第九十五話「全員に、話す」
その夜だった。
夕食が終わってから、全員を残した。
「話があります」
全員が俺を見た。
マルティナさんが食器を片付けながら、少し動きを止めた。
俺は少し考えた。
「マルティナさんも、聞いてもらえますか」
マルティナさんが俺を見た。
「俺に関係あるか」
「あると思います」
マルティナさんが椅子を引いた。
座った。
「話せ」
「はい」
全員が静かになった。
「スキルのことです」
マユミが少し前を向いた。
「全部、話せ」
「はい」
俺は順番に話した。
《可視化》スキルのことは、マユミとアーヴィンさんには伝えていた。
リアとコリンは、薄々気づいていた部分があったかもしれなかった。
ミルヴァは、今日初めて聞くことになる。
マルティナさんも、同じだった。
でも、全員に話すと決めた。
セリウスさんがそう言った。
そして、俺もそう思った。
同じ飯を食っている人間に、隠し事はしたくなかった。
「俺のスキルは、《可視化》といいます」
声に出すと、少し軽くなった気がした。
「人を見ると、色が見えます。性別、職業、体の状態、感情の機微。段階的に見えるものが増えてきました」
全員が静かに聞いていた。
「今は、羅針盤との連動で、全員の色が同時に感じられるようになってきています」
ミルヴァが少し目を細めた。
「あたしの色も見えているのか」
「はい」
「何色だ」
俺は少し間を置いた。
「落ち着いた灰色です。ただ、最近は少し違う色が混ざることがあります」
「どんな色だ」
「まだうまく言葉にできません」
ミルヴァが少し前を向いた。
「そうか」
コリンが言った。
「俺たちの色は、ヒコさんにはずっと見えていたんですね」
「はい。ただ、感情まで読み取れるようになったのは最近です」
「それは、すごいですね」
「便利ではあります。ただ」
俺は少し間を置いた。
「リスクがあります」
静かになった。
「スキルが成長するほど、外から見てわかる人間には感知されやすくなります。魔族側に、俺のスキルが知られている可能性がある」
アーヴィンさんが静かに言った。
「だから消える、ということか」
「セリウスさんはそう見ています。過去の可視化持ちが、全員Bランク以上になる前に消えている」
「そうか」
「俺が今どの段階にいるか。セリウスさんの見立てでは、第四段階への移行が近いそうです」
マユミが言った。
「それは、危ないのか」
「危険度が上がる、ということです。今すぐ何かが起きるわけではない」
「でも、備えが必要だ」
「はい」
マユミが俺を見た。
「なんで今まで全員に言わなかった」
責める口調ではなかった。
ただ、聞いていた。
「タイミングを考えていました。それと」
「それと」
「スキルのことを知られると、俺の見え方が変わると思っていました。皆さんの自然な反応が、俺のスキルにとって大事なものだったので」
マユミが少し間を置いた。
「そういうことか」
「はい」
「まあ、わかった」
マユミが少し前を向いた。
「で、俺たちに何をしてほしい」
「特別なことは何もないです。ただ、知っておいてほしかった」
「それだけか」
「それだけです」
リアが言った。
「一つ確認させてください」
「はい」
「色が見えることで、戦闘中の判断に影響はありますか」
「あります。味方の状態がわかるので、コリンさんに早めに声をかけられます。リアさんの魔力が落ちてきたとき、引き際を判断しやすくなります」
「なるほど。それは合理的な運用です」
「そうですね」
「スキルの成長に伴うリスクについては、パーティとして対応します。情報として共有してください」
「わかりました」
コリンが言った。
「俺も同じ気持ちです。何かあれば、一人で抱えないでください」
「ありがとうございます」
アーヴィンさんが静かに言った。
「知っていた」
全員が少し止まった。
「薄々、ということですか」
「ああ。お前の動き方が、普通の冒険者じゃなかった。見えているとしか思えない動きをする」
「そうですか」
「気にしていなかった。使えると思っていた」
短かった。
でも、それがアーヴィンさんの言葉だった。
ミルヴァが言った。
「あたしも、似たようなものだ」
「そうですか」
「情報屋は、人の観察眼を持つ人間に敏感だ。お前が普通じゃないとは思っていた」
「気づいていましたか」
「全部ではない。でも、何かあるとは思っていた」
ミルヴァが少し前を向いた。
「スキルの中身は驚いた。でも、お前がそういう人間だということは、驚かなかった」
「そうですか」
「悪くない」
静かになった。
マルティナさんがずっと黙っていた。
俺はマルティナさんを見た。
マルティナさんが俺を見た。
「わかった」
「はい」
「それだけか」
「それだけです」
「なら食え」
マルティナさんが立った。
厨房に入った。
しばらくして、湯気の立つものを持ってきた。
温かい根菜の煮込みだった。
小さな器に、一人分だけだった。
俺の前に置いた。
「食え」
「ありがとうございます」
何も言わなかった。
でも、わかった。
全員が少し静かに見ていた。
マユミが小声で言った。
「お前だけかよ」
「すみません」
「謝るな」
マユミが少し笑った。
「うらやましいだけだ」
俺は少し間を置いた。
「うまいです」
「知ってる」
全員が笑った。
ミルヴァも、少し口元が動いた。
マルティナさんは何も言わなかった。
でも、厨房の中で少し音がした。
次の何かを準備している音だった。
話が終わった。
全員が知った。
それで十分だった。
段取りは、また一段、整った。
第九十五話「全員に、話す」 了




