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 第12話 黄金の、道

 道とは。


 最初から、あるものではない。


 誰かが、歩き。


 誰かが、運び。


 その、往来が、積み重なって。


 初めて。


 ――道に、なる。

 帰路につく、前日。


 ヒコは、市場の、香辛料区画へと、足を、運んでいた。


──────────────────────────────────────


「兄さん」


「また、来たのか」


 店主が、笑顔で、迎える。


「今日は」


「まとめ買いを」


「したいのですが」


 ヒコが、静かに、言った。


──────────────────────────────────────


 店主の、目が、丸くなる。


「まとめ、って」


「どれ、くらいだ」


「あるだけ」


 ヒコは、簡潔に、答えた。


「全部」


「いただけますか」


──────────────────────────────────────


 店主は、しばらく、絶句していた。


 だが。


 やがて、商人の、顔つきに、戻る。


 そろばんを、弾き始めた。


「太っ腹だな」


「兄さん」


「相場、通りで」


「構わないなら」


「これで」


「どうだ」


──────────────────────────────────────


 提示された、金額は。


 金貨、三十枚。


 決して。


 小さくは、ない。


──────────────────────────────────────


 だが。


 ヒコは、迷わなかった。


──────────────────────────────────────


「お願いします」


──────────────────────────────────────


 それだけでは、なかった。


 ヒコは、近隣の、露店にも、足を、運ぶ。


 同じように。


 香辛料を、買い集めていく。


 種類は、様々。


 量は。


 これまでの、比では、なかった。


──────────────────────────────────────


「こんなに」


「持って」


「帰れるの?」


 マユミが、山のように、積まれた、麻袋を、見て。


 目を、丸くする。


──────────────────────────────────────


「問題ありません」


 ヒコは、腰の、《現場管理袋》を、軽く、叩いた。


──────────────────────────────────────


 次々と。


 麻袋が、袋の、中へと、収まっていく。


 容量は、大きい。


 そして。


 必要な、時には。


 即座に、取り出すことが、できる。


 B級冒険者時代に。


 ヒコが、購入した、愛用品だった。


 以来。


 長い、付き合いに、なる。


──────────────────────────────────────


 見る間に。


 山のような、香辛料が。


 袋の、中へと、消えていく。


──────────────────────────────────────


「便利……」


 ルナが、感心したように、呟いた。


──────────────────────────────────────


 ラシュカールでの、相場は。


 銀貨、一枚。


 だが。


 南方大陸の、玄関口。


 ヴェルグラードでは。


 金貨、三枚。


──────────────────────────────────────


 実に。


 三十倍の、価格差。


──────────────────────────────────────


 その、隔たりこそ。


 ヴェルグラードで、買った、香辛料。


 あの、日。


 ヒコが、隊商の、商人の、話を、聞きながら。


 感じていた、商機。


 その、正体だった。


──────────────────────────────────────


「これだけ、あれば」


 ヒコは、静かに、呟いた。


「星の食堂にも」


「拠点の」


「運営にも」


「十分な」


「元手に」


「なります」


──────────────────────────────────────


 数日後。


 隊列は、無事に、黄金砂漠を、再び、越え。


 ヴェルグラードへと、帰還した。


──────────────────────────────────────


 拠点の、扉を、開けると。


 懐かしい、匂いが、二人を、迎えた。


──────────────────────────────────────


「お帰り!」


 マルティナが、厨房から、飛び出してくる。


「無事、だったか!」


「ええ」


 ヒコは、頷いた。


「ただいま」


「戻りました」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、《現場管理袋》から。


 香辛料の、麻袋を。


 次々と、取り出し始めた。


──────────────────────────────────────


「これは……」


 マルティナが、目を、見開く。


「土産です」


 ヒコが、笑った。


「ラシュカールで」


「買い付けて」


「きました」


──────────────────────────────────────


 積み上がっていく。


 香辛料の、山。


 それを、見て。


 マルティナは、しばらく、言葉を、失っていた。


──────────────────────────────────────


「……これだけ、あれば」


「男カレーを」


「毎日、出しても」


「当分」


「困らないね」


──────────────────────────────────────


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「それに」


「これから」


「定期的に」


「仕入れる、道筋も」


「考えています」


──────────────────────────────────────


 その、言葉通り。


 以前から、準備を、進めていた。


 星の食堂は。


 数日後。


 正式な、営業を、始めた。


──────────────────────────────────────


 看板料理は。


 もちろん。


 男カレー。


──────────────────────────────────────


「これ」


「美味い!」


「初めて、食う、味だ」


 訪れた、冒険者達の、間で。


 瞬く間に、評判が、広がっていく。


──────────────────────────────────────


 辛さと、深み。


 複雑に、重なり合う。


 香辛料の、香り。


 ヴェルグラードの、住人達にとって。


 それは。


 まったく、新しい、味覚だった。


──────────────────────────────────────


 連日。


 店には、客が、詰めかけるようになった。


──────────────────────────────────────


「こんなに」


「繁盛するとは」


 マルティナが、忙しそうに、鍋を、かき混ぜながら、笑う。


「昔の」


「星の宿を」


「思い出すよ」


──────────────────────────────────────


 南方の、食文化が。


 少しずつ。


 この、拠点に、根付いていく。


 それは。


 同時に。


 ヒコが、思い描いていた、構想の。


 一歩でも、あった。


──────────────────────────────────────


 ある日。


 拠点の、二階。


 ヒコは、一枚の、地図を、広げていた。


──────────────────────────────────────


 ラシュカール。


 ヴェルグラード。


 そして。


 中央大陸南方に、位置する。


 フォルテス領。


──────────────────────────────────────


「マユミさん」


 ヒコが、地図の、上を、指で、辿る。


「香辛料の」


「流れを」


「ここまで」


「伸ばせないか」


「考えています」


──────────────────────────────────────


 マユミが、覗き込む。


「フォルテス領、まで?」


「ええ」


 ヒコは、頷いた。


「向こうには」


「ゴルフさんが」


「います」


「対外交渉には」


「慣れた、方です」


「話を」


「持ちかければ」


「きっと」


「乗ってくれます」


──────────────────────────────────────


 ラシュカールから、ヴェルグラード。


 そして。


 星の食堂を、経由し。


 フォルテス領へ。


──────────────────────────────────────


 一本の、道が。


 頭の、中で、繋がっていく。


──────────────────────────────────────


「これが」


「上手くいけば」


「拠点の」


「活動資金は」


「安定します」


 ヒコは、静かに、続けた。


「冒険者としての」


「稼ぎだけに」


「頼らなくても」


「良くなります」


──────────────────────────────────────


 マユミが、少し、笑った。


「ヒコ」


「本当に」


「そういうの」


「好きだよね」


「性分、なので」


 ヒコも、笑った。


──────────────────────────────────────


 こうして。


 ラシュカールから、ヴェルグラードへ。


 そして。


 フォルテス領へと、繋がる。


 香辛料の、道が。


 静かに。


 その、一歩を、踏み出した。


──────────────────────────────────────


 中央大陸での、大流行は。


 まだ、先の、話だ。


 だが。


 その、種は。


 既に。


 蒔かれていた。


──────────────────────────────────────


 夜。


 拠点の、二階。


 ヒコは、窓の外を、眺めながら。


 黄金砂漠遠征を、通じて、起きた、出来事を。


 思い返していた。


──────────────────────────────────────


 誘導された、戦闘。


 壊滅した、補給隊。


 地脈を、歪める、正体不明の、遺構。


 そして。


 リクの、覚醒。


──────────────────────────────────────


「狩りじゃない。選別だ」


 その、言葉は。


 今も。


 ヒコの、中に、残っていた。


──────────────────────────────────────


 誰かが。


 この、世界の、どこかで。


 何かを、動かしている。


 その、正体は。


 まだ、見えない。


──────────────────────────────────────


 だが。


 その、気配だけは。


 もう。


 消えることは、なかった。


──────────────────────────────────────


 道とは。


 最初から、あるものではない。


 誰かが、歩き。


 誰かが、運び。


 その、往来が、積み重なって。


 初めて。


 道に、なる。


──────────────────────────────────────


 ――それは。


 商いの、道だけではない。


 この、遠征で。


 ヒコ達が、辿った、道も。


 また。


 同じだった。



 第12話 黄金の、道 了

【次章予告】第3章 戦闘概念の再定義(灼熱火山郡)


 黄金砂漠の、先には。


 炎の、山々が、待っている。


 マユミの、力が。


 制御を、失いかける、その時。


 新たな、覚悟が、試される。


──────────────────────────────────────


【路銀・第12話時点】


・所持金:金貨35枚・銀貨9枚

 (-金貨30枚:香辛料買付/+金貨10枚:遠征、成功報酬)

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