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おぼつかない足取りで

 ベールとリゼットを含む私たちは夜の街を歩いた。多少目的地には悩んだわ。最初はギルドの酒場にしようかとも悩んだけれど、おそらくギルドの面々から察するにお茶会ではなく宴会になってしまうでしょうし……


 ガルバスとか両手に酒を持ちながら一度に口に入れそうだし。私の知っているお茶会はそんな愉快なものではないわ。


 アンナとの毎日のような……とはいえ、高級なお店は避けたほうがいいでしょうし。私以外は全員貴族で、そのうちベールを除けば皆が十二の貴族。フランは私と同じように貴族とは思われないでしょうけど……


 馬車の立ち並ぶ格式の高い店を通り過ぎながら私は首を横に振った。


 注目を浴びてお茶どころではないし、おしゃべりやお茶を楽しむ場としては少し窮屈。となれば……普段はあまり来ないけれど、人通りの多い普通のお店ね。


 歩くにつれてすれ違う人が増え、辺りも賑やかになっていく。魔石の赤い街灯に照らされたレンガの上を、リゼットとベールは足元を確かめるように歩いていた。人が近づくたび、二人の歩幅が小さくなる。


 なるほど、二人はあまり外を歩かないものね。私たちはギルドの酒場やいろんな店に徒歩で向かっていたけれど、それなりの家柄の貴族が自分の足で街を歩くのは、珍しいことなのでしょう。特に、こんな人通りの多い場所を夜に歩くなんて。


 酔っ払って足取りのおぼつかない人、私たちのように並んで歩く人、子どもを連れた人もいる。リゼットとベールはそんな人達を避けながらも、友人に話しかけられるたびに顔を戻していた。左右から次々に声がかかるのを、楽しんでいるように見えるわ。


 酔っ払った人を避けようとしたベールが、ふらりとよろける。リゼットがそっと手を取り、その身体を支えた。


「大丈夫?」


「え、えぇ。大丈夫です。こういうとこ慣れてなくて……」


「私もよ。こんなに歩いたり、ましてや友達と歩くなんて初めてだから」


「初めてですか?」


 二人の会話が盛り上がり始めた頃、ふとリゼットが足を止めた。レストランの窓の向こうでは、卓を囲んだ人たちが笑っている。漏れてくる話し声に耳を傾ける彼女を見て、私はクスッと笑った。


「ここにしましょうか」


 そう言ってドアを引いた。その瞬間閉じ込められていた騒がしさがボリュームを上げる。ガヤガヤとした声が通りへと漏れ出していた。一瞬戸惑い、足の止まったベールの手をクローネが、リゼットの手はフランが握って店内へと導いた。


 私の前ではエリスが手を差し出している。その手を握り、中へと足を踏み入れた。天井から吊るされた魔石の灯りの下にテーブルが整然と並び、大勢の客が食事をしている。その間を抜けてきたウェイターが、私たちに人数を尋ねた。


 見ての通り六人よ、と答えると、一つのテーブルに案内された。リゼットとベールが隣り合い、六人で卓を囲んで小さな木の椅子に腰掛ける。客層は若い人たちが多い。かと言って無法なわけではなく、会話と食事を楽しんでいるのが大半……と言ったところかしら。


 リゼットは背筋を伸ばして綺麗に座り、ベールもつられているのか姿勢が硬い。私は口元に指を当て、クスクスと笑いながらもエリスの広げたメニューに一瞬目を移した。


 メニューの数が結構多いのね。名前だけではわからないものも多いわ。


 ベールとリゼットも一枚のメニューを覗き込み、眉を寄せている。リゼットの指が品名の途中で止まると、ベールはその横の値段を確かめるように顔を寄せた。


「えっと……リゼットさん。分かりますか? 金額は驚くほどやすいですけど……」


「……難しいわ。私ね、病弱でずっとベッドの上にいたから……今もある意味ではベッドの上というか中にいることが大半であるし……」


 ……棺。


「適当に選んでみますか? お茶ならここの欄だと思います。なので後はお菓子とか……ご飯とかでも」


「分かったわ。この焼き菓子を頼んでみましょう。他のより少し高いみたいだからきっと美味しいわ」


 その後も二人は試してみたいものを見つけては注文した。クローネが少し呆れて「そんなに頼むの?」と尋ねる。二人は顔を見合わせ、数秒迷ってからそろって頷いた。お互い経験が少ないから、親近感があるのかしら?


 ――ドンッ!!


 お菓子や食事が並び始めていたテーブルの大半を、一つの大皿が占めていた。先に置かれた皿が小さく見える。リゼットとベールはあっけにとられ、言葉を失った。ウェイターはにっこりと笑いながら言った。


「ご注文のスペシャルクッキーです。お楽しみください。数々の味が楽しめますよ? 中には外れもあるかもしれませんね」


 リゼットは口元を隠しながら冷や汗をかいていた。


「間違えたわ。てっきり高いのは質のいいものを使っているから……なんて思っていたのだけど……まさか物量だなんて」


「たっ……食べられません。こんなに」


 そう言いながらもベールはパクッと一口。


「んっ!! フルーティーで甘いですっ!」


「ほんと? じゃあ私も……ゔぇー……」


 リゼットの眉がぎゅっと寄った。かじりかけのクッキーを持ったまま、氷の入った果実茶を急いであおる。


「んんんんんっ!!」


 バタバタと手足を動かし、きゅーっと目をつむる。どうやらとても酸っぱかったらしい。果実茶のグラスを置くなり、隣にいたベールのジュースを掴んで口元へ引き寄せた。


「あっ! 私のっ!」


「ごくっ……ごくっ。ごめんなさい。緊急だったのよ。だってこれよ?」


 かじっていたクッキーをベールの口の中にねじ込んだ。


「んぎっ!!」


 果実ジュースの取り合いを眺めながら、私はもにゅもにゅとステーキを食べていた。とても楽しそうでなによりだわ。クローネがじとーっとこっちを見てきている。


「……いやあんた。お茶しようって言ってんのになんで肉」


 まぁ龍だもの。許されるでしょう。多分。確かにお茶の香りよりも香ばしい匂いの方が充満しているけれど……

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