表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/193

第九十四話「セリウスと、スキルの話」

 数日後だった。


 ミルヴァが宿に落ち着いてから、少し経った。


 六人での依頼も、二本こなした。


 そろそろだと思った。


 セリウスさんに報告しなければならないことがあった。



 ギルドに向かった。


 一人だった。


 今回は、一人で行くと決めていた。


 スキルの話は、まだ全員に話す段階ではなかった。


 セリウスさんの見立てを先に聞いてから、と思った。



 ギルドの奥に通してもらった。


 セリウスさんがいた。


 書類を確認していた。


 俺が入ると、顔を上げた。


「来ましたね」


「報告があります」


「座ってください」


 椅子に座った。


 セリウスさんが書類を脇に置いた。


「聞きましょう」


「スキルが、また動いています」


 セリウスさんが少し間を置いた。


「続けてください」


「羅針盤との連動が変わってきました。以前は一人ずつ、順番に感じていました。でも最近は」


「最近は」


「全員の色を、同時に感じるようになってきています」


 静かになった。


 セリウスさんが俺を見た。


 目が、少し変わった。


 穏やかなままだった。


 でも、その奥に何かが混ざった。


「同時に、ですか」


「はい。ぼんやりとですが、六人全員の色が同時に流れてくる感覚があります」


「いつ頃からですか」


「ミルヴァさんが加わってから、はっきりしてきました。それ以前から兆候はありました」


「なるほど」


 セリウスさんが少し前を向いた。


「羅針盤を見せてもらえますか」


「はい」


 羅針盤を取り出した。


 セリウスさんに渡した。


 セリウスさんが手に取った。


 針がゆっくり動いた。


 セリウスさんが少し目を細めた。


「反応していますね」


「そうですか」


「私が持つと、こういう動き方をする」


 セリウスさんが俺に返した。


 俺が持つと、針の動きが変わった。


「違いますね」


「はい。持つ人間によって、動き方が変わります」


「それは以前からですか」


「以前から気づいていましたが、最近その差が大きくなっています」


 セリウスさんがしばらく考えた。


 俺は待った。


 急ぐ必要はなかった。


 セリウスさんが口を開いた。


「一つ、確認させてください」


「はい」


「全員の色が同時に見えるようになったとき、何か負担はありますか。頭が重くなる、視界が歪む、そういったことは」


 俺は少し考えた。


「今のところはありません。ただ、長時間続くと少し疲れる感覚があります」


「そうですか」


「情報が多すぎると、判断が鈍くなることはあります」


「それは以前からですか」


「以前からです。ただ、量が増えています」


 セリウスさんが頷いた。


「わかりました」


 少し間が開いた。


「正直に話します」


「お願いします」


 セリウスさんが俺を見た。


「《可視化》スキルが同時認識に移行しているとすれば、第四段階への移行が近いと思います」


「第四段階。ステータス数値全体が見える段階ですか」


「そうです。ただ」


 セリウスさんが少し声のトーンを落とした。


「段階が上がるほど、リスクも上がります。スキルが成長していることは、外から見てわかる人間にはわかります」


「魔族側に、ということですか」


「可能性の話です。ただ、注意しておいてほしい」


「はい」


「パーティには伝えましたか」


「まだです。今日、先にあなたに話を聞きたかった」


「そうですか」


 セリウスさんが少し前を向いた。


「伝えた方がいいと思います。全員が知っておくべきことです」


「わかりました」


「ただ、焦る必要はありません。今すぐ何かが起きるわけではない」


「そうですね」


「段取りを組む人間が、必要以上に先を見すぎると、足元が疎かになります」


 俺は少し間を置いた。


「現場仕込みなので、わかります」


 セリウスさんが少し笑った。


「そうですね」


 立ち上がろうとした。


 セリウスさんが言った。


「もう一つだけ」


「はい」


「ミルヴァさんは、うまくやっていますか」


「はい。思ったより早く馴染んでいます」


「そうですか」


 セリウスさんが少し目を細めた。


「あの人は、長い間一人で動いてきた人間です。パーティというものに、慣れていない部分があるかもしれない」


「気をつけます」


「無理に馴染ませようとしなくていいです。あの人のペースがあります」


「わかりました」


「ただ、困ったことがあれば、遠慮なく」


「はい」


 セリウスさんが静かに言った。


「あなたたちのことは、信頼しています」


 俺は少し間を置いた。


「ありがとうございます」


「急ぎません」


 セリウスさんが俺の口癖を使った。


 俺は少し驚いた。


 セリウスさんが少し笑った。


「よく言っているのを聞いていましたから」


「そうですか」


「いい言葉です」


「現場で覚えました」


「そうでしょうね」


 部屋を出た。


 廊下が静かだった。


 頭の中で整理した。


 第四段階への移行が近い。


 リスクが上がる。


 パーティに伝える必要がある。


 今夜、話す。


 段取りは、決まった。


 急ぎません。


 でも、準備は怠らない。


 それが、現場仕込みだった。



第九十四話「セリウスと、スキルの話」 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ