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 第340話 循環への移行

 積み上げてきたものを。


 次の形へ、渡す時が、来る。


 ――それは。


 終わりではなく。


 積み上げてきたものを。


 信じる、ということだった。

 評議会の間。


 いつもの、顔ぶれが、揃っていた。


 だが、その日の、空気は。


 いつもと、少し、違っていた。


──────────────────────────────────────


「今日は」


 ヒコが、静かに、切り出した。


「皆さんに」


「話したいことが」


「あります」


──────────────────────────────────────


 全員の、視線が、ヒコに、集まった。


 ヒコは、しばらく、間を、置いた。


 そして。


 ゆっくりと、言葉を、選びながら、続けた。


「この一年」


「いえ」


「この二年」


「私達は」


「多くのことを」


「積み上げてきました」


──────────────────────────────────────


「弾劾請求」


「情報流出」


「南方廃址の、暴走」


「その、一つ一つを」


「私一人ではなく」


「皆さんの、力で」


「乗り越えてきました」


──────────────────────────────────────


「私が」


「南方へ」


「向かっていた間」


「この地は」


「問題なく」


「機能しました」


「それは」


「偶然では」


「ありません」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、一拍、置いた。


「だから」


「私は」


「正式な、提案を」


「したいと、思います」


──────────────────────────────────────


 評議会の間に、静かな、緊張が、走った。


 ヒコは、はっきりと、告げた。


「領主権限の、一部を」


「評議会へ」


「恒常的に、移し」


「合議によって」


「日常の、領地運営を」


「行う、仕組みへ」


「移行することを」


「提案します」


──────────────────────────────────────


 評議会の間が、しんと、静まり返った。


 バルドが、しばらく、何も、言えずにいた。


「それは……」


 ようやく、声を、絞り出す。


「ヒコ様が」


「統治から」


「退かれる」


「という、ことでしょうか」


──────────────────────────────────────


「いいえ」


 ヒコは、はっきりと、首を、横に、振った。


「今すぐに」


「すべてを」


「手放す、という、話では」


「ありません」


「私は」


「これからも」


「領主として」


「責任を、持ちます」


──────────────────────────────────────


「ですが」


 ヒコは、一拍、置いた。


「日常的な、判断を」


「私一人が」


「担い続けることの」


「意味を」


「見直したいと」


「思っています」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、腕を、組んだまま、口を、開いた。


「理由を」


「聞いても、いいか」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「南方の、暴走」


「弾劾請求」


「セドリックの、消息」


「その、すべての、背後に」


「私が」


「この地の」


「象徴で、あり続けることが」


「関わっているのではないかと」


「感じています」


──────────────────────────────────────


「ハイム子爵からも」


 ヒコは、続けた。


「言われました」


「私が」


「この地に」


「留まり続ける限り」


「狙われ続ける、と」


──────────────────────────────────────


 評議会の間が、静かに、ざわめいた。


 ガデルが、身を、乗り出す。


「それで」


「逃げる、って、ことか」


「いいえ」


 ヒコは、はっきりと、否定した。


「逃げるのでは、ありません」


「この地を」


「一人の、象徴に」


「頼らない、形に」


「変えたいんです」


──────────────────────────────────────


「一人が」


 ヒコは、続けた。


「すべてを、背負う、仕組みは」


「強く、見えて」


「実は」


「脆いんです」


「その、一人が」


「狙われれば」


「全体が」


「揺らいでしまう」


──────────────────────────────────────


「でも」


 ヒコは、評議会の、皆を、見渡した。


「今の、この地は」


「違います」


「私が、いなくても」


「動く、仕組みが」


「もう」


「できています」


「それを」


「正式な、形に」


「したいんです」


──────────────────────────────────────


 バルドは、しばらく、考えていた。


「ですが」


「それは」


「大きな、決断です」


「一朝一夕には」


「決められません」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「分かっています」


「今日、すぐに」


「答えを」


「求めているわけでは」


「ありません」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、静かに、言った。


「お前は」


「もう」


「決めているのか」


「自分の、中では」


 ヒコは、しばらく、考えてから、答えた。


「はい」


「これが」


「この地にとって」


「一番いい、形だと」


「思っています」


──────────────────────────────────────


「ですが」


 ヒコは、続けた。


「これは」


「私一人の、決断では」


「ありません」


「皆さんの、意見を」


「聞かせて、ください」


「時間を」


「かけても」


「構いません」


──────────────────────────────────────


 評議会の間に、重い、沈黙が、流れた。


 誰も、すぐには、答えを、出せなかった。


 それぞれが、それぞれの、思いを、抱えているようだった。


──────────────────────────────────────


 バルドが、ようやく、口を、開いた。


「分かりました」


「皆で」


「持ち帰って」


「考えましょう」


「はい」


 ヒコが、頷いた。


「よろしく」


「お願いします」


──────────────────────────────────────


 会議が、終わった、後。


 評議会の間には、しばらく、誰も、動かなかった。


 それぞれが、それぞれの、席で、静かに、考え込んでいた。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、《可視化》で、その、様子を、静かに、見つめた。


 いつもの、明確な、色の流れとは、違う。


 揺れながら。


 それぞれの、方向へ。


 向かおうとしている。


 まだ、答えは、出ていない。


 だが、その、揺らぎこそが。


 この地が。


 次の、形へと。


 進もうとしている、証だった。


──────────────────────────────────────


 積み上げてきたものを。


 次の形へ、渡す時が、来る。


 それは、終わりでは、ない。


 積み上げてきたものを。


 信じる、ということだった。


 ヒコは、静かに。


 皆が、出す、その答えを。


 待つことにした。


 第340話 循環への移行 了

【次回予告】問いかけ。

 賛成も、反対も、同じだけの、想いから、生まれる。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第340話時点】


・所持金:金貨4654枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第340話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:90%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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