暴露大会
テーブルを囲みながら話に花が咲いていた頃、リゼットが静かに目を閉じてグラスをテーブルに置いた。一瞬ためらったようにも見えたけれど、彼女は自分の境遇を話した。
「私は……本当だったら死んでいたの」
少し驚いて、遮るように私は言った。
「リゼット……? いいの? あなたその話」
「あなたは影の中で見ていたんだったわね。いいのよ。それにお友達に隠すことでもないわ。むしろ……知ってほしいのかも。とても辛いことや苦しかったことは変えられないけれど、知ってもらうことで満たされるものがあるから。でも……秘密にしてくれる?」
リゼットはベールへ小さく首を傾けた。それから、私たち一人ひとりにも確かめるように目を向ける。
「言いません。友達を裏切りたくないので」
真剣な声色にリゼットは儚い笑顔を見せる。エリス達ももちろん頷いた。当然ここには他の客もいる。騒がしさはあれどリゼットは風の魔法を使い、声が外に漏れづらくなるようにした。そうしてリゼットは死ぬ運命であったこと。それをセリウスが助けたこと。大半を棺で過ごし、学院祭での事件で何があったのかなどを話した。
ベールは途中で口元を手で覆った。リゼットの話は、私も知らなかったセリウスのその後にまで及ぶ。人形の身体になったときの痛み。最初は思うように動かせなかった苦労。そして、セリウスが実の家族を殺してしまったこと。卓上の皿へ伸びる手も、いつの間にか止まっていた。
話し終えたリゼットが、私たちの顔を見渡す。誰からもすぐに言葉が返らず、彼女はハッと椅子から立ち上がった。
「ご、ごめんなさい。お茶会で話すことじゃなかったわ」
けれど責める者なんていない。打ち明けてくれたのは分かるけれど、重すぎて返す言葉が見つからない。それなのに、本人の方があたふたと空気を戻そうとしている。その慌てぶりに、少しだけ緊張が緩んだ。
フランが席を立ち、「落ち着いてー」とリゼットを抱きしめる。そのまま、そっと椅子へ座らせた。
「あっ……ごめんなさい。こういうの慣れてなくて。話せること全然ないし、空気を読むとかも全然……」
「いいからいいからっ! 大丈夫だよっ! 不器用でも頑張ってくれたんだーって分かるし、嬉しいよ。私もどっちかと言うと空気は読めない? みたいだから」
クローネがため息をついてリゼットからフランを遠ざける。
「はいはい。それ以上は寝ちゃうから。あんたの場合は空気が読めないっていうより抱きつきグセがあるのよ。そうねー。話を変えるならー……ベールと私のことでも話す?」
「うぇっ!! 私っ? うっ、あー……うぅ」
ベールはかなり迷いながらも言葉を連ねた。
「えっと……その、最初はいろいろあってクローネのお父様の指示に従ってて」
クローネと一緒にエリスをいじめていたこと。それから、指示に従ってクローネからも離れたこと。そしてクローネはエリス達と仲良くなったこと。話が進むにつれ、リゼットは目をぱちくりさせ、クローネとエリス、ベールの顔を何度も見比べていた。
「なるほど。ベールが謝って、エリスもクローネも受け入れてくれたのね。そこにイルナへの特別な気持ちもあって……とはいえ、よくそんな関係から、こうして一緒にお茶をするようになったものね」
しゅん……と、ベールは両手の指先をつつき合わせた。クローネもばつが悪そうに視線を逸らしている。リゼットは酸っぱい果実茶に甘い果実ジュースを少しずつ混ぜ、そのグラスを口へ運んだ。
「んっ……でも今じゃこんなに仲がいいなんて。家のしがらみに振り回されるなんて貴族じゃよくあることだけれど……」
私はステーキソースのついた口元を拭いた。
「次は私の番ね。これも内緒にしてほしいのだけど……私は吸血鬼と龍のハーフよ。詳しい話をすると、とーっても長くなってしまうから端折るけれど」
リゼットはさほど驚いた様子もない。ベールは口元へ運びかけたクッキーを止め、私の顔を見た。けれどすぐに納得したように頷き、止めていたクッキーを一口かじる。
「初めて戦った時のあの心臓を掴まれているような恐怖はその為だったんですね。なんか納得です」
そう言うベールの声に、リゼットも自分が納得した理由を話した。
「レガリオンであなたが去る時、魔力が凍っただけじゃなく、空気が震えたわ。あの時に只者じゃないってのは痛感していたから。それに影から私とセリウスの戦いを見ていたのだからその時点で月の世界に生きる者だって分かってたもの」
いつの間にか、お茶会は暴露大会になっていた。フランが王族であることまでは話せなかったけれど、ギルドの面々とこなした依頼や、王族の夜会での出来事、第零席たちとの出会い方まで。誰かが話し始めると、別の誰かが続きを足していく。
そこまではまだ良かったのだけど……
フランが、クローネとキスしていたことまで口にした。クローネの表情が固まる。パキッ……と、グラスが割れる音が聞こえた気がした。一瞬で、卓上の空気が凍りつく。
「ちがっ!! あれはっ!! イルナがいつもキスしてくるせいでっハードルが」
クローネはすぐさま口元を手で隠した。種火を移そうと、よく朝や夕方に私とエリスがキスしていることを暴露。
「ひゃぁぁああ!! なんでバラすんですか!! あっあっあれはっ!! あのっ、あれです! 契約しててキスすることで契約の更新がっ」
「そんな高頻度必要無いくせにっ」
私はポケーッとその押し付け合いもといキズの広げ合いを眺めていた。チラッと横を見るとベールがむーっとしている。
「……ずるいです。私だってイルナ様と……短いキスしかしてないのに」
ちらっと私を見るベール。お腹がいっぱいなのか、少し粗めの吐息、誘うような上目遣い。期待感を現すように目が潤む。
リゼットが私たちに白い目を向けてきた。確かに普通こんな関係性はないでしょうから、当然の反応だけれど……椅子の脚が床を擦る。なんなら、椅子ごとちょっと後ろに下がったわね。
「あなた達……すっ、進んでいるのね。お友達って……こういうものなのかしら」
違うわ。すごく違う。
エリスがバンッ! と机を叩いた。
「リッ! リリリゼットさんはどうなんですか?! セリウスさんと!」
唐突なバトンパスにリゼットの顔が一気に真っ赤になる。まさか自分に種火が来るとは思わなかったのだろう。
「そっ……それは……」
口元を隠し、内股でドレスの裾をキュッと下げる。その行為だけでどこまで行ったのかなんて想像がついてしまう。
「内緒……」




