席次への招待状
翌日、私たちはアッシュクラスへといつも通り登校した。前日はフラン達と世界の創世についてたくさん語り明かしたから、みんな少し疲れてるみたい。私も理解はしたけれど、感情がなかなか追いつかなくて寝不足だった。
教室へ入るなり、ふあーっと大きなあくびをしてしまう。全身を震わせながら伸びをして、太陽の当たるいつもの席へと座る。すでに隣の席を確保していたベールが顔を傾けて問いかける。
「昨夜は眠れませんでしたか?」
「えぇ……少し、いろいろあったのよ」
「目を腫らしておられますね。授業まではまだ時間がありますし、私の膝をお使いください。胸でも構いませんっ!」
目を輝かせながら胸を張る彼女の言うがまま、私は彼女の胸に頭を乗せた。すぐに瞼が落ち始める。太陽に照らされていると、どこか安心する。昔より……もっと落ち着く。
「クー……」
「はっ、はぁっ……あっ」
バクッ、バクバクバクッ。荒くなっていく息と、心臓の鼓動が強く私の頭を揺らすせいで、眠りに落ちかけていた私は瞼を開いた。少し身じろぎをすると、力の抜けきった身体が反対側へと引っ張られながら傾いていく。
「んぁー」
ぽすっ……
隣にいたエリスの胸に私は収まった。ベールの手が私のいた場所で空を切り、しょぼーんと下がる。それを尻目にエリスはぎゅっと私を強く抱きしめる。
「イルナさんは私のペアです。私の胸を使うべきですっ!」
「私の方が大きいのですが……残念です」
ボソッと呟かれた言葉が、エリスの胸を刺したらしい。私を抱く腕にぐっと力がこもり、頭が潰れかける。痛い。痛すぎるわ。
「成長……途中……ですから……これから大きくなりますからっ!!」
ミシッミシミシッ。割れるわ。割れてしまうわ。龍の魔力に目覚めてから力がっ……!
それを見かねたクローネがグラウィスを使うと、頭を締めつけていた力が緩んだ。寝るつもりだったけれど、命の危険を感じたことでそれどころじゃなくなってしまったわ。その隙にそっとエリスの腕から抜け出す。二人はまだバチバチと睨み合っているけれど、私は代わりにフランの胸に飛び込んだ。
「……極上」
私は一瞬にして眠りに落ちた。ちらりと睨むクローネの顔が見えた気がするけど。借りるだけ借りるだけ。
――私はパチッと目を覚ます。まだあまり眠れていない。けれど、教室が妙に静かだった。フランの胸から顔を上げると、周囲の視線がこちらに集まっていた。
「どうしたのかしら。随分とピリついているけれど」
学院の事務職員が一人、机の端に立って私を見下ろしていた。その前にはエリスが立っている。見上げた職員の制服は、普段見かけるものと少し違う。より装飾が豪華といえばいいのかしら。どこか王族の周囲にいる召使いのような……
「私はクラウン以上のお方とやり取りをする上級教職員。今回はレギウス様より言伝を預かっております」
その名を聞いて、私は目を細めた。上級教職員が指を鳴らす。途端に、机も、周囲の顔も、教室の景色ごと闇に覆われた。
「私はこれを三分ほどしか維持できませんのでご了承ください。この中では何を言っても私たち以外に聞かれることはありません」
まるで影の中にいるみたい。真っ暗なのに、エリスと職員の顔だけは見分けられる。私はため息をつき、黙って続く言葉を待った。
「今回、クラウン以上の順位に変動があったため、クラウン及びスローネ全員の出席が求められています」
顔合わせ……ということかしら。そう簡単に変動するものでもないでしょうし。エリスは特に疑問を持つこともなく、その要求に応じると答えた。職員は小さく頷いて手紙をエリスへ渡し、言葉を続けた。
――レギウスの言葉を。
「第零席レギウス様より伝言を預かっております。『君たちは出席しなくてもいい。しかしルールであるから使いを遣わした。そしてかの者に対して、より厳しい罰則を与える』以上」
私は龍の目をギロリとその職員へ向けた。かの者。一瞬なんのことか分からなかったけれど、すぐに理解した。名前を呼びたくない存在により厳しい罰則?
――フランのこと。
「どういうつもりなのか答えてもらえるかしら」
「詳しいことは……私は、分かりません」
職員の鼓動が速まっているのを、私の耳は確実に聞き取っていた。けれど、顔には出さない。やはり普通の職員とは違うのか、肝が座っている。少し睨んだくらいでは取り乱さないらしい。それにどうせ本当に知らないでしょうし。
「……分かったわ。出席はする。そう伝えなさい。それでいいのよね? エリス」
「はい。構いません。それと、罰則についても理解しました。許さないとでも言っておいてください」
……私のペアもだいぶ肝が座っているわね……相手は王族なのだけど。
三人だけの空間がパッと消え、机や周囲の顔が視界に戻った。職員は頭を下げて背を向ける。その口から漏れた「出来損ない風情が」という小さな声を、私は聞き逃さなかった。いちいち怒るほどでもないと、ため息をついた。
その職員が教室を出る時、小さな声でベールが魔法を呟いた。職員が背中を押されるように転び、ドアがバンッ! と閉まる。べーっとベールは舌を出した。
「……ベール」
「ひゃいっ!! すみません私余計なことっ」
「内緒……ね。ありがと」
「っ……」
ベールの顔がとろけるように赤くなっていく。状況を理解できていない周囲をよそに、私とエリスは顔を見合わせる。フランの罰則を強める。それはつまり……あの侵入がフラン、及び私のしたことだとバレている。
だからと言って引き下がるつもりもないわ。なんであんなことをしなきゃならなかったか。不当な罰を、評価を与えたあなた達のせいでしょう? だからフランは追い出された。ずっとそこに閉じ込めておけと言ったくせに、今度は追い出した。
どうせ集まりがあるんだもの。喧嘩を売るにはちょうどいいわ。




