第六十八話「新しい装備と、初めての実戦」
翌朝。
食堂に下りると、全員が新しい装備を着ていた。
マルティナさんが全員を見た。
「いい装備だな」
「昨日、鍛冶屋で受け取りました」
「顔が違う」
「そうですか」
「引き締まっている」
マルティナさんがパンを出した。
「食え。いい装備は、いい体があってこそだ」
「はい」
全員が食べた。
ギルドに着いた。
掲示板を確認した。
一枚の依頼票が目に入った。
Cランク指定。
街の北の森。
魔物の大量発生。
グレイウルフ、十体以上の目撃情報。
報酬:銀貨十二枚。
マユミが横から覗いた。
「これか」
「候補です。どう思いますか」
「グレイウルフなら知ってる。二層にいたやつだ」
「そうです。ただ、十体以上となると話が変わります」
「数が多いのか」
「群れで動く魔物です。一体ずつなら問題ない。まとめて来ると厄介です」
リアが来た。
「索敵で数と位置を把握できます。問題はありません」
「新しい装備の実戦テストにもなります」
「合理的な依頼です」
アーヴィンさんが一言。
「行くぞ」
「皆さん異論がなければ受けます」
コリンが頷いた。
「問題ありません」
受付で依頼を受けた。
街の北の森へ向かった。
一時間ほどの道だった。
歩きながら、段取りを確認した。
「リアさんが索敵で全体の位置を把握します。数と方向を俺に伝えてください」
「わかりました」
「アーヴィンさんが先行して一体ずつ分断します。群れをまとめて相手にしない」
「わかった」
「マユミさんは分断した個体を仕留めます。速さで片付ける」
「任せろ」
「コリンさんは後方で結界を維持。負傷者が出たらすぐ対応してください」
「わかりました」
「俺は全体の状況を見ながら指示を出します。何かあればすぐ声をかけてください」
全員が頷いた。
段取りは組んだ。
あとは現場だ。
森に入った。
リアが索敵を展開した。
「……反応、十四。北東に九体、北に五体。二群に分かれています」
「二群ですか」
「距離は三十メートルほど。今は動いていません」
「わかりました。北東の九体を先に片付けます。北の五体はリアさんが監視してください。動いたら教えてください」
「問題はありません」
北東へ向かった。
アーヴィンさんが先に動いた。
《無響の戦装》を着た背中が、森の中に溶けた。
音がなかった。
気配がなかった。
全員が少し息を飲んだ。
「……見えなくなった」
コリンが小声で言った。
「気配も消えています。今日は特に効いていますね」
羅針盤が反応した。
アーヴィンさんの位置はわかった。
外套の効果だった。
情報の精度が上がっていた。
「アーヴィンさんは北東に進んでいます。マユミさん、右から回り込んでください」
「わかった」
マユミが動いた。
《疾風の軽鎧》の動きは、明らかに速かった。
足音が少なかった。
身のこなしが軽かった。
以前とは違った。
最初の一体。
アーヴィンさんが接近した。
音がなかった。
グレイウルフが気づいたときには、もう遅かった。
一体目、沈んだ。
群れが反応した。
「動きました。二体、こちらに向かっています」
「マユミさん、二体引き受けてください」
「もう見えてる」
マユミが走った。
速かった。
一体目。
短剣が閃いた。
二体目。
体を低くして、潜り込んだ。
仕留めた。
早かった。
「……速い」
コリンが小声で言った。
「装備の効果ですね」
「全然違います」
俺も同じことを思っていた。
アーヴィンさんが群れの中に入っていた。
一体、また一体。
音がなかった。
群れが混乱していた。
何かに仲間が倒されているのに、どこにいるかわからない。
ウルフが吠えた。
でも、方向がバラバラだった。
「三体、南に逃げようとしています」
「アーヴィンさんに伝えます」
俺は声を出した。
「アーヴィンさん、南に三体」
返事はなかった。
でも、動きが変わった。
南へ向かう三体の前に、気配が現れた。
一瞬だった。
三体が止まった。
その隙にマユミが入った。
終わった。
「北の五体、動き始めました。こちらに向かっています」
リアの声だった。
「リアさん、一体抑えてください。残りはアーヴィンさんとマユミさんで」
「了解です」
リアが詠唱した。
速かった。
《術式制御衣》の効果だった。
いつもより一テンポ早かった。
風の魔法が走った。
一体が地面に縫い付けられた。
「抑えました。いつでもどうぞ」
「マユミさん」
「見えてる」
走った。
仕留めた。
残りの四体にアーヴィンさんが入った。
静かだった。
速かった。
終わった。
十四体、全滅。
全員、無傷だった。
コリンが全員を確認した。
「怪我はありませんか」
「ありません」
「俺も」
「問題はありません」
アーヴィンさんが戻ってきた。
静かに立った。
コリンが確認した。
「アーヴィンさん、怪我は」
「ない」
「よかったです」
全員が揃った。
森の中が静かだった。
マユミが息を吐いた。
「速かった」
「そうですね」
「自分でびっくりした。体が勝手に動いた」
「装備が合っているということです」
「なんか、怖いくらい軽い」
「慣れれば武器になります」
マユミが短剣を見た。
「そうだな」
リアが言った。
「詠唱が、一段階早くなりました」
「気づきましたか」
「はっきりと。魔力の乱れがありませんでした。今まで微妙に揺れていた部分が消えました」
「索敵との切り替えも速かったです」
「……そうですか」
リアが少し顔を逸らした。
青の色が揺れた。
コリンが言った。
「結界が、ずっと安定していました。今まで長時間維持すると揺れることがありましたが、今日は一度もありませんでした」
「ヒコさんへの情報の流れも安定していましたか」
「はっきりと伝わっていました」
「そうですね。いつもより精度が高かったです」
全員の装備が、機能していた。
段取り通りだった。
いや、段取り以上だった。
アーヴィンさんが俺の横に来た。
少し、小声で言った。
「外套、効いているか」
「はい。羅針盤の精度が上がりました。今日はアーヴィンさんの位置も把握できていました」
少し間があった。
「そうか」
「《無響の戦装》も、よく機能していました。群れが混乱していました」
「ああ」
アーヴィンさんが少し前を向いた。
「……動きやすかった」
珍しい言葉だった。
アーヴィンさんが自分から装備の感想を言うのは、初めてだった。
俺は頷いた。
「よかったです」
それだけだった。
青白い色が、今日は少し落ち着いていた。
戦闘中は、ぼやけが薄かった。
集中しているときは、内側の重さが引いていく。
そういうことかもしれない。
ギルドに戻った。
依頼を完了報告した。
「十四体、駆除しました。全員無傷です」
受付が少し驚いた顔をした。
「十四体、パーティー全員無傷ですか」
「はい」
「Cランクのパーティでも、これだけの数は苦戦することが多いですが」
「段取りを組みました」
受付が報酬を出した。
銀貨十二枚だった。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
全員に報酬を分けた。
一人あたり銀貨二枚と銅貨四十枚。
ギルドを出た。
マユミが伸びをした。
「気持ちよかったな」
「そうですね」
「なんか、全部噛み合った感じがした」
「五人の動きが揃っていました」
「装備のおかげか」
「装備と、積み上げてきたものと、両方です」
マユミが少し考えた。
「そうか」
コリンが言った。
「次は、もっと難しい依頼も受けられそうですね」
「そうですね。少しずつ上げていきます」
「急がなくていいんですか」
「急ぎません。でも、止まりません」
コリンが笑った。
「ヒコさんらしいです」
リアが空を見た。
「次の実戦が楽しみです」
また言った。
今度は自分で気づいていた。
でも、顔を逸らさなかった。
「……楽しみと言って、何か問題がありますか」
「ありません」
「では、問題はありません」
マユミが笑った。
「リア、成長したな」
「何がですか」
「なんでもない」
全員で、宿へ向かった。
新しい装備での初陣は、終わった。
段取りは、合っていた。
次の段取りを、もう組み始めていた。
第六十八話「新しい装備と、初めての実戦」 了




