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 第342話 長影月の収支

 二人だけの、静かな時間にも。


 答えは、宿る。


 ――言葉に、しなくても。


 隣に、いるだけで。


 伝わるものが、あった。

 長影月、一日。


 評議会の間。


 ゴルフが、帳簿を、広げる。


「今月の、収支報告です」


──────────────────────────────────────


「収入は」


 ゴルフが、順に、読み上げていく。


「安定して、推移しています」


「支出も」


「例年通りです」


 バルドが、資料に、目を、通した。


「今月の、増減は」


「+119枚」


 ゴルフが、答える。


「所持金、金貨4773枚と、なります」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、腕を、組んだまま、頷いた。


「悪くない、数字だ」


「南方の、後始末も」


「落ち着いてきている」


──────────────────────────────────────


 バルドが、続けて、資料を、まとめた。


「循環統治への、移行案について」


「その後」


「皆さんから」


「いくつか」


「意見を、頂いています」


「引き続き」


「整理を」


「進めましょう」


──────────────────────────────────────


 会議は、いつもより、静かに、進んだ。


 誰もが、この大きな決断の重さを、感じ取っているようだった。


──────────────────────────────────────


 会議の後。


 ヒコと、マユミは、二人で、街を、歩いていた。


 長影月らしく、夕日に照らされた、二人の影が、長く、地面に、伸びている。


──────────────────────────────────────


「今日も」


 マユミが、呟いた。


「静かだったね」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「皆さん」


「真剣に」


「考えてくれています」


──────────────────────────────────────


 二人は、しばらく、無言で、歩いた。


 夕暮れの、街並みが、二人の、影を、ゆっくりと、伸ばしていく。


──────────────────────────────────────


 街外れの、小さな、丘に、辿り着いた。


 ここからは、フォルテス領の、全体が、見渡せる。


 二人が、よく、訪れる、場所だった。


──────────────────────────────────────


 マユミが、丘の上に、腰を、下ろした。


「ねえ」


「はい」


 ヒコも、隣に、座る。


「ヒコは」


「本当に」


「これで、いいと」


「思ってる?」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、考えた。


「分かりません」


「正直に、言えば」


「怖い、気持ちも」


「あります」


──────────────────────────────────────


「この地を」


 ヒコは、続けた。


「一人で、支えることに」


「慣れて、しまっていました」


「でも」


「それが」


「この地の」


「弱点にも」


「なっていたのかもしれない」


「その、両方が」


「本当のことです」


──────────────────────────────────────


 マユミは、静かに、ヒコの、話を、聞いていた。


 やがて、遠くの、街並みを、見つめたまま、言った。


「私は」


「ずっと」


「決めていることが」


「ある」


「何ですか」


「ヒコが」


「決めるなら」


「わたしは」


「ついていく」


──────────────────────────────────────


 その、言葉に。


 ヒコは、マユミの、方を、見た。


「循環統治が」


「認められても」


「認められなくても」


「ヒコが」


「この地に」


「残っても」


「出て、行っても」


「わたしは」


「一緒」


──────────────────────────────────────


「それは」


 ヒコが、尋ねた。


「私の、決断を」


「支持する、という、ことですか」


「違う」


 マユミは、首を、横に、振った。


「支持とか」


「そういう、話じゃない」


「ヒコが」


「どこに」


「向かっても」


「わたしは」


「隣に、いる」


「それだけ」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、言葉を、失っていた。


 やがて、静かに、頷いた。


「ありがとうございます」


「その、言葉が」


「今」


「一番」


「支えに」


「なります」


──────────────────────────────────────


 マユミは、少し、笑った。


「大げさ」


「いいえ」


 ヒコは、正直に、答えた。


「本当に」


「そう」


「思っています」


──────────────────────────────────────


 二人は、しばらく、無言で、夕暮れの、景色を、眺めていた。


 街の、灯りが、一つ。


 また、一つと、灯り始める。


 その、光の、一つ一つに。


 この地で、暮らす、人々の、日常が、あった。


──────────────────────────────────────


「決めるのは」


 ヒコは、静かに、呟いた。


「まだ」


「先の、ことです」


「でも」


 ヒコは、マユミの、手を、そっと、握った。


「あなたが」


「隣に、いてくれる」


「それだけで」


「決断を、下す」


「勇気が」


「湧いてきます」


──────────────────────────────────────


 マユミは、その、手を、握り返した。


「うん」


「一緒に」


「決めよう」


──────────────────────────────────────


 夜が、静かに、フォルテス領を、包んでいく。


 二人だけの、静かな時間にも。


 答えは、宿る。


 言葉に、しなくても。


 隣に、いるだけで。


 伝わるものが、あった。


 ヒコの、心の中で。


 答えは、まだ、完全な、形を、成していない。


 だが。


 その、輪郭は。


 確かに、少しずつ、見え始めていた。


 第342話 長影月の収支 了

【次回予告】評議会の思い。

 語られなかった言葉ほど、重く、心に、残る。


──────────────────────────────────────


【領地収支・長影月一日時点】


・所持金:金貨4773枚(+119)


 収入内訳

 ・冒険者固定給  金貨   42枚

 ・勲爵士給与   金貨   12枚

 ・外部取引    金貨  106枚

 ・ギルド収益   金貨   56枚

  合計      金貨  216枚


 支出内訳

 ・幹部級給与   金貨   24枚

 ・準幹部級給与  金貨    9枚

 ・一般職給与   金貨   40枚

 ・部門運営費   金貨   24枚

  合計      金貨   97枚


──────────────────────────────────────


【発展進捗・長影月一日時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:90%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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