第九十二話「六人目と、新しい朝」
翌朝だった。
ギルドの前でミルヴァを待った。
少し早く来た。
朝の空気は冷たかった。
ギルドの扉が開いたり閉まったりしていた。
冒険者が出入りしていた。
ミルヴァは時間通りに来た。
音がしなかった。
気づいたら、隣に立っていた。
「待ったか」
「いいえ」
「返事を聞かせてくれ」
「全員、賛成です」
ミルヴァが少し間を置いた。
「そうか」
声は静かだった。
色を確認した。
昨日よりも落ち着いた色だった。
でも、その奥に何かが混ざっていた。
安堵に近い色だった。
「条件があります」
「なんだ」
「パーティの段取りは、俺が組みます。それに従ってもらいます」
ミルヴァが少し笑った。
「それだけか」
「それだけです」
「楽な条件だな」
「現場の段取りは、全員が動ける形にしないと意味がないので」
「なるほど」
ミルヴァが少し前を向いた。
「わかった。従う」
「では、よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
短かった。
でも、十分だった。
宿に戻った。
全員がいた。
朝食の前だった。
「ミルヴァさんに伝えました。今日から正式に六人目です」
マルティナさんが厨房から顔を出した。
「一人増えるか」
「はい」
「部屋はあるか確認しろ」
「確認します」
マルティナさんが引っ込んだ。
マユミが言った。
「今日来るのか」
「荷物の整理があるそうです。夕方には来ると」
「そうか」
コリンが言った。
「部屋を確認しておきましょうか」
「お願いします」
リアが言った。
「六人体制の依頼受注は、明日以降になりますね」
「そうですね。今日は整理の日にします」
「合理的です」
アーヴィンさんが静かに言った。
「ニンジャか」
「はい」
「楽しみだ」
短かった。
でも、本心だと思った。
アーヴィンさんがそういうことを言うようになった。
鞘を取り戻してから、少し変わった。
悪くなかった。
朝食を食べた。
干し肉のスープだった。
パンがついていた。
それに、卵が一つついていた。
いつもより少し多かった。
六人分になったからかもしれなかった。
湯気が立っていた。
体が温まった。
食べながら、頭の中で整理していた。
六人体制。
役割は、こうなる。
前衛:アーヴィンさん、マユミ。
後衛:リア、コリン。
索敵・先行:ミルヴァ。
指揮・判断:俺。
悪くない編成だった。
今まで足りていなかった部分が、埋まる。
ダンジョンの先行偵察。
トラップの解除。
気づかれる前に終わらせる一撃。
アーヴィンさんが正面から制圧する間、ミルヴァが死角から動く。
これは、使える。
段取りの幅が、明らかに広がっていた。
問題は、連携だった。
今まで五人でやってきた動きに、新しい一人を入れる。
慣れるまでに時間がかかる。
急ぐ必要はなかった。
まず、お互いを知ることが先だった。
午後になった。
特に依頼は入れていなかった。
ギルドで情報を確認してから、宿に戻った。
セリウスさんのことが頭にあった。
スキルの変化を報告しなければならなかった。
全員の色を同時に感じるようになってきていた。
羅針盤との連動が、また動いている気がした。
報告のタイミングを考えた。
ミルヴァが落ち着いてから、でいいと思った。
今は、六人体制を整えることが先だった。
夕方になった。
ミルヴァが来た。
荷物は少なかった。
革の鞄一つだった。
情報屋らしかった。
身軽でないと動けない仕事だったのだろう。
マルティナさんが部屋に案内した。
「二階の端だ。文句言うな」
「言わない」
「食事は三食込みだ。遅れたら食えない」
「わかった」
「以上だ」
マルティナさんが戻っていった。
ミルヴァが少し部屋の方を見た。
「はっきりしているな」
「そういう方です」
「嫌いじゃない」
全員が食堂に集まっていた。
ミルヴァが全員を見た。
「世話になる」
マユミが言った。
「よろしく。強いなら頼りにする」
「足は引っ張らない」
「それだけでいい」
コリンが言った。
「何かあれば言ってください。遠慮しなくていいですから」
「そうか」
リアが言った。
「役割の確認をしておきたいです。明日以降の依頼に向けて」
「今夜でいいか」
「はい。食後で構いません」
「わかった」
アーヴィンさんがミルヴァを見た。
何も言わなかった。
ミルヴァもアーヴィンさんを見た。
何も言わなかった。
二人とも、それで十分そうだった。
マルティナさんが夕食を出した。
「座れ。食え」
肉の煮込みだった。
根菜が多めに入っていた。
パンもいつもより厚かった。
六人分、きっちり並んでいた。
全員が座った。
六人分の席が、埋まった。
俺は少し、その光景を見た。
四人だったのが、五人になって、六人になった。
一人ひとりが、違う理由でここにいた。
でも、今は同じ飯を食っていた。
それでいいと思った。
現場は、理屈じゃない。
一緒に動いて、初めてわかることがある。
段取りは、そこから組む。
マルティナさんの飯はうまい。
六人目の夜が、静かに始まった。
第九十二話「六人目と、新しい朝」 了




