 続けて私の両腕の封印も破壊される。感覚のなかった指先が、思い通りに動いた。黒い長槍に穿たれた傷も塞がっていく。私は軽く腕を振り、回復したのを確かめた。


「問題ないわね。さて、反撃の時間ね」


 エリスが歩くたび、踏み込んだ場所が凍りついていく。すぐさまガレスがレギウスの前へと躍り出た。その額を伝う汗が、流れの途中で凍る。衣服にも、構えた盾にも、白い霜が広がっていった。


「レギウス様……後ろへ」


「あぁ、問題ない。しかし禁忌階梯魔法か。お前たちのような落ちこぼれが使えるとは思わなかった。だが負けると確定したわけではない」


 もう一つの光源が現れた。エリスを見下ろす炭の巨人。その身体に燃え続ける炎が、暗闇を照らし出す。巨体が彼女へと倒れ込んだ。エリスはマスケット銃を上へと掲げる。


「許されません。光を許されるのは月と太陽だけです」


 カチッ。


 引き金の音と同時に、巨人の炎が消え去る。残った炭の身体は瞬時に凍りつき、倒れかけた姿勢のまま動きを止めた。エリスが剣を一振りすると、白銀の炎がその巨体を呑み込む。巨人は焼き尽くされ、その姿があった場所には暗闇だけが残った。


「第五階梯を簡単にあしらうか。であれば」


 レギウスは身体を大きく開く。その右手に雷が集まり、槍を形作った。力強く放たれた雷槍は、エリスに触れた瞬間、常に働く反魔法によって散り散りに弾ける。彼女には傷一つない。歩調すら変えず、そのまま進んでいた。


 ――ガレスが飛び出した。盾に身を隠し、全身の重みを乗せてエリスへと突っ込む。ガキィン……エリスの一歩手前で、盾がぴたりと止まった。


「なっ……無詠唱で氷を」


 盾は完全に氷漬けにされ、地面へと縫い止められていた。ガレスは自分の腕まで凍る前に手を離す。盾の脇から前へ踏み出し、その拳をエリスに叩きつけた。


 が、びくともしない。


「ばかなっ!」


 その腹部に銃口が触れる。


「しまっ」


 彼の判断は早かった。無属性魔法を自分の身体へ叩きつけ、その勢いで銃口の前から逃れる。エリスの背後へ回り込み、背中を蹴り込もうと足を振り上げた。鈍い衝撃音。エリスの蹴りの方が、数倍早かった。ガレスの身体がくの字に折れ、遥か遠くへと吹き飛んでいく。


「にんっ……げんの、蹴りの強さではっ!!」


 エリスは盾を白銀の炎で斬り溶かし、レギウスの前へ歩み出る。


「まだ勝てると思いますか? 私は……負ける気がしません」


「ほざけ。アッシュの器の思い上がりだ」


 振り下ろされる大剣。エリスの髪が舞い、彼の大剣が空を切った。その脇で、エリスの剣が白銀の炎を引いて閃く。放たれた斬撃が衝撃の波となって走っていく。観客席から悲鳴が上がった次の瞬間、私の巨大な氷の壁がそれを防いだ。


 大剣の半分が、その氷に突き刺さる。レギウスの手元に残った刀身は、切断面を溶かしたまま地面を叩いた。そこから即座に凍りついていく。彼はすぐに柄から手を離した。


 次の一手が早い。キィン……と甲高い金属音を鳴らし、レギウスは腰の王族の剣を引き抜いた。躊躇などない。そのままエリスの首へと振り抜く。


 エリスは首を軽く傾け、白銀の炎を纏った剣で受け止めた。火花が散る。その横へ、もう一つの影が迫っていた。ガレスが追撃を仕掛けてきたのだ。


「ガレスさん。丈夫なんですね」


 カチッ――天井にまで届きそうな氷が、ガレスを完全に包み込んだ。レギウスは彼を気遣う素振りすら見せず、王族の剣を引いてエリスから距離を取る。低く構え直したその前で、木の根がエリスの両足を覆っていった。けれど、それは一瞬の足止めにすらならない。覆い尽くす前に灰となる。


「たとえ一秒でもいい。君の速度を上回って見せる」


「できますか?」


 レギウスの連撃をエリスはすべて斬り伏せた。襲いかかる魔法も、攻撃も何もかも意味をなさない。


「……まるで魔法が発生するまえに分かっているかのようだな。私の剣でさえも。その目のせいか」


「そうです。これが龍の見ている世界なんですね。普段見えない魔力の流れを見れるんです。そしてあなたは魔力で身体強化している。だから……全部見えます」


「最後の忠告だ。元の位置に落ちろ」


「……まだ、いいますか」


 エリスの声に苛立ちが滲んだ時、レギウスがその喉元へ剣を投げつけた。本気で貫くつもりに見えた。エリスは彼が認識できないほどの速さで、その剣を弾き飛ばす。彼女の剣が戻るより早く、今度はレギウスの足がマスケット銃を狙った。けれど、蹴りが届く前に、銃はエリスの手を離れていた。


 その銃を握っているのは、私。レギウスの顎へ、下から銃口を突きつける。エリスの剣は、彼の目元へ切っ先を向けていた。


「イルナ・ヴァレス・ドラクシス……!!」


「主役以外が活躍してはいけない。なんてルールはないでしょう? あなたの負けよ」


「お前たちが、上に立てば色付けはどうなる。学院の見る目がないとなれば、地位が落ちる。この学院とは、王国にとっても象徴たるものだ。信頼によってなりたっているものだ。それがお前達のようなものに壊されてはならない。一体どれだけの歴史があると思っている!!」


「んなこと知らないわ」


 銃をさらに強く押し付ける。


「地に落ちるのは私たちじゃない。学院のシステムよ」


「……ガレス、やれ」


 ガレスを包んでいた氷にヒビが入る。中に居たガレスが片手を天へと向けた。レギウスは不敵な笑みを見せる。


「天井を含めた第一決闘場全体を禁忌階梯魔法の中に押し込んだのは間違いだったな」


 黒い長槍の突き刺さっていた中心から黒く脈打つ魔法陣が天井に広がっていく。

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