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 第6話 剣を、置く

 恐怖は。


 弱さの、証ではない。


 それを、知っている、人は。


 少ない。


 だから。


 恐怖を、覚えた、者の、多くは。


 自分を、責めることから。


 逃れられない。


 ――マユミも。


 その、一人だった。

 集落へと、戻った、二人は。


 鍛冶王には、まだ。


 何も、報告していなかった。


──────────────────────────────────────


 宿の、一室。


 マユミは、窓際に、座り。


 腰の、《緋閃の双刃》を。


 じっと、見つめていた。


──────────────────────────────────────


 その、手は。


 まだ、僅かに、震えている。


──────────────────────────────────────


「マユミさん」


 ヒコが、静かに、声を、掛ける。


「調子は」


「どうですか」


──────────────────────────────────────


 マユミは、すぐには、答えなかった。


 しばらくの、沈黙の、後。


 ようやく、口を、開く。


──────────────────────────────────────


「ヒコ」


「私」


「決めた」


──────────────────────────────────────


「明日から」


「戦闘には」


「出ない」


──────────────────────────────────────


 その、言葉に。


 ヒコは、静かに、マユミを、見つめた。


「理由を」


「聞いても」


「良いですか」


──────────────────────────────────────


「あなたを」


「傷つけるくらいなら」


 マユミの、声が。


 小さく、震える。


「この、剣を」


「置いた方が」


「良いのかも」


「しれない」


──────────────────────────────────────


「今日」


「本当に」


「あと少しで」


「あなたを」


「殺すところ」


「だった」


──────────────────────────────────────


「もし」


「次」


「同じことが」


「起きたら」


「今度こそ」


「あなたに」


「当たる、かも」


「しれない」


──────────────────────────────────────


 マユミは。


 自分の、手を、見つめた。


 この、手が。


 何を、してしまうのか。


 もう。


 自分でも、分からない。


 その、不安が。


 彼女を、蝕んでいた。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく。


 何も、言わなかった。


 頭ごなしに、否定するのは。


 簡単だった。


 だが。


 それでは。


 マユミが、抱えている、恐怖に。


 蓋を、するだけだと。


 ヒコには、分かっていた。


──────────────────────────────────────


「怖いなら」


 ヒコは、静かに、言った。


「怖いままで」


「いいです」


──────────────────────────────────────


 その、言葉に。


 マユミが、はっと、顔を、上げる。


「……え?」


──────────────────────────────────────


「無理に」


「怖くない、ふりを」


「する、必要は」


「ありません」


 ヒコは、続けた。


「怖いと、感じるのは」


「おかしいことでは」


「ありません」


「むしろ」


「今日の、ことを」


「考えれば」


「当然だと」


「思います」


──────────────────────────────────────


 マユミは、その、言葉の、意味を。


 掴みかねるように。


 ヒコを、見つめ続けた。


──────────────────────────────────────


「実は」


 ヒコが、静かに、続けた。


「私にも」


「似たような、経験が」


「あります」


──────────────────────────────────────


「え……?」


──────────────────────────────────────


「《可視化》を」


 ヒコは、自分の、目を。


 指差した。


「私は」


「これを」


「最初から」


「完全に」


「制御できて」


「いたわけでは」


「ありません」


──────────────────────────────────────


「見えすぎて」


「動けなく」


「なったことも」


「あります」


「見えているのに」


「判断が」


「追いつかず」


「人を」


「危険に」


「晒しかけた」


「ことも」


「ありました」


──────────────────────────────────────


 マユミは。


 初めて、聞く、その、話に。


 目を、見開いた。


「ヒコにも」


「そんな」


「ことが……」


──────────────────────────────────────


「はい」


 ヒコは、静かに、頷いた。


「力は」


「持った、瞬間から」


「完璧に」


「使えるわけでは」


「ありません」


「それは」


「私の」


「《可視化》も」


「マユミさんの」


「力も」


「同じです」


──────────────────────────────────────


 マユミは。


 少しの間、黙っていた。


 やがて。


 小さな、声で、言った。


──────────────────────────────────────


「でも」


「ヒコの」


「《可視化》は」


「誰かを」


「傷つける」


「力じゃ」


「ない」


──────────────────────────────────────


「私の」


「力は」


「違う」


「あれは」


「本気で」


「あなたを」


「殺しかねなかった」


──────────────────────────────────────


 その、言葉には。


 深い、恐怖が。


 滲んでいた。


──────────────────────────────────────


 ヒコは。


 静かに、マユミの、目を、見た。


「マユミさん」


「一つ」


「聞かせて」


「ください」


──────────────────────────────────────


「あの、時」


「力が」


「暴走した、理由は」


「何だと」


「思いますか」


──────────────────────────────────────


 マユミは。


 答えに、詰まった。


「……分からない」


「急に」


「声が」


「聞こえて」


「気づいたら」


「止まらなく」


「なってた」


──────────────────────────────────────


「そうです」


 ヒコは、頷いた。


「マユミさんは」


「まだ」


「その、力の」


「扱い方を」


「知らなかった」


「それだけです」


──────────────────────────────────────


「力を」


「持つことと」


「力を」


「使うことは」


「別、なんです」


──────────────────────────────────────


 マユミは、その、言葉を。


 繰り返すように。


 口の、中で、呟いた。


「持つことと……」


「使うこと……」


──────────────────────────────────────


「はい」


 ヒコは、静かに、続けた。


「今の、マユミさんは」


「力を」


「持って」


「しまった」


「だけの」


「状態です」


「それを」


「どう」


「使うかは」


「まだ」


「これから」


「学べば」


「良いことです」


──────────────────────────────────────


 だが。


 マユミの、表情は。


 まだ、晴れなかった。


──────────────────────────────────────


「学ぶって」


「言っても」


「また」


「同じことが」


「起きたら……」


──────────────────────────────────────


「その、時は」


 ヒコは、静かに、言った。


「私が」


「何度でも」


「かわします」


「今日、みたいに」


──────────────────────────────────────


「今日は」


「間に合った」


「次も」


「間に合わせます」


──────────────────────────────────────


 その、言葉に。


 マユミの、目に。


 涙が、滲んだ。


──────────────────────────────────────


「なんで」


「そんなに」


「簡単に」


「言えるの」


「怖くないの……?」


──────────────────────────────────────


 ヒコは。


 少しの間、考えるように。


 沈黙した。


──────────────────────────────────────


「怖くない、わけでは」


「ありません」


「でも」


「マユミさんが」


「今」


「一人きりで」


「その、恐怖と」


「向き合っている」


「ことの方が」


「私には」


「もっと」


「怖いです」


──────────────────────────────────────


 その、言葉に。


 マユミは。


 しばらく、何も、言えなかった。


──────────────────────────────────────


「今夜は」


 ヒコは、静かに、言った。


「もう」


「休みましょう」


「明日、以降のことは」


「また」


「考えれば」


「良いです」


──────────────────────────────────────


「剣を」


「置くか」


「置かないか」


「それも」


「マユミさんが」


「決めることです」


「私は」


「無理に」


「決めさせません」


──────────────────────────────────────


 マユミは。


 小さく、頷いた。


 だが。


 その、手は。


 まだ。


 《緋閃の双刃》の、柄に。


 置かれたまま。


 動こうと、しなかった。


──────────────────────────────────────


 恐怖は。


 弱さの、証ではない。


 だが。


 その、恐怖と。


 どう、向き合うかは。


 誰かに、教えられて。


 分かるものでは、ない。


 自分自身で。


 見つけていくしか、ない。


 マユミの、その、道のりは。


 まだ。


 始まった、ばかりだった。



  第6話 剣を、置く 了

【次回予告】炎を、飼う。


 マユミの、葛藤を、見かねた、鍛冶王が。


 二人を、呼び出す。


──────────────────────────────────────


【路銀・第3章 第6話時点】


・所持金:金貨43枚・銀貨6枚

 (-銀貨1枚:宿泊費等(二人分))

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