第九十三話「六人で、初めての依頼」
翌朝だった。
六人でギルドに向かった。
いつもと、少し違った。
人数が増えた分、足音が多かった。
ミルヴァだけ、音がしなかった。
歩き方が違った。
体重の乗せ方が、根本から違うのだと思った。
現場仕込みではなく、そういう職の人間だった。
ギルドに入った。
「受付をお願いします」
担当者が俺を見た。
「どういったご用件ですか」
「パーティメンバーの冒険者登録です」
ミルヴァが前に出た。
「登録を頼む」
担当者が書類を出した。
ミルヴァが記入した。
職業欄に、ニンジャと書いた。
担当者が少し止まった。
「確認のため、少しお待ちください」
担当者が奥に引っ込んだ。
マユミが小声で言った。
「止まったな」
「珍しい職業ですから」
「そうか」
しばらくして、担当者が戻ってきた。
一人ではなかった。
セリウスさんが一緒だった。
「久しぶりですね」
セリウスさんが俺たちを見た。
ミルヴァのところで、視線が止まった。
「ミルヴァさん」
「セリウス」
「来ましたね」
「お前が信頼しているパーティだと言うから」
「そうですか」
セリウスさんが少し笑った。
俺に向き直った。
「登録の件ですが、少し話をさせてください」
「はい」
奥の部屋に通された。
全員が入った。
セリウスさんが椅子に座った。
「ミルヴァさんの登録についてです」
「はい」
「通常であればFランクからになります。ただ」
セリウスさんがミルヴァを見た。
「情報ギルドでの経歴、職業、実績。それを考慮すれば、特例での認定が可能です」
「どのランクですか」
「Cランクでどうでしょう」
ミルヴァが少し間を置いた。
「構わない」
「ありがとうございます」
セリウスさんが俺を見た。
「パーティとしては、動きやすくなりますね」
「そうですね。助かります」
「ミルヴァさんの実力は、私が保証します。それが特例の根拠になります」
「わかりました」
セリウスさんがミルヴァに向き直った。
「改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ミルヴァが短く言った。
いつものビジネスライクな口調だった。
でも、セリウスさんへの信頼が、色に少し混ざっていた。
長い付き合いなのだろう、と思った。
登録が完了した。
ミルヴァのランクが、Cになった。
六人全員、Cランク以上になった。
アーヴィンさんだけBだった。
マユミが言った。
「これで全員揃ったな」
「そうですね」
「次は依頼か」
「今日、一本入れましょう」
「どこだ」
「確認します」
依頼板に向かった。
六人編成に適した依頼を探した。
街の北東の森。
魔物の間引き依頼だった。
グレイウルフが増えているという報告が入っていた。
討伐数:十体以上。
報酬:銀貨八枚。
難易度はCランク相当。
悪くなかった。
六人での動きを確認するには、ちょうどいい規模だった。
「これにします」
全員が確認した。
異論はなかった。
受注した。
街を出た。
北東の道を進んだ。
しばらく歩いたところで、ミルヴァが言った。
「先行していいか」
「お願いします」
ミルヴァが前に出た。
すぐに、見えなくなった。
草むらに入ったわけではなかった。
道の上にいるはずだった。
でも、見えなかった。
マユミが小声で言った。
「消えた」
「そういう職ですから」
「わかってるけど」
マユミが少し前を向いた。
「慣れないな」
「慣れます」
リアが静かに言った。
「索敵に引っかかっていません」
「そうですか」
「隠密の精度が高い。索敵魔法では捉えられない」
コリンが言った。
「それはすごいですね」
「索敵魔法の弱点を理解した上で動いている可能性があります」
「なるほど」
アーヴィンさんが前を見たまま言った。
「本物だな」
短かった。
でも、評価としては十分だった。
森の手前で、ミルヴァが戻ってきた。
音がしなかった。
気づいたら、隣に立っていた。
「三体。右の茂みに一体、岩陰に二体。気づいていない」
頭の中で段取りを組んだ。
「アーヴィンさんが岩陰の二体を正面から。マユミは右の茂みの一体を」
「わかった」
「リアさんは援護。コリンさんは後方で待機。ミルヴァさんは」
「岩陰の一体を背後から抑える。アーヴィンに任せる前に動いておく」
「お願いします」
「了解」
ミルヴァが再び消えた。
全員が動いた。
早かった。
アーヴィンさんが岩陰に踏み込んだ。
同時に、奥の一体が動きを止めた。
音がしなかった。
ミルヴァが先に仕留めていた。
残り一体をアーヴィンさんが制圧した。
マユミが茂みに飛び込んだ。
一合で終わった。
リアが援護魔法を構えたまま、使わなかった。
コリンが言った。
「速いですね」
「そうですね」
ミルヴァが戻ってきた。
「三体、片付いた」
「ありがとうございます」
「次は」
「続けて探索します」
「わかった」
羅針盤を確認した。
針がゆっくり動いていた。
周囲に、まだ反応があった。
「もう少し奥にいます。進みます」
「了解」
全員が動いた。
二時間ほどかかった。
結果、十四体だった。
グレイウルフが十二体。
シャドウリンクスが二体混じっていた。
ミルヴァが先行して位置を把握し、俺が段取りを組み、アーヴィンさんとマユミが仕留めた。
リアの援護魔法は三回使った。
コリンの出番は一度もなかった。
全員、無傷だった。
コリンが言った。
「今日は暇でしたね」
「いいことです」
「そうですね」
リアが言った。
「ミルヴァさんの先行偵察があると、戦闘前に状況が確定します。無駄な動きがなくなります」
「そうですね」
「効率が上がっています」
マユミが言った。
「やりやすかった。位置がわかってから動くのは、全然違う」
「そうですね」
ミルヴァが少し前を向いた。
「慣れれば、もっと精度が上がる」
「期待しています」
「期待に応える」
短かった。
でも、本気だと思った。
アーヴィンさんが静かに言った。
「背後から仕留めた一体。速かった」
ミルヴァがアーヴィンさんを見た。
「見えていたのか」
「気配だけ」
「そうか」
二人とも、それだけだった。
でも、何かが確認された気がした。
お互いの実力を、それぞれのやり方で測っていた。
現場で、初めてわかることがあった。
段取りが、また一段、厚くなった。
ギルドに戻った。
報告をした。
担当者が少し驚いた顔をした。
「十四体ですか」
「はい。二体は依頼外でしたが、念のため討伐しました」
「それは助かります。追加報酬を出せます」
「ありがとうございます」
報酬は銀貨十枚になった。
六人で割った。
一人あたり銀貨一枚と銅貨数枚だった。
大きくはなかった。
でも、初日としては十分だった。
問題は、金額ではなかった。
六人が、初めて一緒に動いた。
それが、今日の収穫だった。
宿に戻った。
マルティナさんが夕食を出した。
「今日はどうだった」
「うまくいきました」
「そうか」
それだけだった。
マルティナさんはそれ以上聞かなかった。
でも、今日の汁物は少し具が多かった。
根菜が、いつもより厚く切ってあった。
何も言わなかった。
でも、わかった。
「いただきます」
うまかった。
六人で食べる飯が、少し当たり前になってきた。
まだ一日だった。
でも、始まっていた。
第九十三話「六人で、初めての依頼」 了




