第344話 二人の道
背中を押す言葉は。
時に、答えそのものよりも、大切だった。
――答えは、自分で、見つけるものだ。
だが。
その、答えに、辿り着くまでの道を。
誰かと、歩けることは。
何よりの、支えになる。
執務室。
夜。
ヒコは、机の上に、広げた資料を、見つめていた。
循環統治への、移行案。
評議会の、意見。
それぞれの、想い。
どれも、まだ、一つの答えには、なっていない。
──────────────────────────────────────
扉が、静かに、開いた。
マユミが、入ってくる。
「まだ」
「悩んでる?」
「はい」
ヒコは、正直に、答えた。
「皆さんの、言葉が」
「まだ」
「胸の中で」
「渦を、巻いています」
──────────────────────────────────────
マユミは、いつものように、隣に、腰を、下ろした。
しばらく、二人とも、何も、言わなかった。
やがて、マユミが、静かに、口を、開いた。
「ねえ」
「ヒコ」
「はい」
「聞いても、いい?」
「もし」
「循環統治が」
「認められなかったら」
「どう、する?」
──────────────────────────────────────
ヒコは、しばらく、考えた。
「その時は」
「これまで通り」
「この地を」
「支え続けます」
「それも」
「一つの、道だと」
「思っています」
──────────────────────────────────────
「じゃあ」
マユミは、続けた。
「もし」
「認められたら」
「どう、する?」
ヒコは、また、しばらく、考えた。
「まだ」
「はっきりとは」
「分かりません」
「でも」
「私は」
「きっと」
──────────────────────────────────────
ヒコは、窓の外の、暗闇を、見つめた。
「もう一度」
「地面を」
「見に、行きたいと」
「思うかもしれません」
──────────────────────────────────────
マユミは、その、言葉に、少し、笑った。
「やっぱり」
「それ」
「ドガンさんも」
「バルドさんも」
「言ってたね」
「地面ばかり、見てたって」
──────────────────────────────────────
ヒコも、小さく、笑った。
「はい」
「懐かしい、話です」
「あの頃は」
「まだ」
「何も、なかった」
「土を」
「掘って」
「測って」
「そこに」
「何が、あるのかを」
「知るのが」
「楽しかった」
──────────────────────────────────────
「今は」
ヒコは、続けた。
「多くの、ことを」
「決めなければ、ならない立場に」
「なりました」
「でも」
「本当は」
「今でも」
「あの頃の、感覚が」
「一番」
「自分らしいと」
「感じています」
──────────────────────────────────────
マユミは、静かに、ヒコの、話を、聞いていた。
やがて、真剣な、顔で、言った。
「ヒコ」
「はい」
「あなたは」
「権力を」
「欲しいわけじゃ、ない」
──────────────────────────────────────
その、言葉に。
ヒコは、マユミを、見た。
「ずっと」
マユミは、続けた。
「現場の、人間だった」
「領主に、なっても」
「フォルテス卿に、なっても」
「あなたの、中身は」
「ずっと」
「変わってない」
──────────────────────────────────────
「土を」
マユミは、続けた。
「掘って」
「測って」
「何かを」
「作る」
「そこに」
「答えが、あると」
「信じてる」
「そういう、人」
──────────────────────────────────────
ヒコは、しばらく、何も、言えなかった。
マユミの、言葉が。
自分でも、はっきりと、言葉に、できていなかった何かを。
的確に、言い当てていた。
──────────────────────────────────────
「だから」
マユミは、静かに、続けた。
「私は」
「あなたが」
「循環統治を」
「提案したことを」
「後悔、してほしくない」
「それは」
「あなたが」
「あなたらしく」
「生きるための」
「選択だと」
「思うから」
──────────────────────────────────────
「後押し」
ヒコが、呟いた。
「してくれるんですか」
「うん」
マユミは、頷いた。
「ずっと」
「思ってた」
「あなたは」
「玉座の、上より」
「現場の、地面の、上が」
「似合う」
──────────────────────────────────────
「だから」
マユミは、続けた。
「評議会が」
「どんな、答えを、出しても」
「私は」
「あなたが」
「あなたらしく、生きられる道を」
「一緒に」
「探す」
──────────────────────────────────────
ヒコは、深く、息を、吸った。
そして、静かに、頷いた。
「ありがとうございます」
「マユミさんの、言葉で」
「自分が」
「本当に」
「望んでいるものが」
「少し」
「見えてきた、気がします」
──────────────────────────────────────
「王座では、なく」
ヒコは、続けた。
「現場」
「守るための、仕組みを」
「作ること」
「それが」
「私の」
「本当の、役割」
「なのかもしれません」
──────────────────────────────────────
マユミは、小さく、笑った。
「やっと」
「言葉に、できたね」
「はい」
ヒコも、頷いた。
「マユミさんの、おかげです」
──────────────────────────────────────
夜が、更けていく。
二人は、しばらく、無言のまま。
窓の外の、暗闇を、見つめ続けていた。
言葉は、もう、多くを、必要としなかった。
──────────────────────────────────────
背中を押す言葉は、時に、答えそのものよりも、大切だった。
答えは、自分で、見つけるものだ。
だが、その、答えに、辿り着くまでの道を。
誰かと、共に、歩けることは。
何よりの、支えになる。
ヒコは、その、支えを、確かに、感じながら。
自分の、進むべき道を。
静かに、見つめ始めていた。
第344話 二人の道 了
【次回予告】評議会の答え。
答えは、静かに、しかし、確かに、届いた。
──────────────────────────────────────
【領地収支・第344話時点】
・所持金:金貨4773枚(変動なし)
──────────────────────────────────────
【発展進捗・第344話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:90%(変動なし)
・インフラ:105%(変動なし)




