第九十六話「火山地帯へ、もう一度」
翌週だった。
準備に数日かけた。
火山地帯は、普通の依頼とは違った。
足元が不安定だった。
熱気があった。
硫黄の匂いが強かった。
前回は五人だった。
今回は六人だった。
ミルヴァが初めて行く場所だった。
出発の前日、全員を集めた。
「火山地帯について、事前に説明します」
全員が聞いた。
「環境が特殊です。地熱が高い。足元に亀裂があります。煙で視界が悪くなる場所があります」
「魔物は」
ミルヴァが聞いた。
「ラーヴァホークという小型の鳥型魔物と、スコーチリザードという中型の岩蜥蜴型魔物がいます。スコーチリザードは熱属性を持っています。腹側は温度が低いので、そこが弱点になります」
「索敵は」
リアが言った。
「前回と同じ課題があります。熱源が多くてノイズが多い。範囲を絞って対応します」
「ミルヴァさんの隠密は」
「熱気の中でも問題ない。ただ、足元の音には気をつける必要がある。地面が不安定だと、いつもの動き方ができない場合がある。確認しながら進む」
「わかりました」
アーヴィンさんが静かに言った。
「目的は」
「《緋晶鋼》の二個目を探すことです。前回、近くにある可能性が高いとわかっています。ガデルさんの見立てでは、もう一個あるはずだと」
「見つかるか」
「わかりません。ただ、行かないと始まらない」
「そうだな」
コリンが言った。
「体調管理も必要ですね。熱気の中では消耗が早い」
「そうです。無理はしません。状態を見ながら進みます」
「わかりました」
マユミが少し前を向いた。
「前回より、段取りが厚い」
「そうですね」
「なら行ける」
「はい」
段取りは、決まった。
出発の朝だった。
マルティナさんが朝食を出した。
塩スープだった。
硬めのパンと、干し肉がついていた。
依頼前の食事だった。
何も言わなかった。
でも、わかっていた。
「いただきます」
全員が食べた。
体に、力が入った。
腹に残らず、動きやすい。
現場仕込みの飯だった。
マルティナさんが言った。
「気をつけろ」
「はい」
「全員で帰ってこい」
それだけだった。
でも、十分だった。
街を出た。
南西の道を進んだ。
半日以上の距離だった。
道中、ミルヴァが俺の隣を歩いた。
「前に行ったとき、何があった」
「硫黄結晶の採取依頼でした。その途中で、ラーヴァホークとスコーチリザードに遭遇しました」
「戦闘は」
「全員無傷でした。ただ、リアさんの索敵精度が落ちていたので、俺の羅針盤で補いました」
「羅針盤と索敵を組み合わせるのか」
「そうです。お互いの弱点を補う形です」
「なるほど」
ミルヴァが少し前を向いた。
「《緋晶鋼》というのは、どういうものだ」
「溶岩の中にあるのに溶けない赤い鉱石です。触れた瞬間、声が聞こえました」
「声」
「俺のスキルでしか聞こえない声です。二つありました。荒々しい声と、静かな声」
ミルヴァが少し俺を見た。
「精霊か」
「ガデルさんもそう言っていました。意思がある、と」
「そういうものが、この世界にはあるのか」
「あるみたいです」
「情報屋をやっていても、そういう話は滅多に聞かない」
「そうですか」
「珍しい依頼だな」
「俺もそう思います」
ミルヴァが少し前を向いた。
「見つかるといいな」
「はい」
短かった。
でも、本気だと思った。
火山地帯が見えてきた。
遠くから、煙が上がっていた。
匂いが変わった。
硫黄の匂いだった。
ミルヴァが少し足を止めた。
「これは」
「慣れます。ただ、最初はきつい」
「そうだな」
全員が少し顔を引き締めた。
リアが言った。
「索敵を開始します。範囲を絞ります」
「お願いします」
羅針盤を確認した。
針が少し速く動いていた。
熱源が多いせいか、いつもより反応が多かった。
でも、読めた。
前回より、精度が上がっていた。
スキルが成長していた。
「周囲に三体。左前方に二体、右の岩陰に一体」
リアが言った。
「左前方の二体、確認できます」
「右の岩陰はリアさんの索敵に引っかかっていませんか」
「熱源が多くて曖昧です」
「羅針盤では反応があります。ミルヴァさん」
「確認する」
ミルヴァが前に出た。
すぐに消えた。
しばらくして戻ってきた。
「岩陰にスコーチリザードが一体。こちらに気づいていない。熱気に紛れて動いている」
「ありがとうございます」
段取りを組んだ。
「アーヴィンさんとマユミが左前方の二体を。ミルヴァさんは岩陰の一体を先に抑えてください。リアさんは援護。コリンさんは後方待機」
「わかった」
ミルヴァが先に動いた。
岩陰のスコーチリザードが、音もなく仕留められていた。
アーヴィンさんが左前方に踏み込んだ。
ラーヴァホークが二体、飛び回った。
小型だが、素早かった。
マユミが一体を追った。
仕留めた。
リアが風魔法で残りの一体を落とした。
全員、無傷だった。
コリンの出番は、今日もなかった。
「今日も暇でしたね」
「いいことです」
「そうですね」
ミルヴァが少し前を向いた。
「火山地帯は、足元が読みにくい。隠密の精度が落ちる」
「気づきましたか」
「感じた。慣れが必要だ」
「急ぎません」
「そうだな」
先に進んだ。
熱気が増した。
羅針盤を確認した。
針が、ゆっくりと一定の方向を向いていた。
前回と、少し違う反応だった。
何かがある。
そう感じた。
「この方向です」
「何かあるか」
「わかりません。でも、羅針盤が反応しています」
全員が俺を見た。
「行きます」
「了解」
足元に気をつけながら、進んだ。
亀裂を避けた。
煙を抜けた。
岩場の奥だった。
熱気が強かった。
でも、羅針盤の針は止まっていた。
この場所だった。
俺は足元を見た。
岩の隙間だった。
赤い光が、かすかに見えた。
「ここです」
全員が集まった。
マユミが岩を少しずらした。
光が強くなった。
赤い鉱石だった。
溶岩の熱の中にあるのに、溶けていなかった。
声が聞こえた。
荒々しい声だった。
でも、前回とは少し違った。
静かな声も、混ざっていた。
二つが、重なっていた。
「あります」
俺は静かに言った。
「《緋晶鋼》の二個目です」
第九十六話「火山地帯へ、もう一度」 了




