第九十四話「セリウスと、スキルの話」
数日後だった。
ミルヴァが宿に落ち着いてから、少し経った。
六人での依頼も、二本こなした。
そろそろだと思った。
セリウスさんに報告しなければならないことがあった。
ギルドに向かった。
一人だった。
今回は、一人で行くと決めていた。
スキルの話は、まだ全員に話す段階ではなかった。
セリウスさんの見立てを先に聞いてから、と思った。
ギルドの奥に通してもらった。
セリウスさんがいた。
書類を確認していた。
俺が入ると、顔を上げた。
「来ましたね」
「報告があります」
「座ってください」
椅子に座った。
セリウスさんが書類を脇に置いた。
「聞きましょう」
「スキルが、また動いています」
セリウスさんが少し間を置いた。
「続けてください」
「羅針盤との連動が変わってきました。以前は一人ずつ、順番に感じていました。でも最近は」
「最近は」
「全員の色を、同時に感じるようになってきています」
静かになった。
セリウスさんが俺を見た。
目が、少し変わった。
穏やかなままだった。
でも、その奥に何かが混ざった。
「同時に、ですか」
「はい。ぼんやりとですが、六人全員の色が同時に流れてくる感覚があります」
「いつ頃からですか」
「ミルヴァさんが加わってから、はっきりしてきました。それ以前から兆候はありました」
「なるほど」
セリウスさんが少し前を向いた。
「羅針盤を見せてもらえますか」
「はい」
羅針盤を取り出した。
セリウスさんに渡した。
セリウスさんが手に取った。
針がゆっくり動いた。
セリウスさんが少し目を細めた。
「反応していますね」
「そうですか」
「私が持つと、こういう動き方をする」
セリウスさんが俺に返した。
俺が持つと、針の動きが変わった。
「違いますね」
「はい。持つ人間によって、動き方が変わります」
「それは以前からですか」
「以前から気づいていましたが、最近その差が大きくなっています」
セリウスさんがしばらく考えた。
俺は待った。
急ぐ必要はなかった。
セリウスさんが口を開いた。
「一つ、確認させてください」
「はい」
「全員の色が同時に見えるようになったとき、何か負担はありますか。頭が重くなる、視界が歪む、そういったことは」
俺は少し考えた。
「今のところはありません。ただ、長時間続くと少し疲れる感覚があります」
「そうですか」
「情報が多すぎると、判断が鈍くなることはあります」
「それは以前からですか」
「以前からです。ただ、量が増えています」
セリウスさんが頷いた。
「わかりました」
少し間が開いた。
「正直に話します」
「お願いします」
セリウスさんが俺を見た。
「《可視化》スキルが同時認識に移行しているとすれば、第四段階への移行が近いと思います」
「第四段階。ステータス数値全体が見える段階ですか」
「そうです。ただ」
セリウスさんが少し声のトーンを落とした。
「段階が上がるほど、リスクも上がります。スキルが成長していることは、外から見てわかる人間にはわかります」
「魔族側に、ということですか」
「可能性の話です。ただ、注意しておいてほしい」
「はい」
「パーティには伝えましたか」
「まだです。今日、先にあなたに話を聞きたかった」
「そうですか」
セリウスさんが少し前を向いた。
「伝えた方がいいと思います。全員が知っておくべきことです」
「わかりました」
「ただ、焦る必要はありません。今すぐ何かが起きるわけではない」
「そうですね」
「段取りを組む人間が、必要以上に先を見すぎると、足元が疎かになります」
俺は少し間を置いた。
「現場仕込みなので、わかります」
セリウスさんが少し笑った。
「そうですね」
立ち上がろうとした。
セリウスさんが言った。
「もう一つだけ」
「はい」
「ミルヴァさんは、うまくやっていますか」
「はい。思ったより早く馴染んでいます」
「そうですか」
セリウスさんが少し目を細めた。
「あの人は、長い間一人で動いてきた人間です。パーティというものに、慣れていない部分があるかもしれない」
「気をつけます」
「無理に馴染ませようとしなくていいです。あの人のペースがあります」
「わかりました」
「ただ、困ったことがあれば、遠慮なく」
「はい」
セリウスさんが静かに言った。
「あなたたちのことは、信頼しています」
俺は少し間を置いた。
「ありがとうございます」
「急ぎません」
セリウスさんが俺の口癖を使った。
俺は少し驚いた。
セリウスさんが少し笑った。
「よく言っているのを聞いていましたから」
「そうですか」
「いい言葉です」
「現場で覚えました」
「そうでしょうね」
部屋を出た。
廊下が静かだった。
頭の中で整理した。
第四段階への移行が近い。
リスクが上がる。
パーティに伝える必要がある。
今夜、話す。
段取りは、決まった。
急ぎません。
でも、準備は怠らない。
それが、現場仕込みだった。
第九十四話「セリウスと、スキルの話」 了




