レガリオン
私とエリスの視線が重なった時、お互い同じ事を思っているのだろうとすぐに理解した。渡された手紙に記された会合の日付は三日後。
――時は流れ、三日後の夕暮れ時。教室から廊下へと私とエリスは踏み出した。学年、クラスの色に限らず私とエリスを避けるように生徒達が距離を取る。その視線にもだいぶ慣れてきた。
校舎を抜け、私たちは整備された庭園を進む。その先にあるのは、選ばれたクラウンと第零席だけが踏み入れることを許される建物レガリオン。
近づくにつれ、ステンドグラスに描かれた十二の貴族が見えてくる。それを見上げると、王城の社交場を思い出した。当然、王国とこの学院は深い繋がりがあるでしょうから、不思議ではない。
重厚な扉の前には武装した二人の兵士。彼らは私たちを見るなり、ゆっくりと扉を開ける。エリスは躊躇いもなく中へと足を踏み入れた。室内には長机が置かれ、その周囲にはすでに数名が座っている。
その態度、溢れ出る魔力で実力者であることは簡単に理解できた。そしてその視線。そう、この人たちも私たちがこの場にいることを好ましくは思わないようね。みんな武器に手をかざしてあからさまに挑発してきている。遊んであげたいけれどそれはまたの機会に。
今日の目的ではないわ。
私はエリスの一歩後ろを歩く。この張り詰めた空気にも、彼女は一切気後れする様子がない。第零席から最も遠い席で椅子を引き、腰を下ろした。私も平然とその隣に座る。
誰も一言も喋らない。位置から察するにいるのは第五席、第三席。あとは第九席。ブローチの色はほとんどがノワールという最高評価。でも……隣の第九席のペアはミスリル。全員がノワールというわけでもないようね。すっごく睨んできているけど。
「何の偶然かしらぁ」
第三席の黒いドレスを身にまとった女性が微笑む。けれどその目は明らかに見下したもの。扇子をパッと閉じ、それを私たちへと向けた。
「どうして出来損ないの灰色がこの場所にいるのかしらねぇ……? 第六階梯魔法サングイス・ヴァーディクト」
血のようなどす黒い弾丸が扇子の先に形成される。ただの血色の弾丸じゃないことは見て明らかだ。その場で激しく回転し、それは私たちを狙って扇子の先から放たれた。
私は小さく息を吐く。それを握りつぶしてやろうとした瞬間だった。その弾丸がピチュンッ。という音を立てて長机の上で踏み潰された。私でも見れるかどうかの速度で現れたのは赤いドレスの少女――リゼット。妖艶な笑みで第三席を見下ろしていた。ふわっと赤いドレスの裾が美しく舞っている。
「血気盛んなら……お相手しましょうか? お互い血を見るのはお好きでしょう?」
「リゼット・アルカ・ラルベット……!」
踏み潰された血が、足元から血管のように枝分かれし、リゼットの身体を侵食し始める。彼女は口角を高く上げた。まるで、この程度? とでも嘲笑うかのように。
――その足を長机に押しつけ、ひねった瞬間、血が放射状に飛び散る。それは蒸発し、魔力となって消えていく。
入口から、棺を引きずる音が響いてきた。セリウスが入ってくる。
「リゼット。やりすぎるな」
その低い声に、リゼットの笑みが和らいだ。
「主人がそう言うのであれば仕方ないわね」
長机の上で礼儀正しくお辞儀をして、床へと優雅に着地する。リゼットはセリウスが第七席に座ると、その隣に腰掛けた。そして私をチラッと見るとさり気なく笑みを見せた。今度お礼を言わないとね。お茶をする約束だってしているんだから。
ふと、セリウスも私たちを見る。大して心配なんかしてない。とでも言うように視線をもとに戻した。私とエリスも第三席の挑発なんて気にしていない。だからこそ冷静だった。それが第三席は気に食わなかったらしい。でもセリウス達が私たちの味方だと分かったのか、それ以上の挑発はしてこなかった。
黒いドレスの女性の隣では、その相方が無言で座っている。好きにさせているらしい。セリウスのような巨体は、先ほどの騒ぎにも動かなかった。それでも私たちへの敵意だけは感じ取れた。
その後も次々と入ってくる席次達。日は完全に落ち、ステンドグラスから入っていた色とりどりの光も、今は青く輝くだけだった。
扉がまたゆっくりと開く。最後に悠然と、堂々と入ってきたのは当然レギウス・エルワース・ファニス。こちらへ向ける敵意は、隠すつもりもないようね。
そのすぐ後ろから、鎧の擦れる音が続いた。歩いてくる人物からは、対照的に一切の敵意を感じない。
――ガレス・オルド・ヴァルセイン。
重厚な鎧をまとい、銀色の髪を後ろへと流して、鋭い目は伏せている。まるで従順な聖騎士という印象だった。
レギウスは第零席へと姿勢を崩すように座る。ガレスは座ることなく、後ろでただ立っている。本当に、レギウスの為に存在しているかのような……
長机越しに、レギウスの目がエリスを捉えた。彼は小さく口を開いた。
「辞退してくれないか。君たちはここにいるべきではない。それが正しいことだ。炎の貴族の落ちこぼれがここに座るべきではない。同時に……君だイルナ・ヴァレス・ドラクシス」
――貴族ではない君には退学して欲しい。
その言葉に、乾いた笑いがこみ上げた。私は口元に笑みを残したまま、レギウスを見返す。
「随分な物言いね。フィアナの影に隠れていたんでしょう?」




