第六十七話「三日後と、できあがったもの」
三日後。
午前の早い時間に工房へ向かった。
五人で路地を入った。
扉を叩いた。
すぐに開いた。
「来たか。入れ」
中に入った。
炉の熱さはいつもと同じだった。
でも、奥の棚が違った。
五つの防具が、並んでいた。
全員が黙った。
ガデルが言った。
「試着しろ。文句は後で聞く」
マユミが最初に動いた。
《疾風の軽鎧》を手に取った。
軽かった。
見た目より、ずっと軽かった。
「軽い」
「当たり前だ。お前の動きに合わせて削った」
「削ったのか」
「無駄な部分を全部落とした。可動域を殺さない範囲で最低限の防御を残した」
マユミが着た。
動いた。
腕を回した。
腰を回した。
素振りをした。
「動きやすい」
「そうだろ」
「今までと全然違う」
「今までのが重すぎたんだ。お前の動き方には合っていなかった」
マユミが少し考えた。
「なんでわかった」
「三日前に見た。腕と腰の回転が速い。あれを殺したら意味がない」
マユミが黙った。
少し間があった。
「……ありがとう」
「礼はいい。次」
アーヴィンさんが《無響の戦装》を手に取った。
黒かった。
光を吸うような色だった。
着た。
全員が、少し息を飲んだ。
アーヴィンさんの存在感が、薄れた。
消えたわけではない。
そこにいる。
でも、目が滑る。
ガデルが言った。
「音を吸う加工を施した。動くたびに音が出る部分を全部潰した」
「動いてみます」
アーヴィンさんが歩いた。
音がなかった。
完全に、なかった。
「……いい」
「剣と合わせると、さらに効果が上がるはずだ」
アーヴィンさんが少し止まった。
「なぜわかる」
「あの剣は、沈黙を纏っている。防具と共鳴する」
ガデルが静かに言った。
「職人の勘だ。深くは聞くな」
アーヴィンさんが頷いた。
「聞かない」
「次」
リアが《術式制御衣》を手に取った。
薄かった。
でも、手に取ると重みがあった。
布の中に、何かが織り込まれていた。
「魔導布ですか」
「ああ。魔力の流れを整える繊維を織り込んである。詠唱中に魔力が乱れにくくなる」
リアが着た。
少し目を閉じた。
魔力を流しているのがわかった。
色が、澄んだ青から少し明るくなった。
「……精度が上がります」
「わかるか」
「はっきりと。魔力の通りが違います」
「索敵と攻撃、両方使うと言っていたな。どちらにも対応できるように調整した」
「合理的な設計です」
ガデルが少し苦笑した。
「褒め方が変わっているな」
「事実を言っています」
「そうか。次」
コリンが《守護の聖装》を手に取った。
中装だった。
見た目はしっかりしていた。
でも、持ち上げると思ったより軽かった。
「軽いですね」
「防御と機動のバランスを取った。重すぎると仲間の位置に合わせて動けなくなる」
「そうです。結界を維持しながら動く必要があります」
「魔力の通りをよくする素材を内側に混ぜた。結界の持続時間が少し伸びるはずだ」
コリンが着た。
少し魔力を流した。
目が少し大きくなった。
「結界が、安定します」
「そうか」
「今まで、途中で揺れることがありました。これなら維持しやすいです」
「それが狙いだ」
コリンが頷いた。
「ありがとうございます」
「礼はいい。最後」
俺が《測界の外套》を手に取った。
軽かった。
ローブの形だった。
肩と胸に、薄い金属の板が縫い込まれていた。
「部分的に硬化させた。急所だけ守る」
「急所だけ、ですか」
「お前は動き回る前衛じゃない。でも、全く守らないのは危険だ。判断を早めるために、余計な重さを削った」
着た。
軽かった。
動きやすかった。
羅針盤を取り出した。
反応が、いつもより明確だった。
「……精度が上がりました」
「外套の素材に、認識補助の加工を施した。情報処理に向く素材がある」
「知りませんでした」
「職人の領域だ」
ガデルが俺を見た。
「使えるか」
「十分です。ありがとうございます」
「礼はいい」
全員が試着を終えた。
ガデルが全員を見た。
「文句はあるか」
誰も何も言わなかった。
マユミが言った。
「ない」
「そうか」
「最高だ」
ガデルが少し目を細めた。
「それでいい」
加工費を確認した。
五人分で、銀貨四十二枚だった。
一人あたり、銀貨八枚と銅貨四十枚。
「素材が良かった分、加工に手間がかかった。それでも安くした」
「ありがとうございます」
「セリウスの紹介だからな。手は抜かない」
全員が支払った。
俺は少し考えた。
「一つだけ聞いてもいいですか」
「なんだ」
「武器の相談も、できますか。今すぐではないですが、いずれ」
ガデルが俺を見た。
「素材次第だ。何か持ってくるものがあるなら話を聞く」
「いい素材が手に入ったら来ます」
「来い」
ガデルが工房に戻りかけた。
少し止まった。
「一つ言っておく」
振り返った。
「お前たちのパーティは、役割がはっきりしている。珍しいな」
「そうですか」
「冒険者は大抵、強い装備を欲しがる。役割で分けてくれと言ったのは初めてだ」
「役割が違えば必要なものが違います」
「そうだ」
ガデルが頷いた。
「だから腕を振るいがいがあった」
それだけ言って、中に戻った。
扉が閉まった。
外に出た。
五人で路地に立った。
マユミが自分の腕を見た。
「なんか、実感がわかないな」
「どういう意味ですか」
「こんなにいい装備を持つことになるとは思っていなかった」
「Cランクになった証でもあります」
「そうか」
マユミが腕を動かした。
「軽い。本当に軽い」
「動きが変わりますよ」
「楽しみだ」
コリンが自分の装備を見た。
「結界が安定すると、できることが増えます」
「そうですね」
「ヒコさんのスキルとの連動も、もっとうまくなるかもしれません」
「期待しています」
リアが空を見た。
「実戦で確かめる必要があります」
「そうですね。次の依頼で試しましょう」
「早い方が合理的です」
アーヴィンさんが歩き始めた。
「戻るぞ」
「そうしましょう」
五人で歩いた。
装備が変わった。
次の段階に、進んだ。
段取りは、合っていた。
第六十七話「三日後と、できあがったもの」 了




