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 第10話 砂の、都

 辿り着いた、場所には。


 いつも。


 新しい、匂いが、ある。


 それは。


 旅の、終わりの、匂いであり。


 同時に。


 新しい、旅の。


 ――始まりの、匂いでも、ある。

 地平線の、彼方に。


 白い、城壁が、見えた、時。


 隊列の、あちこちから。


 安堵の、声が、漏れた。


──────────────────────────────────────


「見えたぞ!」


「ラシュカールだ!」


──────────────────────────────────────


 誰もが、疲れきった、足を、奮い立たせ。


 少しずつ、歩みを、速めていく。


──────────────────────────────────────


 砂都、ラシュカール。


 城門を、くぐった、瞬間。


 これまでの、砂漠とは。


 まるで、違う、光景が、広がった。


──────────────────────────────────────


 色とりどりの、天幕。


 巨大な、移動市場。


 様々な、肌の色。


 様々な、衣装。


 聞いたことのない、言葉。


 人々が、行き交い。


 香辛料。


 織物。


 金属細工。


 様々な、品物が。


 所狭しと、並べられていた。


──────────────────────────────────────


「すごい……」


 ルナが、目を、輝かせる。


「こんな」


「街」


「初めて」


──────────────────────────────────────


 マユミも、辺りを、見渡しながら。


 頬を、緩めた。


「賑やか、だね」


「ええ」


 ヒコは、頷いた。


「南方大陸の」


「文化が」


「集まった、ような」


「街ですね」


──────────────────────────────────────


 依頼主の、商会は。


 隊商全体の、労を、ねぎらい。


 数日間の、休息を、正式に、決めた。


──────────────────────────────────────


 その、報せに。


 誰もが、心の底から。


 安堵の、息を、吐いた。


──────────────────────────────────────


 その、夜。


 暁の、四人は。


 宿の、食堂で。


 盛大な、打ち上げを、行っていた。


──────────────────────────────────────


「生きて」


「帰れた」


「ことに」


「乾杯!」


 トウマが、杯を、掲げる。


──────────────────────────────────────


「マジで」


「死ぬかと」


「思ったぜ」


 ガレスが、大きな、肉の、塊に、齧りつく。


──────────────────────────────────────


 リノは、少し、離れた、席で。


 静かに、その、様子を、眺めていた。


──────────────────────────────────────


「リノ」


「乾杯」


「しないの?」


 アリアが、隣で、尋ねる。


「するよ」


 リノは、杯を、持ち上げた。


 だが。


 その、視線は。


 少し、離れた、席で。


 静かに、質素な、食事を、取る。


 ヒコ達へと、向いていた。


──────────────────────────────────────


 翌日。


 ヒコと、マユミは。


 市場の、隅にある、小さな、屋台で。


 久しぶりの、まともな、食事を、楽しんでいた。


──────────────────────────────────────


「美味しい……!」


 マユミが、焼きたての、串肉に。


 頬を、緩ませる。


「砂漠での」


「日々が」


「嘘みたいです」


 ヒコも、静かに、笑った。


──────────────────────────────────────


「たまには」


「こういう」


「時間も」


「必要ですね」


「うん」


 マユミが、大きく、頷く。


「たまには」


「じゃなくて」


「もっと」


「あっても」


「いいと」


「思うけど」


──────────────────────────────────────


 その、言葉に。


 ヒコは、小さく、笑った。


「そうですね」


「考えて」


「おきます」


──────────────────────────────────────


 二人は、市場を、そぞろ歩きながら。


 久しぶりの、平穏な、時間を、過ごした。


──────────────────────────────────────


 一方。


 市場の、片隅では。


 別の、光景が、繰り広げられていた。


──────────────────────────────────────


 リクと、ルナが。


 並んで、露店を、覗いている。


──────────────────────────────────────


「これ」


「可愛い」


 ルナが、小さな、飾り物を、手に取る。


「よく」


「似合いそうです」


 リクが、静かに、答えた。


──────────────────────────────────────


 ルナの、頬が。


 少し、赤らむ。


「リクさん」


「そういうの」


「素直に」


「言うんだね」


「思ったことを」


「言うだけです」


──────────────────────────────────────


 その、様子を。


 少し、離れた、物陰から。


 じっと、見つめる、視線が、あった。


──────────────────────────────────────


 リアである。


──────────────────────────────────────


「……変な、虫が」


「付いて、いないか」


「確認、しているだけです」


 リアは、誰にともなく、そう、呟いた。


──────────────────────────────────────


 その、声を。


 たまたま、耳にした、ヒコが。


 通りすがりに、苦笑する。


「リアさん」


「今日は」


「休みですよ」


「休んで」


「います」


 リアは、即座に、答えた。


「これは」


「休みながらの」


「監視です」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、それ以上。


 何も、言わず。


 その場を、離れた。


 少しだけ。


 微笑ましい、光景だった。


──────────────────────────────────────


 市場の、さらに、奥。


 香辛料を、専門に、扱う、区画に。


 差し掛かった、時。


 ヒコの、足が。


 自然と、止まった。


──────────────────────────────────────


 見たことのない、色とりどりの、粉末。


 乾燥させた、香草の、束。


 異国の、香りが。


 幾重にも、重なり合って。


 辺りに、漂っている。


──────────────────────────────────────


「これは……」


 ヒコの、目が。


 輝いた。


──────────────────────────────────────


 一つの、露店の、店主が。


 気さくに、声を、掛けてくる。


「兄さん」


「香辛料に」


「興味が、あるのか」


「ええ」


 ヒコは、頷いた。


「以前」


「少しだけ」


「扱ったことが」


「あります」


──────────────────────────────────────


 店主が、嬉しそうに。


 様々な、種類の、香辛料を。


 並べていく。


 その、一つ一つを。


 ヒコは、真剣な、眼差しで。


 確かめていった。


──────────────────────────────────────


「マユミさん」


 ヒコが、振り返る。


「後で」


「もう一度」


「ここに」


「来ても」


「良いですか」


──────────────────────────────────────


 マユミが、笑いながら、頷く。


「うん」


「好きなだけ」


「見て、いいよ」


「今日は」


「ヒコの」


「休日」


「だから」


──────────────────────────────────────


 夕暮れの、光が。


 市場全体を、橙色に、染めていく。


 様々な、言葉。


 様々な、匂い。


 様々な、笑い声。


 それらが、入り混じる、この、街で。


 誰もが、それぞれの、時間を。


 穏やかに、過ごしていた。


──────────────────────────────────────


 辿り着いた、場所には。


 いつも。


 新しい、匂いが、ある。


 この、砂都、ラシュカールの、匂いを。


 ヒコは、深く、吸い込んだ。


──────────────────────────────────────


 この、匂いの、先に。


 まだ。


 誰も、知らない、何かが。


 待っている。


 だが。


 今、この、瞬間だけは。


 誰もが。


 旅の、疲れを、忘れ。


 平穏な、時間を。


 噛みしめていた。


──────────────────────────────────────


 ――その、地下深くで。


──────────────────────────────────────


 何かが。


 静かに。


 脈打っていた。



  第10話 砂の、都 了

【次回予告】王家の、影。


 休息の、合間。


 ヒコが、《可視化》で、感じ取った。


 地下深くに、眠る、何かを。


──────────────────────────────────────


【路銀・第2章 第10話時点】


・所持金:金貨55枚・銀貨9枚

(-銀貨5枚:休暇中のバカンス費用)

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