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 第2話 黄金の、地獄

 砂漠は。


 美しい。


 遠くから、見れば。


 だが。


 その中へ、踏み込めば。


 美しさは。


 ――牙に、変わる。

 出発の、朝。


 拠点の、前に、マルティナが、立っていた。


「留守は」


「任せな」


 マルティナは、腕を、組む。


「開店の」


「準備も」


「あるし」


「一人でも」


「なんとか」


「なるさ」


──────────────────────────────────────


「お願いします」


 ヒコは、頭を、下げた。


「無事に」


「帰ってきな」


 マルティナは、そう言って、笑った。


──────────────────────────────────────


 大規模な、隊商が。


 ヴェルグラードを、出発する。


 荷馬車は、二十台を、超えていた。


 商人。


 護衛の、冒険者。


 御者。


 そして、後方支援を、担う、者達。


 多くの、人間が、一つの、隊列となって。


 南西へと、進んでいく。


──────────────────────────────────────


 数日後。


 隊列は。


 黄金砂漠の、入り口に、辿り着いた。


──────────────────────────────────────


 見渡す限りの、砂丘。


 太陽の、光を、反射して。


 砂そのものが、黄金色に、輝いている。


 美しい、光景だった。


 だが。


──────────────────────────────────────


 昼になると。


 その、美しさは。


 一変した。


──────────────────────────────────────


 容赦のない、日差し。


 じりじりと、肌を、焼く、熱。


 空気そのものが、揺らいで、見える。


──────────────────────────────────────


「暑い……」


 マユミが、額の、汗を、拭う。


「これは」


「思って、いた」


「以上ですね」


──────────────────────────────────────


 夜になると。


 今度は、一転して。


 凍えるような、寒さが、隊列を、包んだ。


 昼と、夜。


 その、極端な、寒暖差が。


 体力を、確実に、削っていく。


──────────────────────────────────────


 そして。


 最も、重要なのが。


 水だった。


──────────────────────────────────────


 隊商全体で、決められた、配給量。


 それ以上は。


 原則として、誰にも、許されない。


──────────────────────────────────────


 ヒコは。


 自分達の、荷物を。


 改めて、確認していた。


 水袋の、配置。


 食料の、詰め方。


 予備の、布。


 それぞれの、重量。


 必要なものだけが。


 必要な場所に。


 無駄なく、収まっている。


──────────────────────────────────────


 その、様子を。


 少し、離れた場所から。


 リノが、見ていた。


──────────────────────────────────────


「……あれ」


 リノが、小さく、呟く。


「アリア」


「見て」


「あの人の」


「荷物」


──────────────────────────────────────


 アリアが、覗き込む。


「何が」


「気になるの?」


「無駄が」


 リノは、じっと。


 ヒコの、荷物を、見つめた。


「何一つ」


「ない」


──────────────────────────────────────


「水の、減り方も」


「私達と」


「全然」


「違う」


「同じ量を」


「持ってる、はずなのに」


──────────────────────────────────────


 アリアは。


 自分達の、荷物と。


 ヒコ達の、荷物を、見比べた。


 確かに。


 言われてみれば。


 ヒコ達の、荷物は。


 どこか、整然としている。


──────────────────────────────────────


「初めてなのに」


「……うん」


 リノは、頷いた。


「なのに」


「無駄が、ない」


──────────────────────────────────────


 その頃。


 夜営の、焚き火を、囲んで。


 隊商の、護衛達が。


 それぞれ、疲れを、癒していた。


──────────────────────────────────────


「にしても」


 トウマが、ぼやく。


「昼と、夜の」


「差が」


「エグいな」


「体、持って」


「いかれそうだ」


──────────────────────────────────────


 ガレスは。


 大きな、水袋を、抱えて。


 既に、半分近くを、飲み干していた。


「暑い時に」


「飲まねえと」


「やってらんねえ」


──────────────────────────────────────


 それを、見て。


 リノが、小さく、眉を、寄せる。


「ガレス」


「そのペースだと」


「後半」


「足りなく、なるよ」


「うるせえな」


「今、飲みたい」


「んだよ」


──────────────────────────────────────


 少し、離れた場所では。


 ヒコ達が、静かに、水を、口に、運んでいた。


 一定の、量。


 一定の、間隔。


 無理に、我慢するわけでもない。


 ただ。


 後で、困らないように。


 今を、調整している。


──────────────────────────────────────


 リクが、自分の、水袋を、確認しながら、言う。


「配分は」


「これで」


「良いですか」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「昼の、消費が」


「多い分」


「夜の、間に」


「少し、多めに」


「取っておきましょう」


──────────────────────────────────────


 リアも、その、やり取りを、聞きながら、頷いていた。


「合理的、です」


「魔法兵団でも」


「似たような、水分管理を」


「行います」


「ですが」


「ここまで、細かく」


「管理することは」


「ありません」


──────────────────────────────────────


「ヒコさんって」


 ルナが、大きな、あくびを、する。


「ほんと」


「いろんなこと」


「知ってるよね」


「昔の」


「経験が」


「役に立って」


「いるだけです」


 ヒコは、静かに、答えた。


──────────────────────────────────────


 翌日。


 隊列は。


 さらに、砂漠の、奥へと。


 進んでいった。


──────────────────────────────────────


 遠くに。


 水面のような、揺らぎが、見える。


 だが。


 それは。


 蜃気楼だった。


 近づけば。


 近づくほど。


 遠ざかっていく。


 幻の、水。


──────────────────────────────────────


 何人かの、護衛が。


 思わず、その、方角へ。


 足を、向けかける。


 隊長格の、冒険者が。


 鋭く、声を、飛ばした。


「隊列を」


「乱すな!」


「あれは」


「蜃気楼だ!」


──────────────────────────────────────


 方向感覚も。


 少しずつ、狂い始める。


 同じような、砂丘が。


 延々と、続く。


 どちらへ、進んでいるのか。


 不安になる、瞬間が。


 増えていく。


──────────────────────────────────────


 だが。


 ヒコは。


 周囲を、見渡しながら。


 現在地と、進行方向を。


 何度も、確認していた。


──────────────────────────────────────


 《可視化》が、ある。


 それでも。


 見えることと。


 迷わないことは。


 同じではない。


──────────────────────────────────────


 だからこそ。


 確認を、繰り返す。


──────────────────────────────────────


「大丈夫です」


 ヒコは。


 隊列の、方角を、確認して。


 静かに、告げた。


「進んでいます」


「方向も」


「合っています」


──────────────────────────────────────


 その、言葉に。


 隣を、歩く、マユミが。


 少しだけ、安心したように。


 息を、吐いた。


──────────────────────────────────────


 夜。


 再び。


 極寒の、中。


 焚き火の、周りに、集まりながら。


 ヒコは。


 砂漠を、見渡した。


──────────────────────────────────────


 美しい。


 だが。


 その、美しさの、裏には。


 容赦のない、厳しさが。


 潜んでいる。


──────────────────────────────────────


 この、環境そのものが。


 すでに。


 一つの、試練だった。


──────────────────────────────────────


 だが。


 ヒコの、直感が。


 小さく、囁いていた。


──────────────────────────────────────


 この、砂漠には。


 まだ。


 この、環境以上の。


 何かが。


 潜んでいる。


 そんな、気がした。



  第2話 黄金の、地獄 了

【次回予告】砂の、壁。


 夜半。


 前触れもなく。


 隊列を、巨大な、砂嵐が、襲う。


──────────────────────────────────────


【路銀・第2章 第2話時点】


・所持金:金貨56枚・銀貨4枚(変動なし)

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