第五十六話「帰還と、素材の売却」
翌日。
素材をまとめてギルドに持っていった。
五日分だった。
袋が重かった。
五人で手分けして運んだ。
カウンターに並べた。
受付が確認し始めた。
ダークハウンドの爪。
グレイウルフの牙。
ミストシェイドの霧結晶。
ミストゴーレムの魔石核。
受付の手が止まった。
「……これは」
「ストーンコロッサスの核石です」
「五層まで行ったんですか」
「はい」
受付が俺たちを見た。
五人を、順番に見た。
「Dランクのパーティが、ですか」
俺は少し考えた。
「現場仕込みなので」
受付が少し間を置いた。
「……少し待ってください」
奥に行った。
マユミが俺の耳元で言った。
「呼びに行ったな」
「そうかもしれません」
「誰を呼ぶんだ」
「セリウスさんかもしれません」
マユミが少し背筋を伸ばした。
リアが腕を組んだ。
「想定内です」
「そうですね」
コリンが少し周りを見た。
他の冒険者が、こちらを見ていた。
「目立っていますね」
「仕方ないです」
アーヴィンさんが黙って立っていた。
しばらくして、セリウスさんが出てきた。
受付の奥から、静かに歩いてきた。
俺たちを見た。
「来てくれましたね」
「素材の売却に来ました」
「そうですね」
セリウスさんが素材を見た。
一つずつ、確認した。
「五層まで行きましたか」
「はい」
「ストーンコロッサスを」
「倒しました」
セリウスさんが少し間を置いた。
「怪我は」
「全員、問題ありません」
「そうですか」
セリウスさんが俺を見た。
「少し、話せますか」
「はい」
「素材の査定を進めておきます。その間に」
「わかりました」
応接室に通してもらった。
セリウスさんが向かいに座った。
「まず、報告をありがとうございます」
「ダンジョンの状況ですが」
「はい。聞かせてください」
話した。
一層から五層まで、順番に。
各層の魔物。
霧の範囲が広がっていたこと。
コリンの補助結界とスキルが連動したこと。
五層のストーンコロッサス。
セリウスさんは黙って聞いた。
「色の変化は、ダンジョン内でも機能しましたか」
「はい。むしろ、ダンジョン内の方が役に立ちました」
「どのように」
「パーティの状態を色で読めました。消耗が近いとき、声をかけるより先にわかりました」
セリウスさんが少し目を細めた。
「羅針盤が機能しています」
「段階的に精度が上がっている感覚があります」
「そうですね。入手から日が経つにつれて、馴染んでいくはずです」
俺は少し間を置いた。
「それから、もう一つ」
「なんですか」
「五層の奥で、剣を発見しました。アーヴィンさんが持っています」
セリウスさんが少し前に出た。
「どんな剣ですか」
「触れた瞬間、音が消えました。俺のスキルでアーヴィンさんの色がぼやけました」
「……そうですか」
セリウスさんが少し間を置いた。
何か知っている顔だった。
「セリウスさん、その剣を知っていますか」
「話に聞いたことがあります」
「どんな話ですか」
セリウスさんが少し考えた。
「意思を持つ剣だと。持ち主を選ぶ、と」
「アーヴィンさんを選んだということですか」
「おそらく」
少し間があった。
「アーヴィンさんに、五年前のことを聞いたことはありますか」
「以前(第四十話で)、話してくれました」
「そうですか」
セリウスさんが静かに言った。
「その剣と、レインの件は、繋がっているかもしれません」
「繋がっている、というのは」
「今はまだ、俺にも全部はわかりません」
セリウスさんが俺を見た。
「でも、アーヴィンさんが持つべき剣だと思います」
「わかりました」
俺は立ち上がりかけた。
「もう一つだけ」
セリウスさんが言った。
「Cランクへの昇格を、検討してください」
俺は少し間を置いた。
「今の実力で、ということですか」
「今の実力で、十分です。五層制覇がその証明です」
「パーティ全員ですか」
「あなたとアーヴィンさん、マユミさんは今すぐ申請できます。リアさんとコリンさんはもう少し実績を積んでから」
「わかりました。考えます」
「急ぎません。でも、ランクが上がると動ける範囲が広がります」
セリウスさんが少し笑った。
「あなたたちには、広い範囲で動いてほしい」
応接室を出た。
カウンターに戻った。
素材の査定が終わっていた。
受付が紙を出した。
「合計、銀貨二十三枚です」
俺は少し間を置いた。
「二十三枚」
「はい。ストーンコロッサスの核石が高値です。単体で銀貨八枚になります」
マユミが少し目を丸くした。
「八枚」
「Cランク以上の魔物素材ですので」
俺は受け取った。
銀貨二十三枚。
五人で割ると、四枚と少し。
ダンジョン五日分の成果だった。
「ありがとうございます」
「また来てください。できれば、Cランクになってから」
受付が少し笑った。
「それは、どういう意味ですか」
「Cランクの依頼票が、今週新しく来ています。あなたたちに向いていそうなものが」
「そうですか」
「検討してみてください」
俺はその依頼票を見た。
後でいい、と思った。
今日は帰る。
ギルドを出た。
五人で並んだ。
マユミが銀貨を手に持った。
「四枚か」
「そうです」
「悪くないな」
「五日分ですよ」
「それでも悪くない」
コリンが少し考えた。
「一日あたりにすると、一人銅貨八十枚ほどですね」
「そうですね」
「通常の依頼と比べると」
「少し高いです。でも、リスクも高かった」
「なるほど」
リアが前を向いたまま言った。
「効率は悪くありません」
「そうですね」
「次はもっと深いダンジョンに行けば、効率が上がります」
「少し休んでから考えます」
「効率が悪い」
「体が資本です」
リアが少し間を置いた。
「……マルティナさんみたいなことを言いますね」
「そうですか」
「はい。少し、似ています」
マユミが笑った。
アーヴィンさんが布で包んだ剣を持っていた。
俺はアーヴィンさんの色を見た。
ぼやけていたが、昨日より少し、はっきりしていた。
剣に馴染んでいるのか。
それとも、何かが落ち着いてきたのか。
まだわからなかった。
でも、悪い変化じゃなかった。
宿に戻った。
マルティナさんが俺たちを見た。
「終わったか」
「終わりました」
「怪我は」
「全員、なしです」
「そうか」
マルティナさんが厨房に戻った。
「飯にする」
それだけだった。
でも、いつもより少し、品数が多かった。
マルティナさんなりの、出迎えだった。
五人で食べた。
話が弾んだ。
コリンがマルティナさんの料理を褒めた。
マルティナさんが「当然だ」と言った。
マユミが笑った。
リアが栄養の話を始めた。
アーヴィンさんが黙って食べていた。
いつものテーブルだった。
でも、五日分の重さがあった。
それが、いい重さだった。
第五十六話「帰還と、素材の売却」 了




