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第六十六話「鍛冶屋と、役割の話」

 数日後。


 ギルドでセリウスさんに呼ばれた。


「少し時間がありますか」


「あります」


 執務室に入った。


 セリウスさんが一枚の紙を机に置いた。


「街に一人、腕のいい鍛冶屋がいます。魔物素材等を扱える数少ない職人です」


「紹介状ですか」


「そのようなものです。全員Cランクになりましたし、そろそろ装備を見直す時期かと思いまして」


 俺は紙を受け取った。


 名前が書いてあった。


 ガデル。


「どんな人物ですか」


「口は悪いですが、腕は本物です。素材を持ち込めば、話を聞いてくれます」


「素材はストーンコロッサスのものがあります」


「ちょうどいいと思います」


 セリウスさんが少し微笑んだ。


「段取りが合いましたね」


「組んであったので」


「いつから考えていましたか」


「ダンジョンを制覇したときから、素材は取っておきました。使い道があると思っていました」


 セリウスさんが少し目を細めた。


「準備のいい人ですね」


「現場仕込みなので」


 紙を受け取って、執務室を出た。



 全員を集めた。


 ギルドの端の席だった。


「装備を見直したいと思います」


 全員が俺を見た。


「全員Cランクになりました。今後、受ける依頼の難易度が上がります。今の装備では限界が出てくる可能性があります」


「具体的には」


 リアが聞いた。


「魔物素材等を扱える鍛冶屋を紹介してもらいました。ストーンコロッサスの素材を持ち込んで、役割に特化した防具を作ってもらう予定です」


「役割特化、とは」


「全員同じ装備は作りません。前衛は動きやすさ、後衛は魔法の制御、回復は耐久。それぞれに合ったものを」


 マユミが少し考えた。


「俺は軽い方がいいな」


「そのつもりです」


「武器は」


「今回は防具だけです。武器は別の機会に」


 マユミが頷いた。


「わかった」


 コリンが手を上げた。


「費用はどうしますか」


「素材はパーティの共有資産です。加工費は一人ずつ負担してもらいます。鍛冶屋と交渉してから金額を確認します」


「わかりました」


 アーヴィンさんが一言。


「いつ行く」


「明日の午前はどうですか。依頼の予定がなければ」


「問題ない」


 全員が頷いた。


 段取りが決まった。



 翌朝。


 素材を持ってギルドを出た。


 ストーンコロッサスの核の欠片と、外装の石片。

 重かった。

 アーヴィンさんが黙って持った。


 紹介状に書いてあった場所へ向かった。


 街の南側だった。

 路地を入ったところに、小さな建物があった。


 看板が出ていた。

 文字が読めた。


「ガデル鍛冶工房」


 扉を叩いた。


 しばらくして、開いた。


 出てきたのは、六十代の男だった。

 背が低かった。

 肩幅が広かった。

 腕が太かった。

 眉が太く、目が鋭かった。


「なんだ」


「セリウスさんから紹介状をもらいました。装備の相談をしたいと思っています」


 ガデルが紹介状を受け取った。


 一読した。


「セリウスの紹介か」


「はい」


「入れ」


 中に入った。



 工房の中は広かった。


 炉が奥にあった。

 熱かった。

 工具が並んでいた。

 整理されていた。


 現場だ、と思った。


 道具の置き方に、仕事の仕方が出る。


 信頼できる職人だった。


 ガデルが全員を見回した。


「五人か。全員のか」


「はい」


「素材は」


「持ってきました」


 アーヴィンさんが石を置いた。


 ガデルが屈んで確認した。


 少し間があった。


「ストーンコロッサスか」


「五層のボスです」


「ダンジョンボスを倒したのか」


「全員で倒しました」


 ガデルが全員をもう一度見た。


 今度は、さっきより真剣な目だった。


「何が欲しい」


「役割に特化した防具を五人分お願いしたいです」


「役割特化」


「前衛、後衛、回復。それぞれに合ったものを」


 ガデルが腕を組んだ。


「全員同じじゃないのか」


「意味がないので」


 ガデルが少し目を細めた。


「面白いことを言う冒険者だな」


「現場では、役割が違えば必要なものが違います」


「現場、ね」


 ガデルが俺を見た。


「冒険者らしくない言い方だな」


「以前、別の仕事をしていました」


「なんの仕事だ」


「管理の仕事です。段取りを組んで、人を動かす」


 ガデルが少し笑った。


「だから防具の発注の仕方が商人みたいなんだ」


「そう言われます」


「嫌いじゃない」


 ガデルが立ち上がった。


「一人ずつ話を聞く。まず前衛から来い」



 マユミが前に出た。


「どう動く」


「速く動く。当たらないことが前提だ」


「武器は」


「短剣だ」


「間合いは近いな。被弾リスクが高い」


「だから当たらない動きをする」


 ガデルがマユミを見た。


 全身を見た。


「腕の振り方、見せろ」


 マユミが短剣を抜いた。


 数回、素振りをした。


 ガデルが頷いた。


「肩と腰の回転が速い。可動域が広い方がいいな」


「ああ」


「わかった。軽量化と可動域優先で作る」


「頼む」


 マユミが下がった。



 アーヴィンさんが前に出た。


 ガデルがアーヴィンさんの剣を見た。


 少し目が止まった。


「その剣」


「なんだ」


「古いな。見たことのない文字が入っている」


「ああ」


「どこで手に入れた」


「ダンジョンだ」


 ガデルが少し考えた。


「防具の話だ。続けよう」


「頼む」


「どう動く」


「接近して、一撃で仕留める」


「気配を消すのか」


 アーヴィンさんが少し止まった。


「なぜわかる」


「動き方でわかる。音を立てない歩き方をしている」


 ガデルが静かに言った。


「気配遮断と接近戦を前提にするなら、音を吸収する素材が合う。黒鉄に特殊な加工を施す」


「頼む」


 アーヴィンさんが下がった。


 ガデルがアーヴィンさんの背中を少し見ていた。


 何かを感じた顔だった。


 俺も、何かを感じた。


 ガデルは職人だった。

 素材を見る目と同じように、人を見る目があった。



 リアが前に出た。


「後衛か」


「索敵と攻撃魔法です」


「詠唱はあるか」


「短縮できますが、精度が下がります。制御が課題です」


「魔力の流れを安定させるものが要るな」


「そうです」


「魔導布を使う。高いが、制御精度が上がる」


「費用は自分で出します」


「そうか」


 ガデルがリアを見た。


「索敵もやるなら、軽さも要るな」


「動き回ることは少ないです。ただ、重いと集中が分散します」


「軽量の魔導ローブにする。動きやすさより精度優先だ」


「合理的です」


 ガデルが少し苦笑した。


「変わった後衛だな」


「普通かどうかは気にしていません」


「そうか。嫌いじゃない」


 リアが下がった。



 コリンが前に出た。


「回復か」


「回復と補助結界です」


「前に出るか」


「出ません。でも、結界を維持するために集中が要ります。被弾すると集中が切れます」


「防御優先だな」


「はい。あと、動きやすさも必要です。仲間の位置に合わせて動きます」


 ガデルがコリンを見た。


「細いな」


「そうですね」


「中装にするか。防御と機動のバランスを取る」


「お願いします」


「結界を張るなら、魔力の通りをよくする素材を混ぜる。少し加工費が上がる」


「構いません」


「わかった」


 コリンが下がった。



 最後に俺が前に出た。


「お前はどう動く」


「指示を出します。状況を把握して、全員に情報を伝えます」


「戦わないのか」


「戦います。ただ、前に出ることより、全員が動ける状態を保つことを優先します」


「指揮官か」


「そのようなものです」


 ガデルが俺を見た。


「生き残ることが最優先だな」


「そうです。倒れたら指示が出せなくなります」


「なら、軽さと視界の広さを確保する。重い装備は要らない」


「情報を処理することが多いので、頭が重くなるものは避けたいです」


「兜はなしか」


「フードで構いません」


「わかった」


 ガデルが全員を見た。


「全員分、わかった」


「いくらになりますか」


「素材次第だが、ストーンコロッサスのものがあれば質が上がる。加工費は後で出す。三日後に来い」


「わかりました」


「一つだけ言っておく」


 ガデルが全員を見た。


「いいか。防具は死なないためのもんだ」


 全員が静かに聞いた。


「強くなるためじゃない。死なないためだ。そこを間違えるな」


「わかりました」


「それだけだ。三日後に来い」


 工房を出た。



 外に出た。


 五人で並んだ。


 マユミが言った。


「いい職人だな」


「そうですね」


「なんか、怖かったけど」


「怖い人は腕がいいことが多いです」


「なんでだ」


「妥協しない人間は、人にも厳しいので」


 コリンが頷いた。


「師匠も怖かったです。でも、教えることは全部教えてくれました」


「同じですね」


 リアが少し考えた。


「三日後が楽しみです」


「珍しいですね、リアさんが楽しみと言うのは」


「……言いましたか」


「言いました」


 リアが少し顔を逸らした。


 青の色が揺れた。


 アーヴィンさんが歩き始めた。


「戻るぞ」


「そうしましょう」


 五人で、街を歩いた。


 三日後が、少し楽しみだった。


 俺にしては、珍しいことだった。



第六十六話「鍛冶屋と、役割の話」 了

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